<幕間 サンタを狩ろう>
今回は番外編です。中学二年の時の神矢と紅の話です。神矢達は現役なので今回は厨二要素強めです。
「そろそろそのクッション汚れてきたけどどうするの? 捨てる?」
「ダメに決まってるでしょ!!」
私が神矢から借りたラノベを読んでいると、お姉ちゃんが私の蝙蝠クッションを指さしながら言ってきた。なんと失礼な……これには大事な思い出があるのだ。お姉ちゃんもわかっているのだろう。にやにやとからかうような笑みを浮かべている。
「だって……サンタさんがくれたのよ、捨てられるはずがないでしょう」
私はあの日を思い出す。神矢と会って最初のクリスマスを……中二で厨二なクリスマスを……
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「ついにクリスマスが……この街にも……やつが……サンタが来るだろう、と黒竜の騎士たる俺は断言する」
「そうね……一年に一度のみ働き、子供たちの魂を奪い取り、その対価として申し訳程度のプレゼントをおいていく悪魔ども。許すわけにはいかないわ」
「ああ、そもそもサンタという名前が怪しい、アナグラムをするとサタンだしな。他の連中は何で気づかないんだ?」
「おそらく隠蔽魔法でしょうね、世界を救う事ができるのは私たちしかいないのよ」
いつもの河原で私たちは世界の深淵にまつわる会議をしている、今日はクリスマスに登場する怪人サンタクロースについての話し合いだ。サンタクロースは私だって知っている。クリスマスの夜に子供にプレゼントを贈る都市伝説。だがそれは真実なのだろうか?
ここでいくつかの疑問が残る。彼、もしくは彼女はなぜ、プレゼントを配るのか? また、どうやって一晩のうちに世界中にプレゼントを配ることができるのか? 神矢と話し合った私達は一つの結論に至った。これは強力な魔法の儀式なのだ。対価のない施しなどありえない。夢魔がよい夢をみせて精力を奪うように、白いマスコットが少女を魔法少女にして自分の目的を達成するように。サンタもまた何らかの思惑があるのだろう。
「とりあえず一旦帰って武装を整えて再度駅前で合流をしよう。と黒竜の騎士たる俺は提案する」
「ええ、そうね、じゃあ、また後で」
神矢の言葉にうなずく。今日の口癖はこれらしい。おとといは確か胡散臭い関西弁だったがそういう気分なのだろう。私もなんか口癖あったほうが魔女っぽいわよね。どうしようかしら。笑い方とか変えてみようかな……
私はお洒落用の首輪と眼帯に変え、防寒用のローブ(ハリーポッターの制服みたいなやつ)を着て待ち合わせ場所で待っている。どうでもいいけど眼帯していると視力が落ちるからおねえちゃんに怒られてしまった。お洒落に犠牲はつき物なのに……
などと思っていると神矢がやってきた。やたら大きい皮袋を背負い、ぼろぼろのダメージジーンズに漆黒のマントと刀の形をした傘を持っている。以前甲冑と剣をもって街を一緒に歩いていたら、おまわりさんに半泣きになるまで、説教されたのが効いたのか今日はずいぶんと大人しい格好だ。
「グーテンターク。皆、平和そうでなによりだな。世界の危機にも気づかずに、と黒竜の騎士たる俺は愚考する」
「グーテンターク。まったくね、誰のおかげで平和を楽しんでいるかも知らずにね……」
私たちはドイツ語で挨拶を済ませ街をパトロールする。放課後ということもあり、空をみると日が沈みかけている。夜こそ私達の時間だがあんまり遅くなるとお姉ちゃんに怒られてしまう。
私たちは体力回復のため、まずファミレスで軽い食事を楽しみ、ゲームセンターとカラオケをパトロールした。うん、すっごい楽しかったわ。神矢とは曲の趣味とかも合うのよね……
「あれ、神矢じゃないか、僕とのダブルデートを断ったから怪しいなと思ったし、やたらそわそわしていたと思ったけど……こういう事だったんだね」
「グーテンターク。沖田か、こんなとこで会うとは奇遇だな。だけどちょっと黙っててくんない、いやまじで。空気読んで余計な事を言うんじゃねえよ、と黒竜の騎士たる俺は懇願する」
「え、黒竜……? 頭おかしいのこの人」
「黒竜……かっこいい……それに当たり前のようにドイツ語を使った……」
カラオケから出て街を歩いていると、女の子二人をはべらしている軽薄そうな少年に声をかけられた。どうやら神矢の友人らしい。私達を片方の女性はやばいやつを見る目でみつめ、もう片方の女の子はキラキラとした目で神矢と私をみつめた。奇異の目で見られるのはなれているけど、こっちの女の子は素質がありそうね。
「神矢もすみにおけないなぁ。これ以上お邪魔しちゃ悪いから行こう。眼帯の人、神矢は悪いやつじゃないから仲良くしてくれたら嬉しいな。じゃあ、デートの邪魔をしてごめんよ」
