それは未知の
ここしばらく俺を悩ませていた問題は驚くほどあっさりと解決し、あとは良い返事を待つだけだ。そんなすっきりとしたはずの心境とは裏腹に雑然とした部屋へと帰りつく。
帰宅するまでの間に俺の心の中もさっきまでの勢いを失い、不安ばかりが頭をよぎる。
今月のご請求予定金額
115,328円
机の上には、昨日届いたクレジットカードローンの利用明細が広げられたままだ。
お母様はああ言ってはいたが、俺はそれに相応しい人間なのだろうか?
横山さんほどの女性であれば、いくらでも好意を抱く相手はいたであろうし、それに引き換え俺は自分の事ばかりを考えて生きてきたあげく、彼女がいたためしもない。そんな俺がお母様の期待に応えられるはずもない。
振り返れば一向に残高の減らない借金の明細票がそこにある。
何故、あんなメールを送ってしまったのだろうかとさえ思えてくる。どうせ断られるのであればがっかりしない方が良い、そう思って2週間無難なメールのやり取りをしてきたのではなかったのか?お母様に乗せられたのか?
だが、もちろんお母様がそんなつもりだったなどということは100%ありえない。
結局は言い訳を探しては何もせずに先送りにしてきたのが今までの俺なのだ。そしてそれは今も変わらない。後悔ばかりが頭の中をぐるぐるする。もしも先程送信してしまったメールをなかったことにできるのであれば、迷わずそうするであろう。
しかし、当たり前のことだが、送信してしまったメールをなかったことにすることなどできるわけもない。否が応でも結果が出るわけだ。
そしてそれは今までの俺が体験した事のない事であって、未知の世界なのだ。
プシュッ
不安をかき消すようにビールを呷る。
結局この日横山さんからの返信はなかった。