一夜明けて
ジリリリリリリ
目覚ましの音に反応して豊は眠い目を擦りながら手を伸ばす。
「うーん…」
時計を見ると7時30分。
カーテンを開けると、雲1つない青空。
「いい天気。」
いい1日になりそうだ。
今日も片道90分をかけて会社へ向かう。
その道中で僕は昨晩送れなかった横山さんへのメールの文面を考える。
「おはようございます。いい天気ですね。」
そんな他愛もない内容ですら躊躇われる僕の優柔不断さには嫌気がさす。あーでもない、こーでもないとメールを書いては消すうちに時間だけが過ぎていく。気付けばもう乗り換えの駅だ。
「お仕事今日も1日お疲れさまでした。」
朝の90分だけで、メールを完成させることを諦めた僕は、まだ朝だというのに、その一文だけを書いて、未送信BOXにメールを保存した。
俺が出社するなり、雨宮がにやけた顔でこちらに来る。
「吉田課長に頼まれた資料、できたか?」
合コンの翌日、俺が散々雨宮をちゃかしてきた台詞だ。当たり前だが社内に吉田課長など存在しないわけで。
「雨宮、昨日はありがとな。もう昔の話だし、あんなサインのこと忘れてるかと思ったよ。」
すかさず話題を昔話へと逸らそうとする俺。あの後結局メールすら送れずに寝落ちしてしまったなどとは雨宮に言えるはずもない。
キーンコーンカーンコーン
始業の合図だ。
雨宮に仕事を始めるように促し、逃げるようにして俺は客先へと向かった。