7 行商人
優斗はセーフハウスの南2km程に東西に延びる間道を見つけた。
間道は道幅1m、荷馬車は通れない。
村々を徒歩で結ぶ、たぶん行商人は通る。
塩を買いたい、午後の食料確保は間道付近で行おう。
うまくいけば、行商人に会える。
転生から1か月ほど経過していた。
優斗は念願の行商人を発見した。
俺「こんにちわ。行商人ですか?」
行商人「ああ、行商人だが、何か用か?」
俺「塩を売ってください。500gくらい」
行商人「銀貨1枚と銅貨5枚だ」
俺「お金持ってないんで、物々交換でお願いしたいんですが」
行商人「良いが、何が出せる」
俺「鶏です」
行商人「3羽だ、生きたやつだぞ。
ところで坊主、近くに村はない。
どこから来た」
俺「俺、親父に付いて、ここいらで狩りしてます。
親父は流れの狩人です」
行商人「鶏はすぐ出せるか」
俺「すぐは無理、行商人さんが次に、ここ通る時で」
行商人「ここから西に500mの三叉路、知ってるか。川の横」
俺「知ってます」
行商人「3日後、三叉路でどおだ。
時刻は太陽が南中する時だ」
俺「鶏、用意して、待ってます」
アレフギアに来て初めて人と話し、緊張した。
話せるか心配したが杞憂だった。
俺は鶏を生け捕りにした。
セーフハウスに鳥小屋を作り、飼った。
今まで飼うという発想が無かったので、目から鱗だった。
これからは卵とかも食べられそう。
3日後、三叉路に行くと行商人は既に待っていた。
昼食の支度で小さい火を起こし、芋を焼きながら、お湯を沸かしているところだった。
俺は塩が手に入ることが嬉しく、心が弾んでいた。
俺「早く来たつもりでしたが、待たせましたか。
鶏持ってきました」
行商人「坊主か、待ってた。
昼の準備だ。
おまえにも食べさせてやるよ。
商売は後だ」
行商人は芋を食べさせてくれた。
塩もくれたので、旨かった。
人の食事には塩が必要であることを実感した。
昼飯を食べ終わった後、お茶をご馳走してくれるという。
ユートの記憶にはお茶を飲んだ記憶が無く、興味が湧いた。
行商人は沸かしたお湯に茶葉をいれた。
お湯は透明な赤色になる。
紅茶の香りが漂う。
茶葉が入らぬようカップに注いだ。
昼とお茶をもらい、行商人は良い人と勝手に思い込んでいた。
楽しく会話をする中、行商人は妙な行動をする。
何かの液体を俺側のカップにだけに素早く注いだ。
俺はその液体を鑑定した。
鑑定で「睡眠薬、即効性睡眠薬、5分程で効果発動、1滴で5分の効果時間」。
一気に警戒心がマックスになる。
だが態度には出ていない。
俺は笑顔を作りながら、誘導で、睡眠薬をいれたお茶を飲んだように思いこませた。
俺は眠たいふりをして、カップのお茶をこぼし、その場に倒れ伏し、寝たふりをした。
行商人は俺を仰向けになるよう足で転がし、荷物から奴隷の首輪を取り出した。
行商人の持つ「奴隷の首輪」を見た瞬間、俺の中にユートの怒りがなだれ込む。
同時に俺も怒りで震えた。
俺はナイフを抜き、行商人の首を一突き。
頚椎を切断していた。
物言わぬ行商人の肉体が転がっている。
俺は素早く、広げられたカップや鍋を行商人の荷物に括りつける。
行商人のベルト、財布、服、ブーツを剥ぎ取る。
荷物を行商人の背負子にまとめる。
死体は川に流した。
痕跡を隠滅し、その場を後にした。
初めての殺人だった。
しかし、今は迷う時ではない。
人目を避けるため、間道を使わず、林を突っ切ってセーフハウスに帰還した。
その日、夕食は食べなかった。
食事を作る気力がなっかた。
代わりに、俺は復讐神使徒全書の教科「使徒の心得」を読む。
読みながら考える。
行商人を殺す必要が有ったのか。
荷物を全て剥ぎ取るだけでも良かったのではないか。
考えている内に怒れてきた。
俺は塩を買いに行った。
それだけだ。
どうしてこうなる。
寝る前にイステナ様にお祈りした。
今日は現れてくださった。
俺は行商人の件を話した。
今日のイステナ様は終始、優しかった。
イステナ「今日はもう寝なさい。
あなたが寝るまで見ています」と言って俺をベッドにいざなった。
俺はドキッとした。
恥ずかしかった。
ベッドに寝ている俺にイステナ様は手をかざされた。
俺は眠ってしまった。
夢を見た。
覚えていないが、暖かく、楽しいものだった気がする。次の日、穏やかな気持ちで目覚めた。