8 冒険者
転生から2か月ほど経過した。
いつもの様に午後の巡回を兼ね、食料集めを行っていた。セーフハウスの西側を巡回中に人間を見つけた。
3人で、うち1人は怪我をしている。
淵沿いに岩場地帯を迂回し、南を目指している。
たぶん、南にある間道が目的だろう。
監視していると、2人は移動しているが、1人移動していない。
たぶん、怪我人が動けなくなり、助けを呼びにいったのだろう。
でも変だ。助けを呼ぶなら1人で行くはずだ。
1人は護衛に残るはず。
興味が湧いたので、怪我人であろう人間を見に行った。
索敵に反応するので、死んでいない。
近づいて観察する。
汗をかき、粗い呼吸、かなり具合が悪いようだ。
俺「おじさん、大丈夫?
仲間の人は助けを呼びに行ったの?」
そいつは「誰だ、姿を現せ、魔物か」
俺に危害を加える力は残っていない。
そう判断し、姿を現す。
俺「水飲む?」
俺はそいつと話をした。
名はケルビン、冒険者だそうだ。
依頼中にオーガに出会い、戦闘になった、
オーガを退けたものの、怪我を負い、傷口から毒をもらい、動けなくなり、今に至る。
仲間は動けなくなったケルビンを見捨てた。
俺「見捨るのは仕方ないかも。
でも、殺して行かなかったんだ。
残酷な仲間だね」
ケルビン「普通、見捨てても殺さないだろ。
俺はここで安らかな死を迎えるさ」
俺「夜になると、魔物がケルビンを食いに来るよ。
ここいらの魔物は弱いから、食われても直ぐには死ねない。
生きながら食われるから怖いと思う。
俺が殺してあげてようか」
ケルビン「怖いガキだな。
どこか安全な場所を教えてくれないか。
そこで死ぬさ」
俺「分かった。
でもケルビンは何をくれる」
いつか再会したら借りを返すといった。
俺はケルビンのことを信用するふりをした。
近場の避難場所につれて行った。
木の枝と枯草を運び、寝床を作る。
食料探しの時に見つけた龍肝人参を煎じて与えた。
ユートの復讐が終われば、セーフハウスを出る必要がある。
町では現金が必要になる。
現金を得る為、龍肝人参を採取してあった。
龍肝人参は換金性が高く、それも非常に高価であった。
龍肝人参はケルビンの傷に良く効いた。
龍肝人参を与えた翌日には熱が引き、4日もすると歩けるようになった。
1日1回だが、桶に水を用意した。あと食料の余りもやった。
5日目、ケルビンは町に帰ると言った。
ケルビン「坊主、礼を言う。
おまえのおかげで命拾いした」
俺「治って良かったね」
ケルビン「ところで、坊主が飲ませてくれたクスリ、良く効いた。
あれが何か知ってるか」
俺「龍肝人参」
ケルビン「知ってたのか、まだあるのか」
俺「10本採ったよ。干してある。
町に行くにはお金が必要だろ、お金に換えよう思ってね」
ケルビン「おまえ見かけによらず金持ちだな」
ケルビンは帰っていった。
すぐには食いつかないか。
エサはまいた。暫く待とう。
* *
ケルビンは10日程して、帰ってきた。
避難場所にいるのを見つけた。
ケルビンは1人ではなく、仲間の冒険者と思われる3人をつれていた。
俺は嬉しかった。
ケルビンは恩を返しに来てくれた。
それも4倍の恩を。
俺「おーい、ケルビンか」
ケルビン「おお、坊主、礼に来た。
酒と食い物を持ってきた。ご馳走してやる」
ケルビンは礼をしたいといった。
礼と言えば酒盛り、これは冒険者の常識だという。
招待されたので、受けた。
ベーコンとチーズがあるという。
楽しみだ。
今夜酒盛りとなると寝る前のイステナ様へのお祈りができない可能性がある。
お祈りは日中に済ませた。
復讐神使徒全書の強化訓練の内容を確認する。
達成が難しいと考えていた最難関の訓練項目を確認する。
俺は飼っていた鶏1羽を締め、卵を5個持ってケルビンを訪れた。
宴会が始まった。
酒は葡萄酒だった。
酔いすぎないよう調整して飲んだ。
ベーコンとチーズを焚火で焼いて食べた。
鶏と卵は葉っぱで包み、焚火の灰に埋めて蒸し焼きにして食べた。
本当に満足する食事だった。
宴会が終わり、俺はケルビン達と雑魚寝することにした。
深夜、ケルビン達は俺を縄で縛り上げた。
俺は寝ているふりを続けた。
縛られた後は本当に寝た。朝になった。
ケルビンは足で俺を小突きながら「坊主、起きろ」
俺「おはよう、ケルビン。
動けないんだけど」
ケルビン「俺は面倒なことが嫌いだ。
端的に言う。龍肝人参をよこせ」
俺「やだよ。
漏れそうだから、トイレ行かせて」
ケルビン「痛い目に合わせたくはない。
命の恩人だからな。案内しな」
俺「トイレ行かせて、大きいのと小さいの」
ケルビン「漏らせ」
俺「汚いなー、ちょっと我慢する。
案内するから足の方、縄ほどいて」
ケルビン「こいつらが担ぐ、必要ねー」
俺「担ぐと振動で漏れるかも、漏れると汚いよ」
俺は冒険者たちに誘導で「担いで、俺の糞尿で汚れるイメージ」を見せる。
冒険者A「肝の太えガキだ。ケルビン歩かせようぜ」
俺の腰から下の縄がほどかれ、歩くことができる状態になった。
* *
使徒の強化訓練の最難関「罪人を5人殺せ」を始めよう。
行商人を殺したので後4人殺せばクリアできる。
ちょうどピッタリ。
俺は隠密を発動する、次に冒険者達を誘導で「背後からオーガの咆哮があった」と錯覚させる。
俺の縄を持つ冒険者は「縄ではなく、デビルスネークを持つ」と錯覚させる。
冒険者が縄を離したのを確認し、20m離れた木にダッシュ。
木の裏に回り、前もって木に刺したナイフで手の縄を切る。
手も同時に切ったが気にしない。
突進してくる冒険者に誘導で「俺が木を回り込み、直進する」と錯覚させる。
直進方向は低木が邪魔で1列でなければ追えない。
木に刺してあるナイフを抜き、梢に隠れる。
最後尾の冒険者が通りすぎた直後、後ろから首をはねる。
同時に冒険者達を追いかける。
冒険者達は最後尾が俺に変わったことに気づいていない。
さらに2人同じように冒険者の首をはねた。
最後はケルビン、誘導で見せた逃げる俺の幻影を追い続けている。
ケルビンに追いつき、ナイフで足を切り、転ばせる。
転んだケルビンの肝臓にナイフを突き刺す。
首をはねなかったのはケルビンにお礼を言う時間が欲しかったからだ。
俺「ケルビン、これで借りは返してもらった。
ありがとう」
ケルビン「なんだよ。
訳の分からないことばかり言いやがって」
これがケルビンの最後の言葉だった。
ケルビンありがとう。
恩を4倍返しで、返してもらった。
俺「そうだ、トイレ。
漏らしてると恥ずかしいなー。
たぶん、イステナ様見てる」
漏れていた。
アウト。
今日のお祈りが怖い。
絶対イステナ様、報告する時「プ」とか言って笑う。
俺は冒険者達を丁寧に剥ぎ取った。
レイドの戦利品を持ち帰り、午前中の訓練は終了した。




