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34.天草先輩と田中さん<神秘殺しと黄泉の魔女>

 天草先輩と白石さんに椅子に座ってもらい俺達はその正面に対峙した。どう言い訳しようと考えていると、目が合った白石さんが手を振ってきた。俺もつられて手を振り返すと、隣にいる紅が不機嫌そうに唇を尖らせている。拗ねている紅は確かに可愛いんだけどあんまり怒らすのも悪いな……



「すげえな……この内装……さすがは厨二の如月か……」



 天草先輩が感心半分、呆れ半分といった感じで声を洩らす。いや、内装は横の黄泉の魔女が全部やったんだけどね、どうでもいいが厨二の如月ってなんか通り名っぽくていいな。

 しばらく内装を眺めていた天草先輩だったが、咳ばらいをして俺達に話しかけてきた。



「今回は警告をしにきた。天文部がちゃんとした活動をしていると認められないと、廃部の可能性が出てくるぞ。部員も如月一人みたいだしな」

「ええ、分かっています。前回のは誤って去年の写真を提出してしまったようです。正式なものは後日提出致しますよ」

「ああ。ならいいんだ。体育系と違って文化系の部活動は中々成果が見え難いからな……文化祭でくらいアピールをしないと本当に廃部にさせられてしまうぞ。俺も科学部に所属しているんだが、毎年予算を削られていくんだ……」



 天草先輩は俺の苦しい言い訳にも同調するように笑いかけてきた。あれ、思ったより良い人みたいだ。この人まじで天文部を心配してくれたらしい。やっべえ、ちょっと罪悪感が湧いてきた。俺はあくまで部室目的で入部しただけだから全然星とか詳しくないんだよね……

 このまま無難に終わるかな思っていたが、再び天草先輩の視線が部内の装飾品を捕らえる。まずい……骸骨とかマジで天文部関係ないんだけど、どうしよう。



「ただこの内装はまずいな。天文部というより、まるで魔女の屋敷みたいだ……ダンスの時も思ったが、魔法なんてオカルトは存在しないのだからあまり人前でそういうことは言わないほうがいいぞ」

「なんですって……!? 魔女たる私の前で魔法を馬鹿にするとはいい度胸ね」

「魔女……? 如月に併せているのだと思っていたが貴様も同類か」



 天草先輩の一言にそれまで黙っていた紅が反応し空気が凍る。ニヴルヘイムかな? 白石さんはあちゃーと言って頭を抱えはじめた。俺もなんで自分の本性をばらしているんだよと思ったが、大切なものを否定されたのだ。紅が怒るのも仕方ないかもしれない。黒竜の騎士たる俺は盟友を守るだけだ。最悪天文部が無くなっても仕方がないだろう。



「如月君、ごめんね……天草先輩は普段は良い人なんだけど、オカルト系が絡むとダメなんだぁ」



 俺が天草先輩に文句を言おうと口を開こうとしたら、いつの間にか俺の横に来ていた白石さんがそっと俺の耳元で(ささや)いた。何かトラウマでもあるのだろうか? もしかして異世界召喚とかされて魔法に嫌な思い出でもあるのか? 名前が天草だしなんか強そうじゃん。

 俺の心配をよそに紅と天草先輩がにらみ合う。口論を始めた。




「魔法というのが存在できたのは科学が発展していなかった事の話だ。中世ならばともかく、かつて魔法と言われていたものは全て科学によって殺されたのだ。神はいないし、魔法は存在しない。箒で飛ぶ魔女は妄想と証明され、鉄の塊が空を飛ぶ時代に魔女とはナンセンスだな」

「愚かね、科学で証明はできない事はたくさんあるでしょう? あなたは神は存在しないと言ったわね、それを論理的にどうやって証明できるの? それこそ悪魔の証明ならぬ神の証明ではないかしら? 例えば歴史上でも有名なジャンヌダルクの活躍だってそうよ。神の声を聞いたといって聖女になり、魔女として処刑された彼女の活躍をどう説明するのかしら。ただの少女の妄想で国を動かせると思うの? 彼女の行いを科学でどう説明するのかしらね。教えていただきたいものだわ」

