表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生霊美青年と婚約した話  作者: おりみみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/12

第8話 再開を待ち侘びて

 美青年生霊との出会いから三年後。


 ヨーロッパ全土の戦争が終結した翌日、ラジオで首相から終戦が発表された。


 その日は五月八日、後にヨーロッパ戦勝記念日、VEデーとなる日だ。


 終戦後は工場の製造業は緩やかになり、私は退職することになる。とうとう重労働の日々から解放されたのだ。


 三年という長くも短い期間を過ごした同僚達と、終戦と勝利と別れの涙を流した後、私は船に乗りイギリスへ帰国する。

 


 もちろん帰国し目指した場所は。


「来たぞフレディー。待ちに待ったコッツウォルズ、バイブリー村だ」


 十四世紀に建てられたと言われる歴史ある建物が並ぶ。


 その建物はコッツウォルズストーンと呼ばれる蜂蜜色の石灰岩を用いており、可愛らしい雰囲気を漂わせていた。


 五月中旬ということもあり、赤や秀色、ピンクなど色とりどりのバラが綺麗に咲き誇っている。

 まるで絵本の中にいるようだな。風に運ばれて来る花の香りがとても安らぐ。


 この故郷で育ったフレディー、フレディーのような心優しい人間が生まれて来るのも納得がいくな。


 ……フレディーは私との約束を覚えているだろうか?

 戦争を無事に生き残って帰還しているだろうか?


 ダメだ、ネガティブな思考は良くない。フレディーに会えた時、悲しい顔をして会うなんてことはしたくないんだ。


 街ゆく人と挨拶しながらレンガ造りの道を進み、見えて来たのはコルン川。

 さわさわと流れるゆったりした、コッツウォルズに相応しいといった川だ。


 ……ここから見える橋、人はいなそうだな。


 緩やかなアーチ状の橋を渡り、橋の手すりに手を置き流れる川の先を眺める。


 そういえば、ナンシーが小説を出版するとか言ってたな。

 こういった橋の上で二人喋るシーンも書いたんだとか。


 私も小説を書き始めたら、フレディーは喜んで読んでくれるだろうか。


 それから私は、コルン川に架かる橋を順々に見て周った。

 しかしフレディーの姿は見当たらない。街の人に聞いてもフレディーは戻って来たという情報は掴めなかった。


 探しに探した私は橋の手すりに背をかけて座り込む。


 どれくらいの時間が経っただろうか。

 夕日が今沈もうとする眩い光が綺麗に川に反射していた。


「……フレディー、もう一度で良いから私の前に姿を現してくれないか?」


 私の独り言は誰にも届かず消える。


 もしかしたら、戦場にいる中、終戦したことを知らずに未だ戦っているのかもしれない。


 だとしても変わらない、私はフレディーの帰りを待つのみだ。

 今日のところは宿でも探して泊まろうとするかな。


 ……私は何故立ち上がれないんだ。

 ここで一人待ってても仕方ないだろう?


 五月と言っても夜は寒いんだ、それなのに、まだ冷えきっていないこの時間で足が震えているのは何故なんだ?


 私は震える足を縮こませ、頭を俯かせる。


「……嫌だ」


 そんな事がある訳ないんだ。


「……嫌だよ」


 私の事を忘れてしまったなんて、私の思い上がりだなんて。


「……フレディー」


 フレディーはもう……戦場で……


『見つけましたよ、エリンさん』


 爽やかで透き通る声。


 私は頭を上げると、そこには三年前と変わらない姿のフレディーが居た。


『お久しぶりですね』

「フレディー!!!」


 私はフレディーに飛び込んだ。


 しかし。


 三年越しの再開を喜ぶ私は、フレディーの身体をスっと通り抜けてしまった。


「え、あえ? フレディー?」


 何度もフレディーを触ろうとするも触れることが出来ない。これってまた……


 戸惑う私の気持ちを汲み取ったように、フレディーは微笑みながら言う。


『今の僕は生霊なんですよ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