第14回 皮肉・風刺の見本
本題:召使心得 他四篇
出版社:平凡社
著者:Jonathan Swift
訳者:原田 範行
定価:1300円+税
お薦め度 3/2/4/3/5
一言紹介
ダメな使用人のための資料。他
内容
「本書は、名作『ガリヴァー旅行記』の作者として知られるジョナサン・スウィフトの残した膨大な政治社会評論の中から特に傑出した五つの作品を選び、これを翻訳編集したものである。」(P267)
『ビカースタフ文書』
ビカースタフと名乗る占星術師が世にいる占星術師はイカサマ師だとし、パートリッジをやり玉に挙げ、その手口の胡散臭さを指摘しながら最後は彼の死を予言するところから始まる。
そしてひたすらにビカースタフをおちょくりながら、最後は最も有名な魔術師の1人であるマーリンさえも巻き込む、「占いブームに浮かれた貴族と占星術師」を風刺した作品。
『ドレイピア書簡』
王様「そこの金物屋、銅貨を鋳造してよいぞ」
ウッド「やったね、9割ぐらい混ぜ物して造れば丸儲けや」
スウィフト「これはあかん、ドレイピアってハンドルネームで告発したろ」
『慎ましき提案』
スウィフト「我が国アイルランドには十二万人の子供がいるといいますが、私の知己であるロンドン在住アメリカ人の手にかかれば、本来3ポンドちょっとしかしない彼ら・彼女らも12ポンド~28ポンドにできますぜ、うぇっへっへ」
『淑女の化粧室』
淑女として有名なシーリアの召使い、ストレフォンとベッティによる『おべやたんさく』
『召使心得』
主のためになる行動をまとめた使用人のための心得集
お薦め
『ビカースタフ文書』
内容は非常に回りくどく、ところどころ強引なところもありますが、理解できると面白い。
『ドレイピア書簡』
ある事物の危険性を庶民に対して正攻法で認知させた見本。
『慎ましき提案』
ブラックジョーク、地味にリアルな情報や表現が混ぜ込まれているため真実味を帯びていて面白い話。
『淑女の化粧室』
かませ的な敵ヒロインを必要以上に辱めるための資料。
『召使心得』
使用人のあるあるが沢山書かれており、第7回で紹介した『英国メイドの歴史』と合わせてこれを元にすれば真面目な使用人から不真面目な使用人まで書くことができるだろう資料。
全体定期に文体は読みやすく、その作品作品に合わせた書き方に仕立て上げてある。
難点
『召使心得』では使用人ごとに心得を紹介しており、『第一章 執事』から『第十六章 女家庭教師』+αまで触れられている。
しかし訳者解説にも書いてあるが、
「「総則」や「執事」、「料理人」「従僕」などの項が十分に記述されているのに対して、後半の、特に「乳搾り女」以降が、ごく簡単な素描に終わってしまっている」(P287)
また、全体的に風刺に偏っているため、その背景を考えないと楽しめない可能性が高い。
そして『召使心得』というタイトルだけでひかれ手にしたが、読み終わってみれば全体的に満足できた1冊。
なぉネタバレをしない解説の限界を感じる。
『英国メイドの歴史』の『デイリーメイド』や『ヴィクトリアン・サーヴァント』の『酪農婦』というイメージがあったため、「乳搾り女」という訳がどうにも引っかかって仕方なかった。