モコは部下になる。
「」はタファーナ語。
『』は猫語です。
次の朝、集合場所へと足取り軽く向かうと四つ足で不機嫌な顔で待つ嫌なやつがいた。
その隣にはクシルが立っていて集合場所の間違えではないのだろう。
この数ヶ月間、やる事がなく城下町を散策しロアンの部屋へ帰る。を繰り返した私は漸く仕事ができると気持ちを昂らせたが、目の前の憎き白猫を見た瞬間気持ちが萎えた。
それが顔に出ていたのか、不機嫌な顔を更に歪ませ白猫は舌打ちをかました。
(いやいや、舌打ちしたいのこっちだからね。)
あからさまに白猫から顔を逸らし、隣に立つクシルへと視線を向ける。
もう一度舌打ちをされた私は、白猫の存在すら無い様に接してやると変な闘争心が湧く。
「クシルさん、おはようございます。お待たせして申し訳ありません。」
四つ足から二つ足へと変えて就職活動中に学んだお辞儀を付け足す。
上司に気に入られなければこの先仕事がやり辛くなるのは経験済みだ。引っ込み思案は猫の姿になる事でなりを潜めているから問題はない。そのせいで昨日は上司になるとは知らずクシルに暴言を吐いてしまった。
「いえ、集合時間丁度ですからお気になさらないでください。」
仕事モードのクシルには早々慣れることはないだろう。
貼り付いた笑みに丁寧な言葉が全く似合わないチャラ男。はっきり言って気持ち悪い。
国王に対して馴れ馴れしい態度の方が自然体でよかったな。と思いつつも仕事中は常に笑顔で、とこちらも笑顔を貼り付けた。
『へーお前、使い魔って本当だったんだな。』
「クシルさん、本日はどちらまで行けばいいのでしょうか?」
「場所は決まっていないので、モコさんはいつも通り城下町を散策していただければと思います。」
『おい!聞いてんのかよ!?』
「それだけでいいんですか?何かこう誰かを尾行して情報を集めるとか…。」
「いえ、そんな危険なことはなさらないでください。安全第一で、モコさんは散策しながら人間や動物達の会話を盗み聞きして欲しいのです。」
『おい!こらぁ!このデブ猫!』
「ほう、盗み聞き…。それはやったことがないのでうまくいくか分かりませんが、楽しそうですね!」
「……た、楽しそう。そ、そうですね。ですが、必ず明るい場所のみで暗い裏路地には行かない様にお願いします。」
『無視すんじゃねー!俺様はお前の…』
「クシルさん、承知しました!沢山の噂話を集めて参ります!!」
「あ、待ってください!」
二足のまま走り出したモコにクシルは慌てて呼び止める。
「紹介が遅れましたが、こちらは陛下の猫でキングと言います。モコさんの報告は私ではなくキングへお願いします。キングから風の精霊様へ報告が伝わり陛下へ届きますので。逆を言えば陛下から何か指示があればキングより伝わる様になっています。言うなればキングはモコさんの上司ですね。」
「……はぁ?」
どこのヤンキーだよ。って言いたくなるほどの舌を巻いた低い声。
その声にクシルは苦笑いをする。
「この俺様自己中馬鹿猫が?」
『おまっ、は?えっ?いまっ』
「キングってアホくさい名前。そんな名前付けるからふんぞり返って命令してワガママで自分勝手に育つんじゃん。」
『おいっ、調子に乗るなよ!』
「調子に乗ってるのは自分じゃない!あーやだやだ、なんであんたが私より偉いわけ?」
『そんなの生まれ持った才能だろーが!』
「はぁ?馬鹿じゃないの?生まれ持った才能なんてあるわけないじゃない。努力して身につくもんなのよ!」
『なんだとぉー!!』
「あら、何その爪。私に口では勝てないからって暴力?なら私はパワハラだと訴えます。」
『は?パワハラ?』
「えぇ、パワーハラスメント。上司が部下をいびることこですわ。」
『い、いびるぅ?』
「あら、違いますの?なら暴言、暴力にはご注意くださいませね。おほほほほー。」
『なっ、お前、調子に…』
「では、クシルさん、私は出かけてきます。夕方には戻ります。」
言葉を遮られ、惚けたままこちらを見る白猫を無視して城下町へと続く扉を潜る。
さて、仕事初日だ。
上司の白猫なんて気にすることなく、自分に与えられた使命を全うしなければ。と地面を蹴る足に力を込めて走り出した。
外は快晴。仕事日和。
(ロアン、いってきまーす。)
昨晩、契約者と"城を出る時は声をかける"と約束したことを守り、テレパシーで伝える。
(承知した。気をつける様に。何かあればすぐ駆けつける。)
その声に返事をして、いつもの散策とは違う高鳴る気持ちを抑えることなく色とりどりのレンガ道を駆け抜けた。




