もしも俺が
火曜日の朝、横山さんとの約束の日だ。出社した俺は缶コーヒーを片手に一息つく。
朝から外回りをして汗臭くなるのも嫌なので、今日は一日デスクワークの予定だ。
「よう。」
雨宮だ。
「ここのところ忙しかったようだな。毎日営業に出ていて、ほとんどデスクには座っていなかったんじゃないか?」
毎日営業に出ていたのは、いまだに横山さんと会う約束も取り付けられずにいるという、スマートではない俺を雨宮に悟られたくなかったからだ。
だが、今日の俺は違う。
「まぁな。今日はやっと少しゆっくりできそうだよ。」
雨宮の顔を見て話をするのも久しぶりな気がする。
「そうか、それじゃあちょっと時間貰えないか?来月の営業計画、お前にも見て欲しいんだ。」
「午前中ならいつでもいいよ。」
「サンキュー。お前はいつも鋭いアドバイスをくれるからな。助かるよ。それじゃあ後でまた。」
そう言うと雨宮は給湯室の方へと歩いて行った。
雨宮の去ったデスクで俺はふとこんなことを考える。
もしも、雨宮くらい素直に他人に助言を求められたら、俺も少しは変わるのだろうか?
もしも、10年前の雨宮のように、気になる女の子にどんなメールを送ろうかと友人に相談していたら?
10年前の雨宮と佐々木さんと同じ結果になるのだろうか?
そんなことはない。そんなことをしなくとも、俺はちゃんと横山さんと映画の約束ができたじゃないか。
そう言って俺は俺を正当化すると、立ち上がった。
ブラインドを開けると外からは眩しい光が差し込む。
さぁ、仕事の時間だ。