35.天文部<魔女と騎士の館>
「付き合ってくれてありがとうな、白石君」
「いえいえ、これも文化祭実行委員の仕事ですから」
少し申し訳なさそうにしている天草先輩に私は笑顔で答える。先輩から聞いたところ、如月君から出し物の準備ができたから来てくれと連絡が来たそうだ。しかもできれば異性と来てほしいと。
もしかして彼は私に気を使ってくれたのかなと思う。昔から彼はそういう人だった。自分の事しか考えていないようで、周りをみてサポートをする。だからこそ沖田君も彼と仲良しなのだろうと思う。
「それにしてもプラネタリムとはデートみたいですね、先輩」
「なっ……デート?」
どうやら天草先輩は全然意識をしていなかったらしい。私の言葉にあたふたしている姿が少し可愛い。この人は自分の興味のある事以外からっきしなんだよね、まあ、そこもまた魅力的なんだけど。
良い雰囲気になって、少しは私達も進展したりしないかなと思った私だったが、五奇人を舐めていたなと部室の前について私は自分の認識の甘さを呪った。
「あの……天文部の出し物ってプラネタリウムですよね……お化け屋敷じゃないですよね……」
「ああ、そのはずだが……何か書いてあるな」
禍々しいサソリと弓を持った女性に追いかけられた半裸の男性が恐怖の表情で追い回されている絵の上にプレートがあり、なにやらミミズみたいな文字で書かれている。なんかの暗号かな? これは誰が書いたんだろう。
「ふむ、ギリシア語だな『オリオンの物語』と書いてあるぞ。なるほど……オリオンの逸話はギリシャ神話だし……冬と言えばオリオン座が有名だからな」
「いや、なんで普通に読める上に、思考を理解しているんですか?」
感心した様子の天草先輩につっこむ。改めて思うけどこの人無駄にスペック高いなぁ。でも……如月君は相変わらずの様で私は安心する。むしろ魔女さんと相乗効果で悪化している気がするがそれでいいのだろう。
それにしても天草先輩と如月君は結構似ていると思う。天草先輩は科学に如月君はファンタジーに傾倒しているけれど、そこからの二人の行動力は異常である。多分魔女さんに言ったら否定すると思うけどそもそも似ているっていうことは違うって事だからね。似て非なるものって言葉もあるし。
「よし、扉をあけるぞ」
天草先輩は意を決して扉を開く。あれだね、如月君だったら魔王の間につっこむとかいいそうだよね。ちょっと冒険みたいでテンションがあがる。
室内に入った私たちへの最初の洗礼は暗い教室の中で顔にかかる煙だった。ぷしゅーと音と共に煙が舞い上がる。匂いはないがあまり気分のいいものではない。教室の中は観客席らしきイスが半円を描くように並べられており、なぜかステージのようなものが作られている。いや、本当になんで? プラネタリウムだよね?
『天文部のプラネタリウムへようこそ。冬の星座と言えば冬の大三角形が有名ですね。今日はその一部であるオリオン座について説明をしたいと思います』
綺麗な声のナレーションと共に天文部の部室の天井に綺麗な星々が映し出され、そのうちの一部が光り輝いて人を形作った。これはオリオン座だ!! 中々やるなぁ。おそらくプロジェクターなどは科学部の備品なのだろうが結構がんばっているようだ。
『オリオンは狩りの名人として知られており……」
などと感動しているとナレーションと共に人影がステージのようなところに現れた。なんか変な白い服を着ているけど如月君だ。彼は何を思ったか弓を構え天草先輩に向かって矢を放った。
「うおおおおおお? ってCGか!! くそが!!」
矢を受けた天草先輩が一瞬驚くがすぐに偽物とわかり舌打ちをした。あれ、私達プラネタリウムを観に来たはずなのになんでアトラクションに遊びに来た時みたいになっているんだろう。その後もナレーションは続いていく。
『アルテミスと結ばれし、オリオンは……」
何やら白い外套のような服を着た魔女さんは楽しそうに如月君と談笑して……あ、手を繋いでる。でもちょっと恥ずかしいのか顔を真っ赤にしている。可愛い……というかこれって単に二人でいちゃつきたかったんじゃ……
『ところが幸せは長く続きませんでした。二人の関係をよく思わない神によってオリオンは罠に嵌められてしまうのです。天井をごらんください』
そのナレーションと共に再び室内が暗転した。星々に線が描かれてオリオン座とその付近にあるさそり座がピックアップされてる。
そしてまたステージにライトが当たり、如月君が登場する。
『オリオンの死因には諸説があります。傲慢なるオリオンを罰するためにサソリの毒で死んだ説と……」
その言葉と共にサソリのぬいぐるみがすごい速さで如月君を襲う、え? なにあれむちゃくちゃはやいんだけど!! なんかゴキブリみたいで気持ち悪いよ……
「おお。俺の貸したラジコンだな。おそらく、ぬいぐるみをかぶせたのだろうな」
「また無駄なもの買ったんですか? この前掃除したばかりですけどまた散らかしてないですよね」
「あの……その……お、また暗転したぞ。今度は何がはじまるのだろうな?」
私の言葉に天草先輩は目をそらした。この人本当にだめな人だなぁ。文化祭が終わったらまた掃除にいきなきゃ。
そしてまたステージが暗転して弓矢を構えた魔女さんが現れた。
『もうひとつはアポロン神の罠によって愛しのアルテミスに射抜かれてしまうのです」
「はいはい、CGCG。いってえ!!」
その言葉と共に魔女さんが矢を放つ。矢はまた天草先輩を襲い今度は変な音がしてヒットしたようだ。そうして悲しみに暮れるアルテミスがオリオンを抱きしめて、彼らの出し物は終わった。
「フッ、どうだったかしら私たちのプラネタリウムは」
「お前ゴムとは言え矢を射るのは……」
「もちろんよ、あなたにしかしないから安心しなさい。最初のお客さんですもの。私なりのサプライズよ」
「そんなサプライズいるかボケ!!」
天草先輩と魔女さんが口論を始めてしまった。天草先輩がここまで素を出すのは珍しいので少しうらやましいなぁ。でもこの二人はほっといてもいいだろう。
「中々すごかったよ、このショー。よく短期間で色々準備できたね、さすがだね師匠」
「いや、作ったのは弓矢とさそりのぬいぐるみくらいだったからな。あとショーじゃなくて、プラネタリウムな。デートに最適だろ?」
「えっ?」
「えっ?」
あれ、私のプラネタリウムの認識が間違っているのかな? 準備をしたのは弓矢とぬいぐるみだけっていってたけど、あの変な服とか変な絵とかは最初からもっていたのかな? 流石騎士と魔女だなぁ。私にできないことを平然とやってみせる。そこにしびれもしないけど、少し憧れる。
「あとで文化祭の宣伝用の動画とるからもう一回みせてねー」
一応文化祭の宣伝用に何か欲しかったからちょうどよかった。文化祭盛り上がるといいなぁ。
評価やブクマくださった方々のおかげ久々にジャンル別日間に入ることが出来ました。ありがとうございます。
オリオンってサソリの毒で死んだって話とアルテミスに射抜かれたっていう説あるんですがどちらが正しいんでしょうね。
ちなみにFGOでオリオンが活躍しているのは偶然です。福袋が楽しみすぎる。始皇帝こないかなぁ。
実はこの作品どう話をもっていこうか色々と悩んでいたのですがようやく方向性が決まりました。
あと、私事ですがコミケに行くので更新が遅れるかもしれません。申し訳ないです。年内にもう一度更新はできると思います。来年もよろしくお願いします。