偶然?
時刻は10時。担当のスーパーへと営業に出掛ける。
外は燦々と照りつける太陽のおかげでまだ6月だというのに汗ばむほどだ。
「うん、やっぱりいい天気だ!」
当たり前のことだが、暑くなればビールもよく売れる。この時期がビールの営業にとって勝負時だと思うと自然とモチベーションも上がるというものだ。もちろんテンション上がっている理由はそれだけではないが。
「おはようございます。」
本日1件目にスーパーの事務所に飛び込む。すると、店長も笑顔で迎えてくれる。
「おう、会津君。今日はやけに機嫌がいいな。」
「この暑さですからね。今日機嫌の悪いビール会社の社員はいませんよ。それに…」
昨日の出来事を嬉しそうに話す俺。我ながら単純な人間だ。だが、若い営業はこのくらい分かりやすい方が現場では可愛がってもらえる。これも営業のノウハウの1つだ。
「若い人はいいな。」
そう言う店長にご祝儀代わりにと、うちのビールの棚を一列増やしてくれるようにお願いする。
「今回だけだぞ。」
そう言って店長は一番いい場所をわが社の新商品の為に空けることを約束してくれた。
これで一仕事完了だ。
そんなやり取りを繰り返しながら、担当のスーパーを一件一件回っていく。7件目のスーパーを出た頃には17時を回っていた。
「今日はこのくらいにしておくか。」
スーパーの事務所を出て正面にある公園に入り、一服しようとベンチに腰掛ける。
「冷たっ!?」
不意に豊の頬に冷たい何かが押し付けられる。
缶コーヒーだ。
背後を見上げると缶コーヒーを差し出す手の先には、先ほどのスーパーの従業員の制服が
「お疲れさま。」
俺は自分の目を疑った。幻を見ているのか、それとも自分に都合のいい妄想か、眩しい夕日をバックに輝く制服を見上げると、そこには昨日からずっとメールをできずにいた横山さんの姿があったのだ。
「横山さん?なんで?」
「私は昨日から気付いていたよ。いつもうちのスーパーに営業に来る人だって。」