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第59話:財界のビッグカップル

新緑の若葉が日比谷公園の木々を鮮やかに染め上げ、心地よい初夏の風が吹き抜ける五月の黄昏時。

日本を代表する歴史と格式の象徴、東京都千代田区内幸町――『帝国ホテル 東京』本館二階。

千二百坪の広さを誇り、幾多の歴史的な国際会議や国賓の晩餐会を執り行ってきた日本最大のグランドボールルーム『孔雀の間』の重厚な大扉の前には、開場の一時間以上前から、我が国の経済・政治・外交の頂点に君臨する錚々たる顔ぶれが、途切れることのない車列とともに続々と集結していた。


車寄せに次々と滑り込む、センチュリー、マイバッハ、レクサスLSの長蛇の列。

フロアに敷き詰められた深紅の絨毯の上を行き交うのは、経済産業大臣をはじめとする現閣僚、メガバンクや大手信託銀行の頭取・会長クラス、五大商社や重工業メガコングロマリットのトップ、さらにはニューヨーク、ロンドン、シンガポールの巨大機関投資家のアジア統括プレジデントたち――総勢八百名を超える、世界の資本を動かすVIPたちだった。


会場内に満ちていたのは、息を呑むような華やかさと、それ以上に濃密な期待のざわめきだった。

今夜催されるのは――

『株式会社ナルカミ・グローバル 新社名発足ならびに事業統合記念レセプション』。


わずか半年前、外資系ブローカーの毒牙と三代目社長の放漫経営によって破滅の淵に立たされていた名門商社。

それを、敵対的TOBと圧倒的な法理、そして現場の絆によって完璧に救済・再編し、発足初年度から過去最高益の更新を確実視されるモンスター企業へと生まれ変わらせた奇跡の統合劇。

その新体制の船出を祝う今夜の宴は、今年度の財界における最大のトピックであり、政財界の誰もが何としてでも招待状を手に入れようと躍起になった至高の社交場だった。


「おい、見たか。今夜は財界の長老衆だけでなく、政界の有力派閥のトップまで全員顔を揃えているぞ」

「大東京フィナンシャルグループの九条副頭取が発起人筆頭に名を連ねているんだ、欠席できる人間などこの国に一人もいないさ」

「それにしても……今夜の主役は、あの二人だろう。タカツカサの鷹司代表と、COOに抜擢された元秘書の槇野さんだ」

「噂では、二人の関係は単なるビジネスパートナーに留まらないと聞くが……」


グラスに注がれたドン・ペリニヨンの黄金色の泡が立ち上る中、会場のあちこちで交わされる囁き。

その熱気が頂点に達した午後六時三十分、会場の照明がゆっくりと一段、絞られた。


コォォォン……と、オーケストラピットに控えた東京フィルハーモニー交響楽団の弦楽四重奏が、エルガーの『愛の挨拶』を気品あふれる調べで奏で始めた。


司会を務める元NHKエグゼクティブアナウンサーの重厚な声が、八百名のざわめきを静かに制してマイクから響き渡る。


「――皆様、大変長らくお待たせいたしました。株式会社ナルカミ・グローバル代表取締役会長、鷹司誠一郎。ならびに、代表取締役最高執行責任者(COO)、槇野佳乃――両名の入場です。皆様、盛大な拍手をもってお迎えください」