「ジャンヌダルク……ああ、オルレアンの聖女か、もちろん知っているさ、精神病の一種だったという説があるな。それに民衆を()せるための象徴が必要だったのだろうさ。ただの村娘が神の声を聞いて戦場に立つ。それだけで効果はあるだろう。芸能人が政治家になるようなものだろう。それに今の科学で彼女を調べれば論理的に証明できるだろうよ!!」

「今調べれば証明できる? ふん、それならタイムマシーンでも作ってジャンヌを調べるくらい言ってほしいわね。それに人は科学だけでは……正しさだけでは生きていけないわ。だから宗教があり、占いなどもあるのよ。魔法や神などの神秘はまだ死んでいないわ」 



 おお、なんか紅がすっごい頭よさそうにみえてきた。天草先輩との言い合いにも負けていない。もしかしたら紅は何度も魔女や魔法なんて存在しないと云われ続けては、こういうやり取りを繰り返してきたのかもしれない。




「ふん、水掛け論だな。お互い証明はできなさそうだ。貴様は魔女を自称していたな! ならば今すぐ魔法とやらを使ってみろ。そうしたら少しは認めてやろう」

「しかたないわね。私の魔法は安くないのだけれど……風弾(エアロブリット)! はやく謝りなさい。つぎは当てるわよ」



キメ顔で魔法名を言った紅が手に持っていたエアガンから銃弾が放たれる。弾は窓から飛び出して行った。さすがに人に向けて放つほど事はしないようだ。いや、その銃は俺が対テロリスト用に隠してた銃じゃん。



「うおおお! なに考えてんだこの女、急に銃を撃ちやがって、頭おかしいんじゃねえか! てか、エアガンじゃねーか、科学の発明だぞ」

「フッ、発達しすぎた科学は魔法に見えるというけれどその逆も然りなのよ、昇華された魔法はまるで科学のようにしか見えないようね」



 激高する天草先輩を笑いながらあしらう紅。良い子も悪い子も魔女だって、エアガンを人に向けたらだめだよ。



「納得いかないならば文化祭でどっちの出し物が人気かで勝負しましょう。天文学も(かつ)ては魔法と密接な関係があったわ。魔法と科学どちらがより人に必要か、勝負よ!!」

「ふん、いいだろう。貴様が負けたら魔法なんてありませんでしたっていって謝ってもらおうか、俺が負けたらそうだな……調子にのってすいませんでしたって土下座して上履きでも舐めてやるよ」

「いや、キモいから上履きは舐めないで……」

「先輩……そういう性癖の持ち主だったんですか……」

「いや、違うぞ、白石さん汚物をみるような目で俺をみるんじゃない!! 帰り道に先輩はいつも一生懸命ですごいですねっていってくれた君はどこにいった!?」



 なんか何時の間にか勝負が始まってしまった……慕われていたであろう後輩に侮蔑の目で見られた天草先輩が凹んでいるが、そこはいいだろう。取敢えず俺は気になっていたことを聴く。



「天草先輩……まさかオカルトが嫌いだから俺達を負けにしたんじゃ……」

「いや、スモークとか映像みたいに、新しい事をしすぎるとPTAからのクレームが恐いんだよな……」



 まあ。そうだよな……PTAは敵に廻せねえよな……俺らただの一生徒だしな。



「でも女装男子はいいんですか?」

「最近はそこらへんは緩くなってきたからな。男の娘ってやつだろ? そこらへんなら大丈夫だろう」

「そうだよ、それに如月君も昔メイド服着てたじゃん、『殺戮メイドがとおるぜぇえええ』ってノリノリで文化祭で給仕していたの覚えているよ」

「白石さん、ナチュラルに人の黒歴史を暴露するのやめてくんない?」



 俺が白石さんに抗議すると彼女は笑ってごまかした。ん、なんだ、紅が俺の裾を引っ張ってくる。



「ねえ、その時の写真ないの?」

「ねえよ!! 何が悲しくて自分の女装を保存しなきゃならないんだよ!!」

「お、彼女さんは如月君の女装写真に興味あるのかなー、お近づきの印にプレゼントしてあげよう」

「白石さんやめてくれぇぇぇぇ」



 俺は白石さんからスマホを奪い取ろうとするが紅によって手を掴まれてしまった。さすがに振り払うなんてことはできないので、目の前で魔女の取引が終わるのをみる事しかできなかった。



