第9話 本音を待ち侘びて
「生霊……? なんでまた……」
『あの日、姿を消してごめんなさい。突然僕の身体が目覚めてしまってお別れの挨拶が言えなかったんです』
「いいんだそんなこと。私はまた出会えて嬉しいよ」
もしかしたら幽霊になってたらどうしようかと思ったけど、本体が生きているのであればそれでいい。
それでも、私はフレディーに触れたいのだ。
『僕は、エリンさんにお礼を言いに来たんです』
フレディーは私を見つめてそう告げる。初めて出会ったあの日のように。
「お礼って、三年前にもう私は受け取ったはずだ。それに言いに来たって……これからいつでも言えるじゃないか」
これから私達は共にのんびり過ごし暮らすのだろう?
何度でもお互いに感謝の言葉を贈りあえるじゃないか。
フレディーは手を胸に当てながら語る。
『僕はエリンさんに会えるという希望があるだけで心の支えになりました。本当に感謝してるんですよ』
「それは私も同じだ、お礼は私だって」
『僕は戦場で負傷しました』
「……二度目ってことか?」
『はい、それも以前より重体なんですよ』
重体……その言葉に私の心臓がグッと締め付けられる感覚を覚える。
フレディーは笑顔なまま語り続ける。
『地雷にやられてしまいました。左腕、左足を損失。黙っていたのですが、一度目の負傷で肘から先の右腕も無くしているのです』
「あ……そ、そんなことって」
どうしてなんだ。
私達はただ平和に生きたいだけなのに、そんな仕打ちは無いだろう?
フレディー、どうしておまえはそんな笑顔でいられるんだ。
『エリンさんが見ているフレディーという人物像はいないんです。今の僕はエリンさんをこの腕で抱くことが出来ない、エリンさんが望むエッチが満足に出来ないんですよ』
「そんなこと、私は望んでいない! 私はただフレディーと居たいだけだ!」
私は手を大きく振って叫ぶ。
私はフレディーに救われたんだ、フレディーだって私をもっと必要としてくれよ。
悲しげな声をしながらフレディーは俯いて。
『だから、僕のことは』
「忘れてくださいって? フレディーを忘れられる訳ないよ。フレディー、おまえは私を忘れて生きていくのか? 少しは本音を聞かせてくれよ」
フレディーは俯いたまま押し黙る。
今までフレディーは、笑顔を振りまくことで戦場を乗り切って来たのかもしれない。
私はフレディーの笑った顔や驚いた顔、怯えた顔は知っているが、悲しんでいる顔を見たことが無いからだ。
今度は私がフレディーを支える番。
「私の前でも無理を通すのか? 私はフレディーの全てを受け止める。もう我慢なんてしなくてもいいんだ」
だから、応えてくれよ。
『僕は……』
「私はフレディーに会いたい、生霊の状態でないフレディーに」
フレディーは俯いた顔を上げて私に告げる。
『僕も……会いたい。エリンさんに会いたい!』
「……ありがとう、私は今から会いに行くよ。フレディーがいる場所を教えてくれ」
急いでフレディー本体が眠る場所に行かなくては。
私は、フレディーの頬を伝う涙を拭く役目があるのだ。
私達は共に橋を降り、コッツウォルズから移動するため道を進んで行く。三年前と変わらないはずの生霊なフレディーは、爽やかさがまた増していた気がした。




