41.文化祭二日目その3<魔女の騎士と黄泉の魔女の恋愛譚 フェイズ3>
「万ちゃんどうしたんですか?」
「あ、魔女のおねーちゃん!!」
泣いている彼女に紅が声をかけるとぱっと目を輝かせてこちらに寄ってきた。魔女と呼ばれ紅が焦って周りを見回して誰も聞いていないのを確認して安堵の吐息を吐いた。
「万ちゃん、私が魔女であることはほかの人には教えては駄目なんです、わかりましたか?」
「うん、わかった!! お姉ちゃんはプリ〇ュアみたいだね」
「ふっ、残念ですが私は黄泉の魔女なのです。どちらかというとプリキ〇アの敵ですね」
紅と万ちゃんが微笑ましい会話をしている。それにしても紅って子供が好きなんだろうか、万ちゃんともすぐに仲良くなったよな。それとも、精神年齢が同じくらい……などと言ったらぶん殴られそうだな。
それはともかく、魔法少女紅か……やっべえ、想像の中の紅可愛いな。俺はちょっと露出の高い格好をした姿を想像してにやけてしまう。いかんいかんそんなことを考えている場合ではない。
「それで万ちゃん、泣いていたけど一体どうしたんだ?」
「あのね……今日志郎が頑張ってるからお守り作って持ってきたんだけど落としちゃったの」
「あ。もしかして私に護符の作り方を聞いてきたのって……」
「うん、志郎が今回の出し物を作るの頑張ってたから、成功するようにって祈って作ったの」
俺の言葉にいつのまにか紅と連絡先を交換していたらしき万ちゃんは、また涙を浮かべてしまう。うおお、どうすりゃいいんだよ。俺がてんぱっていると紅がしゃがんで万ちゃんの頭を撫でる。
「大丈夫よ、お姉ちゃんが一緒に探してあげましょう、神矢もそれでいいですね」
「ああ、構わないが次の公演の時間が……」
紅の言葉に俺は一瞬言いよどむ。次の公演まであまり時間はない、すぐ見つかればいいがそうでない場合、公演が中止になってしまい天草先輩に負ける可能性があるのだ。最悪知り合いに探すのを頼んで俺達は公演に行けばいいのではないだろうか? あー、でも万ちゃんを知らない人に任せるのは可哀そうだよなぁ。俺が悩ましい顔をしていたからだろう紅が俺の目を見ながら囁く。
「神矢……魔女はね、自分の仲間を見捨てたりしないのよ」
「いいのか、天草先輩に負けるかもしれないんだぞ」
「そんなものよりもっと大事なものがあるでしょ。私のプライドよりも魔法を信じてくれる、いたいけな少女のお願いの方が大事なのよ。それとも神矢はそんな甘い私は嫌いかしら?」
「いや、惚れ直したわ。黒竜の騎士はお前についていくよ」
「うふふ、魔女のチャームは強力なのよ。あなたはこれから何度も惚れ直すわよ」
そういうと紅は万ちゃんと手を繋いで歩き始める。その姿に俺は少しかっこいいなと感動してしまった。
「どうしたの、魔女のおねーちゃん顔真っ赤だよ」
「気のせいです!! それでどこに落としたか大体の予測はついていますか?」
自分で言っててはずかしくなったんだろうな。万ちゃんと紅のやり取りをみながら俺はスマホで恵理子に事情を説明し、複数の友人にお守りらしきものがないか、探してほしい旨を伝える。これでどうなるかな。
「ふははははは、どうした負け犬の魔女、略して負け魔女よ、早く魔法はありませんでしたと言うのだな!!」
「くっ、うるさいわね……」
あのあと校内を必死に探した俺達は無事万ちゃんのお守りを見付け出したのだが、結局最後の公演には間に合わずに中止してしまったため、客の動員数で僅差で負けてしまったのだ。結果報告もあり万ちゃんと一緒に天草先輩の所に向かって開口一番これである。
天草先輩は事情を知らないのだが、これはまずいよなぁ……恐る恐る万ちゃんを見ると頬を風船のように膨らませて不機嫌そうにしている。
「おお、万、そんな負け魔女は放っておいて、せっかくだから俺の発明をみていくといい。プリ〇ュアやまど〇ぎもあるぞ」
「やだ!!」
「えっ?」
プイっと顔をそらした万ちゃんの反応に天草先輩は世界の終りの様な顔へ変貌した。天草先輩のそんな顔はじめてみたんだけど、大丈夫かな?
