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Is  作者: 遠奈 都
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メール

「ありがと。あの・・・さ。」


話出した豊を遮って、


「ごめんなさい。戻らなきゃ。」


言いかけた言葉を缶コーヒーとともに飲み込む豊。


「またね。」


そう言うと彼女は足早に事務所へと戻っていった。


短い休憩時間にわざわざ抜け出してきてくれたのだろうか?そう思うと嬉しくもあり、また一言も話せなかったことが残念でもある。



彼女が残していった缶コーヒーを片手に公園内を見渡す。

ジャングルジムではしゃぐ子供の声、大きく弧を描くブランコ、ラベンダーの香り、その全てが今までもそこにあったにも関わらず、豊はまるでそれに初めて気が付いたかのような新鮮な気持ちであった。

気付けば缶コーヒーももうない。子供も一人二人と減っていく。豊もどこか名残惜しい想いを引きずらりながら家路へと着くのであった。



その日の晩。缶コーヒーのお礼を口実に、僕はついに彼女にメールをした。


お仕事今日も1日お疲れさまでした。

横山さんが自分の担当のスーパーの店員さんだなんて思わなかったのでちょっと驚きました。

昨日教えてくれればよかったのに(笑)

コーヒーごちそうさまでした。ちょうど喉が渇いていたので美味しくいただきました。

また営業に伺うこともあると思うのでうちのビールをよろしくお願いします!



精一杯悩んだ挙げ句書き上げた文面だ。丁寧にもう一度見直してから僕は送信ボタンを押した。


一仕事終えた気分で冷蔵庫から我が社の新製品を取り出し蓋を開ける。


プシュッ


このプシュッが堪らないという人も多いのではないだろうか?だが、今宵のプシュッはいつにも増して堪らない。

謀らずももう一度彼女に出会えたという偶然がそう感じさせるのか、返事に対する期待感がそう感じさせるのか、つまみも無しにハイペースで1本目を空ける。



ふと10年前、雨宮と大学で出会い、初めて一緒に行った合コンのことを思い出す。

あれは合コンの翌日だっただろうか。授業中の教室で雨宮が真剣な顔で俺に携帯を見せる。


「昨日の佐々木さん、可愛かったよなぁ。仲良くなりたいしメールしてみようと思うんだけど、こんな感じでどうかな?」


雨宮の差し出す携帯を受け取りメールの文面を確認するが、そこにはなんてことない世間話レベルのことしか書かれていない。今僕が送ったメールとまるで同じだ。


「ダメだ、ダメだ。こんな世間話じゃ。仲良くなりたいんだろ?それなのにお前の好意が全然伝わらないじゃないか。思い切って映画か食事にでも誘ってみろよ。」


当時まだ素直だった雨宮はなるほどと頷くと、必至に携帯と睨めっこを始める。ふと前を見ると教授と目が合う。


「おい、雨宮。授業中だぞ。」


教授がこちらを見ていることを伝えようとするが、時すでに遅しだ。


「お前ら、そんなに私の授業がつまらなかったら出て行っても構わないぞ。」


二人して教授に怒られてしまった。


そんなやり取りを何度か繰り返した後、雨宮は佐々木さんと付き合い始めていた。



今じゃ完全に立場が逆だな。気付くと3本目のビールも空になっていた。

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