「いや、別にデートってわけじゃ……」
「照れなくていいんだよ、じゃあ、学校で詳しい話を聞かせてね」
「眼帯……首輪……かっこいい……」
「何やってるの、白石早く行くわよ、中二病がうつるわよ」
そういって沖田と呼ばれた少年とその一行は去っていった。神矢をみると顔を真っ赤にしている。あの少年のせいだろう……余計な事をいって……デートじゃないわ……これはデートじゃない。だってそれは好きな人同士で行うものであって、世界を救わなければいけない私たちに関係ないものだ。私達の関係は恋愛なんてそんなぬるいものではなく運命なのだから。
え、でもクリスマスイブに二人っきりでいるし、神矢はそういう気があったって事? あれ、なんか急に恥ずかしくなってきた。
「その……この街にはいないようね、グールの街へ行くわよ」
「ああ、そうだな、と黒竜の騎士は返答する」
私は変な雰囲気を吹き飛ばすために次の目的地へと向かった。やはり、闇の眷属の事は闇の眷属が知っているだろう。
ここは私たちがいつもいる河原を少し歩いた先の橋の下である。人呼んで多摩川アンダーブリッジだ。ここにはグールたちがダンボールで作られた家に住んでいるのだ。中にはかつて世界を救った勇者もおり、いつも興味深い話を聞かせてもらっている。
「ほう、サンタ狩りか……坊主たちも相変わらず楽しそうだな」
「楽しくなんてありませんよ、俺達はこの世界を救うために戦っているんだ。と黒竜の騎士たる俺は苦言する」
私たちの話を聞いてうなずいているのはグールのリーダー、佐藤さんだ。神矢はシュガーと呼んでいる。私たちと同じ位の孫がいるとかでよく構ってくれるのだ。いつもコンビ二でおつまみを買ってくるとすごい嬉しそうな顔をする。
「ふむ、サンタかはわからねえが、ここ最近夜中に不審な人影があるって聞くぞ。もしかしたらサンタかもしれねえな」
「ありがとうございます!! もし俺達はサンタを倒したらお礼をさせていただきます。と黒竜の騎士たる俺は祝福をする」
「ようやく尻尾をあらわしたわね、倒しに行きましょう」
「気をつけろよー、もし変なやつをみつけたら警察に頼るんだぞ」
そうして私たちはサンタの目撃情報のあった周辺をパトロールする。さすがに冷えてきたので水筒からマンドラゴラのお茶を出して口につけた。体の芯から温まる。
「神矢も飲みなさい、体力が回復するわよ」
「え、でも……」
「何? 私の施しが受けれないのかしら?」
「ありがとう……でもこれって間接キスじゃ……」
神矢が水筒に口をつけるのをみて顔があかくなってしまう。なんでそんなこというのよ、恥ずかしくなっちゃたじゃない。
変に意識してしまい、彼の顔がみれなくなってしまう。ああ、もう何を話せばいいのよ。
「紅、あいつおかしくないか?」
「ふぁぁぁぁ!?」
いきなり耳元でささやかれて変な声を出してしまった。顔が近い!! こうして近くで顔を見ると結構かっこいいのよね……早鐘のように胸が鳴っているのを気づかない振りをして、私は神矢が指をさしたほうをみる。すると窓から一人の男が出てくるところだった。
あれはサンタね!! ジャージというラフな格好だけどサンタに違いないわ。おそらく煙突がないので窓から侵入したのだろう。
「貴様の犯行は俺が……黒竜の騎士たる如月神矢が目撃している。素直に捕まるのだな。と黒竜の騎士たる俺は警告する!!」
「我が名は黄泉坂紅よ、あの世の黄泉に坂、名前はベニバナの紅よ。人は私を黄泉の魔女と呼ぶわ。サンタよ、魔女と騎士に囲まれた時点であなたの負けは確定しているの、すぐに自首なさい」
「なんだこのガキ共頭おかしいんじゃねえか、怪我したくなきゃさっさとどけ!!」
そういうと男はこちらへと向かってくる。想定内である。私と神矢はうなづいてフェーメーションを取った。前衛の神矢が受け止め、後衛の私が魔法で打ちぬくさくせんだ。
「我は黒竜の騎士なり、我が手は、我が体は黒竜なり、刮目せよ!! 黒竜爪牙!! 黒竜はここに生誕した!! 愚かな咎人よ、己の罪を悔いるがいい!!」
「うおお、あぶねえ!! このガキ、傘を振舞わすんじゃねえ、くっそなんなんだよ、こいつら。頭おかしいだろ!!」
いきなり傘を振り回した神矢に相手が驚きたじろいだ。神矢が時間を稼いでいる間に私は呪文の詠唱を終わらせる。
「110(アインス、ツェーン)!! あ、おまわりさんですか、今、目の前に不審な人が民家から出てきたんです。多分ドロボウです。早く来てください。では、お願いします。これでとどめよ、黄泉の音色よ、屍達をを蘇らせなさい」
私はスマホで警察に電話をして、持っていた防犯ベルを鳴らした。けたたましい音が周囲に響き渡る。そして通行人たちの注目がこちらを集中した。これで勝ったわね。おそらくこれでサンタは国家権力によってさばきをうけるだろう。