ギィィィィッ……。


高さ四メートルを超える、『孔雀の間』の特大のチーク材の正面扉が、ホテルのボーイたちの手によって左右へと音もなく押し開かれた。


その瞬間――

会場に居合わせた八百名の息が、一斉に、完全に止まった。


「…………っ!!」


天井高七メートルの大空間に吊り下げられた無数のシャンデリアから、眩いばかりの温かな光のシャワーが降り注ぐ。

逆光の扉の向こうから、深紅のランウェイへと踏み出してきた二つのシルエット。

そのあまりの神々しさと、完璧なまでの美しさに、誰もが言葉を失い、ただ目を見張るしかなかった。


先頭をエスコートするように歩むのは、株式会社ナルカミ・グローバル会長兼タカツカサ・キャピタルCEO――鷹司誠一郎。

英国サヴィル・ロウの老舗テーラーで仕立てられた、漆黒の最高級ウールタキシード。

幅広のピークドラペルには極上のシルクサテンがあしらわれ、鍛え上げられた広い肩幅と完璧なプロポーションを際立たせている。

胸元には純白のドレスシャツと黒のボウタイ、カフスには鈍く輝くオニキス。

彫刻のように研ぎ澄まされた端正な顔立ちに、市場の覇者としての圧倒的な威厳と、大人の男としての成熟した色香を漂わせ、その一歩一歩が絨毯を踏みしめるたびに、周囲の空気が心地よい緊張感で震えていた。


だが――

今夜、この大広間に集まったすべての紳士淑女の視線を、魂の底から奪い去ったのは、誠一郎の逞しい右腕に、そっと自らの左手を優美に添えて寄り添う女性の姿だった。


カツン、カツン、カツン。


静寂を切り裂いて響く、気品あふれるヒールの足音。

身に纏っているのは――パリのオートクチュールメゾンが、彼女のためだけに数ヶ月をかけて手作業で縫い上げた、息を呑むほど鮮烈な【ロイヤルブルー】のシルクジャガード・イブニングドレス。


深海よりも深く、澄み切った夜空のように神秘的な紺碧の生地は、歩くたびに波打つような艶やかな光沢を放ち、佳乃のほっそりとした均整の取れたウエストラインと、すらりとした背筋の美しさを完璧に引き立てていた。

デコルテは優美なオフショルダーにカットされ、陶器のように滑らかで透き通るような白い肌が、シャンデリアの光を浴びて神聖な輝きを放っている。

艶やかに整えられた前下がりの黒髪ボブは、首筋のラインを息を呑むほど色っぽく際立たせ、耳元には、一粒のサファイアとダイヤモンドのドロップイヤリングが涼やかに揺れていた。


野暮ったい銀縁眼鏡で自らの美貌を隠し、地味なお団子頭で誰の目にも留まらぬよう書類を抱えていた「鳴神物産の万能秘書」の面影など、そこには微塵も存在しなかった。

知性と品格、そして一国の女王のような凛としたオーラを全身から放ち、若き帝王と対等に肩を並べて歩むその姿は、まさに現代の奇跡そのものだった。


そして――

誠一郎のタキシードの腕に添えられた、佳乃の白く滑らかな左手。

その【薬指】の上で。


キラリッ――!


スポットライトの光を浴びて、息を呑むほどの深藍の閃光を放っていたのは――

軽井沢の星空の下、暖炉の前で誠一郎から贈られた、あの至高の【ロイヤルブルーサファイアのリング】だった。

さらに、誠一郎のタキシードの左胸、フラワーホールに差されたラペルピンにも、佳乃の指輪とまったく同じ鉱山から切り出された、小さなロイヤルサファイアの結晶が、寄り添うように青く瞬いていた。


「…………っ!!」

「信じられない……! あ、あれが本当に、あの槇野佳乃さんなのか……!?」

「何という美しさだ……! まるで、ヨーロッパの王族のプリンセスではないか!」

「見ろ、あの左手の薬指を……! サファイアの婚約指輪だ!」

「鷹司代表のラペルピンとお揃いだぞ! ……二人は、本当に……!」


客席のあちこちから、悲鳴にも似た感嘆のどよめきが爆発した。

バシャシャシャシャシャシャッッ!!

