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21話 地球side 日常が始まる。

「起っきろ優汰ぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!」


 けたたましい大声が安らかに眠っていた優汰の耳をつんざく。彼にとっては平日朝の恒例行事であり、目下の悩みでもある。


「起きた起きた。だから後2分だけ待ってくれ」

「どうしたの。ハッまさかタオルケットの中でお漏らしの処理するの!」

「そんな訳無いって莉子」


 なんか毎朝こんなやり取りしてるな、などとぶつくさ言いながらモソモソ起き上がる優汰。フワァと欠伸混じりに周りを見渡す。


「ん……?」


 いつもの朝と光景が違う。それから周りがやけに騒々しい。


「あーそうか、リビングで寝たんだっけ……」


 徐々に脳が活性化してきて、昨日のあれこれを思い出していった。ヴァイスルリララが突然やって来て、ゲームセンター銭湯に死闘。昨日はずいぶんと濃い一日だった。

 床に置いてあった目覚まし時計を見る。現在AM7:27。


「あれ、いつもより起こすの遅くないか」

「ゴメン優汰、寝坊しちゃった」


 莉子はすまなそうに謝る。昨日は慌ただしかったから仕方ないだろう。

 毎朝莉子がキチンと起こしに来てくれるおかげで、学校に遅刻せずに済んでいる。むしろ起こされるまで眠っている優汰のほうに問題があるかもしれない。普段なんでも彼女に頼りきっていて、とくに朝はギリギリまでのんびりする癖がついてしまっているのだ。


「ルリララと雑誌読んでたらすっかり遅くなっちゃって」

「原因そっちか」

「んー、ユーたんおはよう」


 既に着席していたヴァイス。その微笑は爽やかな好青年という印象。だがしかし。


「一応聞くけど、なんだその格好は」

「昨日ゲームセンターでぬいぐるみ取ったでしょ、アレに似た着ぐるみ作ってみたの」


 遊園地で風船でも配っていそうな格好で、ヴァイスは朝食を待っていた。

 一体いつの間に作ったのだろうか。食卓に等身大きぐるみが座っている光景は中々に異様だ。そしてイケメンはどんな格好していてもイケメンなのだと、優汰は改めて認識する。


「朝っぱらからお前は、つーか本当に馬鹿全開だな」

「えーヒドイ。水入らずに水差しちゃうのは悪いと思ってるけどさ、だからって八つ当たりは勘弁だよー」

「アホか」


 早朝からテンション高く飛ばしていく大陸随一の魔法剣士に、優汰は今日一回目のツッコミを入れる。


「あと優汰、早く」


 着替えて、と莉子に制服を渡された。袖に手を通す。カッターシャツのアイロン掛けも、莉子が毎日やっていることだ。


「朝飯は」

「じゃーん」


 莉子は自慢げにテーブルの上を披露する。ずらりと並んだ料理の数々は、気のせいかいつもより豪華。いや確実に1人当たりの皿数が多い。


「ルリララが手伝ってくれたんだよ」


 よく見ると干し肉とか乾燥フルーツのような、野性的な料理が幾つか混ざっている。

 これらはルリララが好きなもので、よく向こうの世界でも口寂しい時などに食べていた。今の彼女は、向こうの異世界で着ていたような軽装備の上に、莉子から借りたフリル付きエプロンをしている。


「帰るのか」

「うん。朝ご飯食べ終わったらあっちに戻るつもりー」


 そうか、と短く返事。

 日本はどうだったとか、面白かったとか色々聞くものか。優汰は思ったが、別に今生の別れでもないのだから適当でいいかと流す。また向こうの世界で話をすればいいのだから。


「いただきます」


 席について、手を合わせる。

 昨日もそうだったが、自分と莉子以外がテーブルに座っている光景が、優汰にとって新鮮に感じられた。

 こういうのも悪くないかな、優汰は思う。とはいえ毎日騒がしいのは勘弁だが。


「じー。」

「何だヴァイス」


 優汰の皿のウインナーをじっと見つめる、銀髪の美麗青年。


「ヴァイス君は朝食が足りなくて、ユーたんにちょっと分けてほしいと思っているのです」

「やらんぞ」

「ユーたんは! 世界の恵まれない子供たちの為に募金とかしてあげたいと思わないの!」

「情緒不安定か。ツッコミ所は山ほどあるけど、そもそもお前は異世界人だよな」


 おかわりはあるから、と宥めすかされるヴァイス。そうこうしている内に、いつもより騒がしい朝食を食べ終わる。


「じゃあ僕達はおいとましちゃおうかなー」

「世話になったな、莉子、優汰」


 いつの間にかヴァイスは普段のローブ姿に戻っていた。ルリララもエプロンを脱ぎ、バックパックを片手に立ち上がる。慣れ親しんでいるからか、やはり2人はその格好がもっとも違和感ない。


「はい、ルリララが昨日言ってたの」

「悪いな莉子」


 封を切っていない醤油や料理酒などをルリララに渡す。牙猫族の集落に戻ったあと、肉じゃがを再現してみるつもりだそうだ。

 動物全般にとって玉葱は有毒なのだが、ルリララ曰く亜人はそうでもないらしい。昨夜は平気で食べていたので問題ないだろう。玉葱はOKで、マタタビで酔うというのも変な話だが。


「また好きな時にいつでも来ていいからね」

「いいのかよ、用もないのに来たら迷惑だろ」

「だって私達、友達でしょ」


 一瞬キョトンとしたルリララは。


「……ああ、そうだな」


 少しだけ照れたように頬を掻く。


「悪いな、一泊しちまって。メシ美味かったぜ」

「つぎ来る時はお土産持ってこよかな」


 ヴァイスとルリララは懐から<クリスタルオーブ>を取り出して念じた。オーブから柔らかな光が溢れ出し、やがて2人の姿が七色の彩光に包まれる。


「じゃあまた放課後ねー!」


 最後にそう言い残し、細かな粒子となって跡形もなく散った。


「なんだかんだで帰っちまうと寂しいモンだな」

「放課後また会えるよ」

「あーそうか、放課後また顔合わせなきゃならねえんだよな」


 言葉とは裏腹に、優汰はどこか表情に笑みを重ねていた。

 そんな彼を愛おしげに見つめる莉子。2人の間に距離など無い。ずっと一緒に過ごしてきた、そしてこれからも共に歩んでいく世界一大切なパートナーなのだから。


「それより優汰、早く家を出ないと!」

「本当だいけね!」


 感慨に浸っている暇は無い。ただでさえ寝坊気味だったのに、のんびりしていたら本当に遅刻してしまう。優汰も莉子も勇者であると同時に学生でもあるのだ。


「さあ全力ダッシュで走らなくちゃ。目指せ100m10秒台」

「小走りでも間に合うから! なんで毎朝オリンピック目指してんだよ」


 そして2人の、日常が始まる。


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