43.後夜祭2<騎士王の決断>
「赤坂凛さん、よかったら俺と一緒に踊ってもらえませんか?」
「おい、何を言ってるんだ!?」
俺の言葉に妻田が反論をする。ああ、そうだろうな。本来ならば俺がリア充への恨みつらみを話すはずだったのだからな。それとは反対に、中村は俺をまるで親鳥が子供を見守るような目でみている。ああ、やはりこいつは俺の気持ちに気づいていたのだろう。ありがとうな、だから俺は俺のやりたいようにやるよ。
「何がRZK団だ、バカバカしい!! 俺だって彼女が欲しいんだよ、ごめんな、非リアども!! 己の非モテっぷりを悔やむがいい!!」
その言葉と共に俺は纏っていたローブと仮面を脱いで捨てる。いや、色々考えたんだよ、でもさ、俺達は単に自分が、リア充になれないから妬んでるだけで、実際はリア充たちになりたいんだよ。だって妻田とかしょっちゅう告白して失敗しているけど成功したら抜ける気じゃん。何で俺だけ自重しなきゃいけないんだよ、あほか死ね!!
「くそが、ぶっ殺してやる!! みんな裏切り者を処刑しろ!!」
妻田の号令でもてない男たちが俺を捕えようとやってくる。ああ、これでいい。これで赤坂やもっとさきに裏切っていた如月にもヘイトはたまらないし、RZK団のやつらも俺でストレス解消できるだろう。それに俺が逃げればこいつらは後夜祭何てほっぽり出して俺への報復へ集中するだろう。
俺は驚いた顔をしていた赤坂をみて心の中で謝る。ごめんな、一緒に踊れなくってさ……赤坂はようやく事態を理解したのか顔を真っ赤にしていたが、こちらをみて一瞬ほほ笑むと足を持ち上げダンっ!! と地面を踏みぬいた。
え、ごめん、なにこれ怖いんだけど!! 待って、人が出せる音なの? すっげえ轟音だよ。その音に俺だけでなく、俺に襲い掛かろうとしたやつらも動きを止めて、赤坂に注目をする。そんな注目の中、彼女は俺を見つめながらまっすぐこちらに歩いてくる。
「ごめんなさい、私は彼と踊るのだから邪魔をしないで欲しいのだけれど」
「ひぃ!! ごめんなさい」
俺と赤坂の間にいた名前もわからない男子生徒が赤坂に睨まれて悲鳴を上げて逃げ出してしまった。それを見た他の男子達も慌てて道を開ける。モーゼかな?
俺は奇跡を見ている気分で赤坂をみつめる、あいつ身長高いし、美人だからにらまれると結構迫力あるんだよな。
「ちょっと待て、俺達は今からこいつに制裁を……」
「聞こえなかったかしら、私は邪魔をしないでと言ったのよ」
「すいませんでしたーーーー!!!」
俺と赤坂の間に入り込んだ妻田だったが赤坂に睨まれて一瞬で撃退されていた。でもちょっと尊敬したよ。あいつあの赤坂に喰いかかるなんてガッツあるよな……まあ、ガッツが無いと何回もいろんな女の子に告白しないと思うが。
まるで道端に落ちているごみをみるような目で妻田を見つめていた赤坂だったが、俺と目が合うと顔を真っ赤にしてもじもじし始めた。これもツンデレなのかな? ギャップがありすぎてこわいんだけど……萌えないよ!! むしろ、恐怖しか感じないんだけど!!
「安心院……浮気とかしたら多分死んじゃうから気を付けてね……」
中村がまるでドナドナされる羊を見るような目で俺を見送った。待てよ、お前、さっきまで味方だったじゃん。最後まで味方しろよ!! 俺が赤坂の方に行こうか、躊躇していると中村に押された。そして、俺はよろめきながら誰かにぶつかり勢いで抱き着いてしまった。柔らかいような固いような何とも言えないけれど、洗剤か何かの甘い匂いがする。赤坂だーー。え? いつの間にか目の前にいるんだけど!! 瞬間移動かな?
「その……積極的なのは嬉しいけどここだとちょっと恥ずかしいわね……あ、別に嫌ってわけじゃないのよ。その……私も心の準備があるのよ」
そう言って顔を赤らめてもじもじしている姿はとても可愛らしい……おそらく怖い赤坂も可愛らしい赤坂も両方彼女なのだ。そして恐怖した俺も、可愛らしいなと思っている俺も両方とも彼女への感情だ。あー、わかったよ。俺も覚悟を決めればいいんだろう? なんだかんだ俺もこの女の事が気になっているのだ。
「この前最後まで踊れなかったからな、俺と踊ってくれるか?」
「ええ、こちらこそ踊ってください」
そして赤坂のおかげで暴徒と化しそうだった連中も落ち着いたこともあり、カップル達が続々と後夜祭の会場に入りダンスがはじまる。俺と赤坂は本番踊れなかったうっぷんを晴らすかのように踊り続ける。練習をしていたためか、スムーズに踊れ楽しいと思う。俺が踊りを楽しんでいると赤坂がうるんだ目でみて、こちらを見つめてきた。
「その……一緒に踊ってくれるって事はその……結婚してくれるってことでいいのよね」
「え?」
いや、待って、付き合うって話だったよね、結婚ってまだ俺は高校生なんだけど!! 何なら初彼女なんなんだけど!! さきほどの妻田達への言動を思い出す。喧嘩したら反論できなさそうだし、一生尻に敷かれそうだし、殺されそうなんだけど……
「いいのよね……?」
彼女は不安そうに俺を見つめる。その顔は今にも消えてしまいそうなくらい儚くて……だけど俺の手を握っている手の力がやべえ!! 折れる折れる!! 断ったら殺されんのかな……などととちゃらけている場合ではないだろう。いや、痛いのは本当なんだけどな。
「その結婚を前提にお付き合いでお願いします」
「ええ、よろしくね、浮気したら殺しちゃうかも……なんてね」
俺の言葉に彼女は目に涙をうるわせながら抱き着いてきた。そして冗談っぽく笑いかけてくる顔はとても可愛らしかったけれど、俺は本当に浮気した殺されそうだなと思ってしまった。