第1回 製紙について書きたい人へ
本題:古代製紙の歴史と技術
出版社:勉誠出版
著者:Dard Hunter
訳者:久米 康生
値段:5000円+税
お薦め度 3
一言紹介
紙オタク Dard Hunterによる紙作り解説本
この本は、製紙と紙がもつ見えない魅力に憑りつかれた男による解説書の翻訳本です。
まず350ページの内、55ページを紙に纏わる出来事を示した年表にあて、白黒の写真や絵をそこかしこにちりばめている。
それによって文字数はだいぶ減らされているはずにも関わらず、製紙にまつわる情報が事細かに記載されている。
文体は訳本とは思えない読みやすさに加え、絵や写真も多いためスラスラと読んでいくことができる。
筆者は『真の紙』を「真の紙として分類する薄紙は個々の単繊維になるまで分解した繊維でつくられたものでなければならない。(後略)」(P3)と定義しています。
パピルスや羊皮紙などはその定義を満たしていないため真の紙ではないとしておきながらも、パピルスや樹皮を叩いて伸ばした物やカツラ剥きしたもの(ライスペーパー)、樹葉を針で彫ってインクをしみ込ませたもの、その他様々な文字記録媒体についてもきちんと解説をすることを忘れない気配りも忘れません。
肝心な製紙については『中国と西欧の紙作りの違い』を中心としているが、『日本の和紙』にも触れており、『印刷』や『原材料の変化』『大量生産への課程』など幅広く説明されている。
もしも『紙を作る内容』や『本をメインにすえた』作品を書くつもりであれば、この1冊ならば読みやすくてお勧めである。
難点をあげるとすれば、その価格が5000円+税と気軽に手を出せる金額ではないこと、それから「ここまで掘り下げなくても…」というあふれ出るオーバーキル感。
しかし興味がある人にはたまらない1冊である。
また、同著者の『紙と共に生きて(ビブリオフィル叢書)』では世界中を旅しながら紙や製紙道具を集め、それらを実際に用いて製紙した紙を活版印刷も自ら行って本を作っていたり、工場を建てたりつぶしたり、博物館を作ったり、そんな紙を主軸においた波乱万丈な人生がおおく書かれています。
こちらも読んでいて「あぁ、この人は本当に紙が好きなんだ」と安心してしまう1冊です。
機会があれば『バロメッツ/Barometz』から作った紙を登場させてみたい。