「すいません、この人泥棒みたいです、捕まえるの手伝ってください」
「くそがぁぁぁぁぁ」
愚かなサンタはそうして私の眷属達(ただの通行人)によって捕らえられた。やはり力があるとはいえ多勢に無勢である。
私と神矢は名前も名乗らず去る事にした。私たちの事は世界に知られるわけにはいかないもの。そうして誰もいないところまで走ったところで私たちは息を整えた。
「フッ、やったわね。これでサンタ達を計画を邪魔してやったわ。大分遅くなってきたし、そろそろ帰りましょうか」
「あーそうだな……あ、これやるよ」
「えっ?これって……」
「サンタを倒したときのドロップアイテムだよ、俺では装備ができないようだ」
神矢が皮袋から何やら大きい袋を出した。何かしらと思い、袋を開けると蝙蝠の形をしたクッションだ。私がこうもりを好きって覚えていてくれたらしい。予想外のプレゼントに嬉しくて頬がにやけてしまう。ああ、なのに私は何もプレゼントを準備していなかった。
「ありがとう、神矢。その……また、来年もサンタが現れると思うから、そのときは私がドロップアイテムをあなたにプレゼントするわ。だからクリスマスはあけておいてね」
私の言葉に神矢は嬉しそうに頷いてくれた。このときの私は彼との時間がいつまでも続くと思っていた。ようは子供だったのだ。だから恥ずかしがって、ちゃんとお礼を言うこともなかったし、いつか言えばいいと思っていた。
結局その約束は守られる事はなかった。私は父の仕事の都合で引っ越す事になったからだ。でもその後私達は奇跡的な再会をすることになる。だから私はこの再会を大事にしようとおもう。
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時間を見るともう18時だ。今日は神矢と付き合っての初めてのクリスマスだ。思い出に浸っている場合ではない。でも昔の私達はなかなかはっちゃけてたなぁと思う。あの後、帰ってから自慢げにお姉ちゃんに、話したら本気で怒られたのよね。「怪我したらどうするの」って。
確かにサンタが強盗とかだったら危なかったもの……でもとても楽しかった。もちろん今も楽しい。私は部屋に隠してある、彼への三年越しのクリスマスプレゼントを、渡した時のリアクションを楽しみしながら、準備のためにリビングルームへと向かう事にした。
「今日はやたら料理を張り切ってたけど、彼氏君が来るのかな。家にだれもいなくなるけど変なことはしちゃだめだよ」
「わかってるわよ、おねえちゃんこそクリスマスパーティーなんでしょ、もう出なくていいの?」
「いやぁ、彼氏のためにミニスカサンタまで、準備している妹の貞操が心配で中々でれないのよ……」
「あれは神矢がみたいっていうから……っておねえちゃん勝手に人の荷物空けたの!?」
「ブラフに決まってるじゃない、でも本当に準備していたのね……彼氏君のことどれだけ好きなの?」
「いいじゃない、ようやく付き合えたんだもの……好きな人の希望はなるべくかなえてあげたいじゃない。それにただのサンタ服じゃないもの、黒よ、ブラックサンタよ。黄泉の力を持つサンタを普通のサンタと一緒にしないで欲しいわね」
自分で言っていて恥ずかしくなってきた。私は羞恥でおねえちゃんをみれなくなってしまう。ミニスカは私の趣味ではない。でも神矢がどうしてもって土下座するんだもの、仕方ないじゃない。
「え、本当に準備してたのか、紅」
「よかったね、私の言ったとおりでしょ、この子なんだかんだ嫌がるくせに押しに弱いのよね。だからって変なことしちゃだめだよ」
「は……え……?」
なんで神矢がいるの? 待ち合わせは19時のはずなのに。私は混乱しながらお姉ちゃんと神矢を睨みつける。
「いやぁ、お姉さんから連絡が来て、早めに来たら可愛い紅がみれるって聞いて……その……メリークリスマス。何か手伝おうか?」
「何で私よりおねえちゃんの言う事を聞いてるのよ、ばかー!!!」
そうして私の想定とは違ったけれど、クリスマスパーティーが始まった。できれば来年も再来年もその先も一緒に過ごしたいものだ。いや、過ごしてみせる。以前と違い私達にはより強固な絆があるのだから。
本編が文化祭中でクリスマスイベントかけなそうなのでこちらでかかせてもらいました。ちょっとした短編みたいになってしまいましたね。時系列はすでに付き合っていて中学二年の時を紅が思い出しています。何とか間に合った……
もしよかったら何ですが久々にジャンル別日間ランキングに乘れそうなんで面白いなって思ったらブクマや評価をくださるととても嬉しいです。
それでは皆さん良いクリスマスを




