9 盗賊団
転生から3か月ほど経過した。
セーフハウスの南東5kmに盗賊の巣を見つけた。
直接、盗賊か?とは聞いていないが、間違いなく盗賊の集団だ。
人数は30人程、というのは数えるたびに人数が変わるので、程という以外にない。
親玉と副官らしき4人、こいつらは強そう。
後は雑魚。
盗賊の巣を見つけたことは本等にラッキーだった。
俺はこの盗賊団が好きだ。
好きというのは語弊があるが、便利な存在と思っている。
俺にとって盗賊団は服屋兼、靴屋兼、雑貨屋兼、武器屋である。
ちょっと買い物にお店(盗賊団の巣)に行ってくる。
そんな感じなのだ。
盗賊団は商人キャラバンや旅人を襲い、商品や、身に着けているもの何でも奪ってくる。
盗賊団の連中も奪った商品を活用しているのだが、大男ばかりなので、サイズの小さいものは需要がない。
そういったサイズの小さい物が倉庫に乱雑に積み上がている。
俺の持っている毛布、服、下着、靴下、ブーツ、ベルト、ナイフ、鍋、フライパン、食器など殆どが盗賊の巣から頂き物で、家から持ち込んだ物より多い。
買い物は行ける日が決まっている。
盗賊団は7日仕事、7日休日を繰り返している。
買い物は盗賊団の仕事の日にしか行けない。
盗賊団の仕事の日には見張りが3人だけ、楽に買い物ができる。
今日は買い物の日、午後の巡回兼、食料確保に替えて、買い物に来ている。
優斗の日常には休日がない。
買い物は優斗にとって唯一の娯楽で、気分はルンルン。
本日の予定はズボン2本、パンツ3枚、ブーツ1足。
俺にとって、これらは消耗品である。
ブーツは修繕するのが普通だろうが俺には修繕の技術がないので、履きつぶす。
ズボン、パンツは訓練で消費する。
訓練が順調に進んだせいで、今、未達成の訓練は必然的に難しいものが残る。
無理をしないと目標値にとどかない。
必然的に無理をする。
無理をすると、たまに失神する。
失神すると漏す。
小さい方なら、泣く泣く洗濯。
大きい方だと、廃棄。
このため、ズボン、パンツの消耗が激しい。
索敵で盗賊の巣を調べる。
見張りは盗賊の巣の中にはいない。
奴らは盗賊の巣を囲む木の上に、目立たない見張り小屋を作り、そこから見張っている。
通常なら3人見つかるのだが、今日は4人見つかる。
見張りが増えたのか。
不審に思い、位置を確かめる。
3人はいつもの見張り小屋にいる。
あと1人は、こともあろうに倉庫にいた。
俺が買い物に入る予定の倉庫にだ。
俺はモーレツに怒った。
買い物ができねー。
せっかく、歩いてきたんだぞ。
このまま、おめおめ、買い物を諦めて帰れるか。
この怒りをぶつける先が決まった。
倉庫の中にいるやつ。
八つ当たりなのは分かっているが、
優斗は本当に買い物を楽しみにしていて、
怒りを鎮めるには生贄が必要なのだ。
俺は隠密を発動し、倉庫に向かう。
3か所の見張り小屋の死角となる壁に張り付く。
音を立てないようジャンプし、屋根近くの明り取りにしがみつく。
顔を持ち上げ、中を確認する。
索敵で確認した場所に人はいない。
代わりに檻が見える。
檻の中に体育座りした子供が見えた。
成人ではない。
たぶん10歳くらいの子供だ。
先ほどまでの怒りが静まり冷静になった。
急にその子に興味がわいた。
優斗は体を持ち上げ、明り取りから体をねじ込み、倉庫に入った。
倉庫に入った時、その子の首に奴隷の首輪がはめられているのに気づく。
ユートの感情が優斗になだれ込み、危うく大声を上げそうになる。
ユートの感情が収まるのを待った。
ユートの感情のなだれ込みに対応できないと、俺はどこかで失敗する。
うまくユートの感情を受け流し、常に冷静でいられる方法を見つけよう。
この子と、どう話始めよう。
このまま、面前に姿を現すと大声を上げるかもしれない。
そうすると二度と買い物ができなくなる。
優斗は一計を案じる。
まづ、その子の死角に降りる。
隠密を発動する。
その子の真正面移動する。
その子は俺に気づいていない。
俺を妖精に誤認するよう誘導する。
隠密を徐々にとき、妖精の姿で現れる。
俺「小声で話せるかな、俺、外の人に気づかれるとやだから」
その子は本当に小声で「うん」と言った。
俺「もう少し大きな声でも大丈夫。
俺は優斗。
名前を教えてくれる」
その子は「ローラ」と言った。
俺はローラと話をした。
ローラは女の子、12歳、クジュ村の子。
クジュ村はナジ村の隣村。
ナジ村から北西に15kmほどの村。
イステ市という大きな町に奉公に行くという。
ローラは商人に預けられ、町に向かった。
その途中、盗賊に襲われた。
ローラを奉公に連れていく商人は盗賊に殺されたという。
奴隷の首輪についても聞いた。
ローラは首輪が奴隷の首輪だと知らない。
奉公に出るには必要ということで、商人がクジュ村で、両親と別れ際にはめたという。
クジュ村で?
ローラの両親が奴隷の首輪を知らないはずがない。
ローラは奴隷商に売られたのだ。
ローラはそのことに気づいていない。
俺はローラをこのまま残して立ち去れなかった。
ローラをセーフハウスに連れ帰ることを決め、話しかけた。
俺「ローラはこれからどうしたい。
逃げたいなら逃がしてあげるよ」
ローラ「わからない。
奉公先に行きたいけど、どこか知らない」
俺「ここにいたい」
ローラ「ここはいや」
俺「俺に付いてくる?」
ローラは少し考え「ついてく」と言った。
俺「妖精の姿ではローラを助けられない。
姿を変えるよ。
声をあげないでね」
俺は誘導をといた。
ローラは別段驚かなかった。
檻のドアはロープで閉じられているだけだった。
ロープをほどき、ローラを外に出した。
ローラは俺と同じくらいの身長だった。
俺は衣類の山から子供用の服、俺が着られそうな服、ズボン、下着、パンツ、靴下をそれぞれ5枚選び出す。
靴下をローラに履かせ、次にブーツを渡す。
サイズを確かめさせた。
履けるようなので、同じサイズのブーツを選ぶ。
毛布も欲しいが持ち出せない。
シーツで我慢する。
シーツに全てを包み背負う。
俺「ローラ良く聞いて、ローラには先に外に出てもらう。
外に出たら喋らないで、絶対だよ。
外に出たら倉庫に沿って、左回りで倉庫の裏、真中の辺まで歩く。
走らないで、ゆっくりで良いから音を立てないように歩いてね。俺は扉を閉めたあと、ローラの後を追う。倉庫の裏で次どうするか教える」
ローラに同じことを3回話し覚えさせる。
俺は見張りの3人を盗賊の巣の外に注意を向けるよう誘導し、倉庫の扉を開け、ローラを外に送り出す。
俺も外に出て、扉を閉め、ローラを追う。
上手く倉庫を脱出できた。ローラを連れて、東に進み、川に出る。
河原を300m程上流に進み、進路を西にとる。
俺は帰り道、考えていた。
俺はローラをどうしたいのだろう。
将来のイメージがまったく浮かばなかった。