報道規制が敷かれたVIPフロアであるにもかかわらず、公式記録カメラマンたちのストロボが激しい雷光のように焚かれ、二人の眩い姿をフィルムへと焼き付けていく。


誠一郎は誇らしげに顎を引き、隣を歩む佳乃へと、限りなく優しい眼差しを向けた。

佳乃もまた、誠一郎を見上げ、華やかで、寸分の乱れもない完璧な微笑みを返した。

二人が並び立ち、レッドカーペットを進むその光景は、単なる企業のトップ二名という枠組みを遥かに超越していた。

互いの魂を預け合い、知性と愛で世界を動かす、真の「至高のエグゼクティブ・カップル」。

その圧倒的なプレゼンスの前に、八百名のVIPたちが自然と左右へと道を開け、やがて会場全体から、地鳴りのような割れんばかりの拍手が湧き起こった。


壇上に上がった二人は、マイクスタンドの前に立った。

誠一郎がマイクを引き寄せ、会場を見渡す。

その低く、深く響き渡るバリトンボイスが、拍手を静かに制してホールを満たした。


「――ご列席の皆様。本日は、新生ナルカミ・グローバルの新たな門出に際し、これほど温かなご光来を賜りましたこと、心より深く御礼申し上げる」


誠一郎は胸元に手を当て、力強く語り始めた。


「昨年の買収劇以来、我々が目指してきたものは、単なる企業の救済ではない。現場で汗を流す人間たちの誇りを取り戻し、世界に誇るべき日本のサプライチェーンを、正しい知性とガバナンスのもとで解き放つことだった。……そして今、ナルカミ・グローバルは、全国の社員たちの結束と、ここにいらっしゃる皆様の温かいご支援により、過去最高の航海をスタートさせている」


誠一郎は隣に立つ佳乃へと、深く敬意に満ちた視線を注いだ。


「この再生を可能にしたのは、私の資金力ではない。……現場の体温を知り、誰よりも誠実に人と組織を繋ぎ続けてくれた、代表取締役COO・槇野佳乃の類まれな知性とリーダーシップによるものだ」


誠一郎に促され、佳乃が一歩前へと進み出た。

ロイヤルブルーのドレスの裾が優雅に揺れ、佳乃は会場の八百名へ向けて、完璧な四十五度の角度で一礼を捧げた。

その所作の美しさに、再び会場から感嘆の吐息が漏れる。


「――皆様、今宵は誠にありがとうございます」

佳乃の声は、鈴を転がすように清冽でありながら、大広間の最後列の壁にまで寸分の狂いもなく染み渡っていった。


「かつて、企業社会の片隅で黒子として書類を抱えていた私が、今、このような光栄ある舞台に立たせていただいておりますのは……ひとえに、現場で誠実に汗を流し続けてくれた社員の皆様、そして何より、私の能力を信じ、共に未来を切り拓く道を示してくださった鷹司会長のおかげでございます」


佳乃の切れ長の瞳に、誇り高い光が宿る。


「商社とは、契約書ではなく、感情を持った生身の人間が動かすもの。……その信念を胸に、私たちはこれからも、関わるすべての人々の尊厳と未来を守り抜く企業として、世界へ挑戦を続けてまいります。どうか、末永いご指導ご鞭撻を賜りますよう、心よりお願い申し上げます」