「志郎の馬鹿!! 魔女のおねーちゃんは私を助けてくれたのに、ひどく言うなんて信じらんない!! そんな志郎大っ嫌い!!」
「うおおお、万!? いってぇ」
そういうと万ちゃんはお守りを天草先輩に投げつけて走り去ってしまった。しばらく呆然としていた天草先輩だったが、お守りを拾ってからあわてて万ちゃんを追いかける。
「俺は何をみせられているんだ?」
「ああ、師匠は知らないだろうけど、天草先輩はシスコンなんだよね、いつもの事だから気にしないで。それにしても魔女さんずいぶん万ちゃんと仲良くなったね。羨ましいなぁ」
「ふふ、あの子は見所があるのよね。やはり魔女同士は惹かれ合うのよね」
白石さんの言葉に紅はちょっと得意げに笑った。スタンド使いみたいなこと言ってんな。こいつまさか万ちゃんを眷属にするつもりじゃないだろうな? あ、でも科学使いを兄に持つ魔女って何かかっこよくない? 最終決戦とかで科学と魔法の合体技とか使いそうじゃん。
「それにしても惜しかったね、最後の公演ができていれば天文部の勝ちだったのに……」
「それはいいのよ、勝負より大事なものがあるしね。それにあれを見る限り勝負には負けたけどなんか勝った気がするわ」
白石さんの言葉に紅は天草先輩の去った方をみてふふんと得意げに笑った。天草先輩の事だし、万ちゃんから話を聞いたら謝ってきそうだよな、根はいい人っぽいし。
まあ、勝負には負けたが俺も紅と一緒に色々やれて楽しかったしな。紅とダンスを踊ったり、オリオンとアルテミスを演じたりいい思い出ができたものだ。
「まあ、魔女さんが納得しているならいいんだけど……あ、せっかくだから後夜祭は参加してくれると嬉しいな。少しだけど花火が上げたりしてしてちょっとロマンチックだよ。カップルとかはキスをする人とかもいるんだってさ。師匠達も存分にイチャイチャしていいからね」
「なっ?」
「はっ? イチャイチャなんてしないわ。なにいってんのよ!!」
「そうなんだぁー、付き合ってるのにもったいないね。高校二年の文化祭は人生に一回きりなんだよ。しばらく天草先輩は使い物にならないだろうし、私は文化祭実行委員の仕事があるからまたねー」
そう言って白石さんは意地の悪い笑いを浮かべながら去っていった。俺と紅は顔を真っ赤にしながら向かい合う。キスか……勝負に勝ったらって話だったけど負けてしまったしな……
確かに後夜祭って雰囲気がいいんだよなぁ。踊ったら付き合えるっていうジンクスもその雰囲気の良さから発展したものだろうし、それにしても去年は妨害する立場だった俺が今度はこっち側にくるなんて……
「ねえ……神矢、約束の件だけど……」
「あー!! あいつら絶対何かやるじゃん!!」
確かにメインメンバー三人になったが、こういうイベントの時にのみに働くRZK団のやつらは何人もいるのだ。絶対ロクなことをしないだろう。俺が紅と後夜祭を楽しむには安心院達を倒すしかないか……
俺がそのことを言おうとすると紅がすっごいムスっとした顔をしていた。
「あれ、紅なんかすっごい不機嫌になってない?」
「なんでもないわよ、馬鹿」
紅は絶対なんでもなくない顔でそう言った。あれ、俺なんかやっちゃった?
ようやく落ち着いた時間が取れました。次から後夜祭です。
漫画とかではよく見ますけど後夜祭って本当にあるんですかね?
関係ありませんが新作の短編を書いてみました。読んでくださると嬉しいです。
ドMな俺が推している美人で暴力系ツンデレヒロインな立花飛鳥を負けヒロインにはさせはしない
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