「ねえ、彼女さん、私は天草先輩狙いだから安心してほしいな。昔の女友達ってどんな関係か気になるもんね。でも……彼は変な人に結構もてるからもっと素直にならないと奪われちゃうかもよ」

「なっ……」



 意地の悪い笑みを浮かべる白石さんと何故か顔を真っ赤にした紅の視線が俺に集中した。あれ、俺なんかやっちゃった……?



「話はすんだか? ではさらばだ。文化祭当日を楽しみにしているがいい」

「じゃあねー、如月君と彼女さん。よかったら昔の如月君の話をしてあげるから連絡ちょうだいねー」



 そう言い残ると二人は部室を去っていった。なんというか嵐のような奴らだったな……



「勝負はいいんだが、実は星の事とかなんにもわからないんだが……」

「言ったでしょう。天文学もかつては魔女の学問だったと。中高共に魔女部だった私に任せなさい。次の土曜日に星を撮りに行くわよ!!」



 俺の不安を胸を張った紅が砕いてくれる。でも魔女部ってなんなんだろうな……可能なら俺も入りたいものだ。むっちゃ楽しそうじゃない?



「あと……もし嫌じゃなかったらだけど……学校内では手をつないで行動しましょう? その……私達偽装とはいえ付き合っているんだしね」

「え……いきなりどうしたんだ?」

「ダメかしら?」



 上目遣いでこちらをみつめてくる紅むっちゃ可愛い。俺の答えはもちろんイエスかはいだ。さっそく差し出された手を握る。やべえな。赤坂さんが安心院と手を繋いで気絶した気持ちが少しわかった気がする。安心院のいいところはわからないけど……



「それにね、魔女たる私は人に触れることによって魔力を高めることができるのよ、一種の魔力供給ね。天草先輩を倒すためにこれは必要な事なのよ」

「ああ、そうだな。必要な事だな」



 やべえ、なんか意識しすぎて紅の顔をみれない。よくわからないけど必要な事なんだろう。手汗とか大丈夫かな……それにしても星を撮りに行くってことは夜中に二人っきりって事だよな……やべえ、余計どきどきしてきた。俺は次の土曜日が楽しみで仕方ないのだった。

 ちなみにこの後、生徒指導の先生が部室にやってきてエアガンの件で無茶苦茶怒られた上に没収された。テロリストに学校が占拠されたらどうするんだよ!!





ジャンヌに関してはWIKI程度の知識です。あんまり深く考えないで読んで下さると嬉しいです。今後でてきません。


今後更新は二日か、三日にごとになりそうです。毎日更新してる人すごすぎる……ネタもなんですが文章とかもう少し推敲したいなと思いまして……


というわけで死に設定と思っていた天文部編です。好きな子と星を観に行くとかいいですよね。ちなみに俺は化物語の戦場ヶ原さんが好きです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の黒歴史をさらっと暴露されていく鬼畜後輩 [気になる点] 他にもはどんなことをやらかしたのだろうか… レディパールさんもっと暴露して [一言] 本作品気に入りすぎてレビュー書きました…
[良い点] 魔法があってもいいと思うな むしろ科学はまだ『まだ!』万能じゃないし 誰か E=MC^2 の式がどうしてこうなるか教えてくれw [気になる点] 白石さんの二つ名はなんだろう? [一言] …
[良い点] オカルトって科学に反するものではなく、むしろかなり科学的なものなんですよね。 この世に『理論は不明だけど実存する』ものなんていくらでもあるし、例えば麻酔がなぜ効くかも解明されていない。 そ…
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