凛とした、淀みのない完璧なスピーチ。

佳乃が言葉を結んだ瞬間、大広間全体が、先ほどを遥かに凌駕する万雷のスタンディングオベーションによって包み込まれた。

政界の大物たちも、気難しい銀行の頭取たちも、惜しみない賞賛の拍手を壇上の二人へと送り続けている。

誰もが認めたのだ。

この若き二人が率いる巨艦が、これからの日本の経済界を牽引していく絶対のリーダーであることを。


◇


乾杯のセレモニーが終わり、歓談の時間に入ると、壇上から降りた二人の周りには、挨拶を求めるVIPたちの長蛇の列が瞬く間に形成された。

海外ファンドの幹部たちが流暢な英語で祝辞を述べ、佳乃は寸分の淀みもない完璧なビジネス英語で彼らと対等に言葉を交わしていく。


その人垣が、ふっと、潮が引くように左右へと割れた。


「…………っ」


歩み寄ってきた人物の姿を認めた瞬間、周囲の財界人たちが一斉に緊張で背筋を正した。


深海のような濃紺の地に、職人の手仕事による繊細な白百合の友禅染が施された、最高級の加賀友禅の着物。

銀髪を美しく夜会巻きに結い上げ、背筋を凛と伸ばしたその佇まいは、立っているだけで周囲の空気を凍結させるほどの圧倒的なオーラを放っていた。


大東京フィナンシャルグループ取締役副頭取――九条雅恵。


日本の金融界に君臨する真の女帝が、クリスタルのシャンパングラスを片手に、静かな足取りで二人の前へと歩み寄ってきたのだ。


「九条副頭取」

誠一郎がグラスを手に、敬意を込めて小さく会釈した。

佳乃もまた、優美な所作で深々と頭を下げる。

「副頭取、本日はご多忙の折、ご光来いただき誠にありがとうございます」


「佳乃さん。相変わらず、隙のない完璧な立ち居振る舞いね」


雅恵の切れ長の瞳が、佳乃の全身をゆっくりと舐めるように見つめた。

そして――

佳乃のグラスを持つ左手、その薬指に輝くロイヤルブルーサファイアのリングを捉えた瞬間。

女帝の厳格な口元が、かつて誰も見たことがないほど、華やかで、心底からの喜びに満ちた笑みに綻んだ。


「……あら。素晴らしいわね」

雅恵は自らのシャンパングラスを、佳乃のグラスへと、カランと澄んだ音を立てて軽く合わせた。


「おめでとう、佳乃さん。……あの市場から『氷のハゲタカ』と恐れられ、誰にも心を開かなかった鷹司代表を、ここまで骨抜きにして射止めてしまうなんて……。あなた、生涯で最高のディール(大型取引)を成立させたわね」


女帝のウィットに富んだ祝福の言葉。

周囲にいたメガバンクの役員たちから、ドッと温かい笑いが漏れた。


「九条副頭取、からかわないでください」

誠一郎が珍しく苦笑を浮かべて肩をすくめると、雅恵はフッと目を細め、誠一郎を正面から見据えた。


「からかってなどいないわよ、鷹司代表。……剛造さんが生前、私に漏らしていた言葉を覚えているかしら。『佳乃という娘を手に入れた男が、次の時代の日本の覇権を握る』とな。……あなたは、その言葉の正しさを自らの手で証明してみせたのよ」


雅恵は再び佳乃へと向き直り、その温かな手のひらで、佳乃のサファイアの指輪がはめられた左手を、そっと優しく包み込んだ。

かつて料亭『千代乃』の渡り廊下で、完璧なアテンドと限定茶葉の手土産を通じて心を通わせたあの日。

そして、株主総会の修羅場で、メガバンクの信用を盾に貴之へ引導を渡してくれたあの日。

そのすべての記憶が、雅恵の慈愛に満ちた眼差しの中に温かく宿っていた。


「佳乃さん。あんな泥舟を捨てて、本当に大正解だったわね。……これからは、この国の経済を、あなたたちの愛と知性で力強く引っ張っていきなさい。大東京フィナンシャルグループは、あなたたち二人の未来を、何千億円でも、何兆円でも、無制限で支援し続けますわ」


女帝による、公衆の面前での絶対のバックアップ宣言。

会場にいた誰もが息を呑み、二人の財界における地位が、名実ともに不可侵の絶対的なものとなったことを確信した。


「……身に余る光栄でございます、副頭取」

佳乃は胸に手を当て、心からの感謝を込めて一礼を返した。

「九条副頭取が教えてくださった信義の重みを胸に、誠心誠意、邁進してまいります」


「ええ。期待しているわよ、私の可愛いCOO」

雅恵は満足げに頷くと、優雅にグラスを掲げて去っていった。


その直後――。


「佳乃さん! いや、佳乃COO!!」


快活で親しみやすい声とともに、人垣を割って駆け寄ってきたのは、タカツカサのCOO・梶原康平と、法務統括VPの真鍋苑子だった。

梶原はタキシードの蝶ネクタイを少し緩め、満面の笑みでシャンパングラスを掲げた。


「いやあ、たまげたぜ! 壇上に出てきた瞬間、あまりの綺麗さに俺まで腰を抜かしかけたよ! おい誠一郎、こんな最高のパートナーを独り占めするなんて、男として贅沢が過ぎるんじゃねえか!?」


「梶原、口を慎みなさい。今夜の佳乃さんは、我がグループの至宝よ」

隣に立つ真鍋苑子が、プラチナフレームの眼鏡を指先で押し上げながら、珍しくシャンパンで頬を染めて微笑んだ。

苑子のシックなボルドーのドレス姿もまた、知的で美しい。

苑子は佳乃の前に歩み寄ると、その美しいロイヤルブルーのドレスの肩口を、そっと整えるように触れた。


「本当におめでとう、佳乃さん。……あなたがタカツカサに来てくれたあの日、私がどれほど愚かな値踏みをしたか……今でも穴があったら入りたいくらいだわ。法務面でのサポートは、この先何十年でも、私の命が続く限り任せてちょうだいね」


「真鍋先生……ありがとうございます。先生がいてくださったからこそ、私はここまで戦い抜くことができました」


「佳乃さん……っ!」


さらに、控えめな足音とともに駆け寄ってきたのは、黒いフォーマルドレスを清楚に着こなした瀬尾千夏だった。

統合秘書室チーフマネージャーとして今夜のレセプションの進行管理を完璧に仕切っていた千夏は、佳乃の姿を見るなり、大きな瞳を潤ませて駆け寄ってきた。

その隣には、新会社の取締役副社長・安西源三郎が、仕立ての良いタキシードを着て、目を細めて立っていた。


「千夏さん、安西副社長。今夜の素晴らしい設え、本当にありがとうございます」

佳乃が労うと、千夏は両手を胸の前で合わせ、感極まったように声を詰まらせた。


「佳乃さん……本当に、本当にお綺麗です……! 世界で一番、宇宙で一番美しいです!! 私、佳乃さんの下で働けて……この会社の一員になれて、本当に幸せです……!」


「千夏君の言う通りだ」

安西が深く頷き、グラスを掲げた。

「剛造さんがご覧になれば、どれほどお喜びになったことか。……新生ナルカミ・グローバルは、最高の船出を迎えた。現場の全社員を代表して、心からの祝意を捧げますぞ!」


「ありがとうございます、皆様……!」


カラン、カラン、と重なり合うグラスの音。

かつて冷え切った雨の夜に一人で放り出され、すべてを奪われた万能秘書の周りには、今、自らの知性と誠実さで勝ち取った、かけがえのない最高峰の仲間たちが集っていた。

仲間たちの温かい笑顔と祝福の言葉に包まれながら、佳乃の胸は、言葉にできないほどの誇りと幸福感で満たされていた。


ふと、人垣のざわめきが少し引いた瞬間。

佳乃の肩を、誠一郎の逞しい腕が、引き寄せるようにそっと抱き寄せた。


「……疲れてはいないか、佳乃」

耳元に落ちてくる、低く甘やかな吐息。

誠一郎の切れ長の瞳が、至近距離から佳乃を見つめていた。

大広間の華やかな喧騒の中にあって、二人の間だけに流れる、誰にも邪魔されない絶対の親密さ。


「平気でございます、誠一郎さん」

佳乃は誠一郎の胸元を見上げ、柔らかく微笑んだ。

「こんなにも誇らしく、幸せな夜ですもの。……疲れなど、微塵も感じません」


「そうか。……だが、今夜が終われば、君を私の腕の中に閉じ込めるからな」

誠一郎の唇に、少年のように独占欲を滲ませた笑みが浮かぶ。

「今夜の君は、あまりにも美しすぎて……世界中の視線が君に集まるたびに、気が気ではなかった」


「ふふ……誠一郎さんったら」

佳乃の頬が、ワインのせいばかりではない熱で、ふわりと桜色に染まった。


二人の視線が、熱く、深く交錯する。

佳乃の左手薬指で輝くロイヤルブルーサファイアと、誠一郎の胸元で輝くラペルピン。

二つの青い光が、シャンデリアの閃光を浴びて、まるで一つに溶け合うように瞬いていた。


大広間を見渡せば、日本を動かす八百名の頂点の人々が、二人を中心に笑顔で語り合い、新しい時代の幕開けを祝っている。

見えない実務を軽視し、誠実な人間を踏みにじっていた傲慢な過去は、完全に過去のものとなった。

知性と愛が正当に報われ、現場の誇りが世界を動かす――その新しい世界の頂点に、二人は今、誰の目にも疑いようのない「至高のパートナー」として、堂々と君臨していたのだ。

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