42.【尚井真司(元アロウズ・システムズ社員 )の証言】
初めまして、尚井です。今日はありがとう。
急な連絡で驚かせてしまってすみません。
メールにも書きましたが――ちょっと人づてに、『有賀さんや朱鷺田社長について、大島さんに尋ねに来た人がいる』と聞いたものですから。
……ああ、すみません。誰から知ったかというのは控えさせてください。僕も色々、あるんですよ。
僕も大島さんとほぼ同時期にアロウズにいた人間です。大島さんのように上手くは立ち回れませんでしたが。
……いえ、有賀さんの事故死から、アロウズがNリンクに買収されるまで、大島さんは代表としてよくやってくれたと思います。そのことに異存はないんです。優也さんは表に出たがらない人でしたし。
ただ、大島さんの言葉だけだと……良い話しか出てこないのではないかと思いましてね。こう言ってはなんですが、あの人は美味しいところを持っていきましたから。有賀さんや優也さんについて、悪いことは言わないでしょう。
……はい、おっしゃる通りです。
アロウズ・システムズは朱鷺田社長が、弟の優也さんと創業した会社です。
その後、自分の会社が倒産して雌伏していた有賀さんに声をかけて迎え入れ、これから、という時に朱鷺田社長が急逝した――大筋はそれで合っています。
『朱鷺田社長が急逝した後、優也さんと有賀さんが奔走してアロウズを立て直し、その後も二人三脚で事業を続けて来た。優也さんは有賀さんを、年の離れた兄のように慕っていた』。
……なるほど。大島さんはそんな風に話していましたか。
確かに、朱鷺田社長亡き後のアロウズが続いたのは、有賀さんと優也さんあってのことです。
でも大島さんは……朱鷺田社長が亡くなる前、会社の方針を巡って優也さんと対立することが増えていた、というのは話さなかったんですね。
対立と言っても、会社の"顔"として中心にいたのは朱鷺田さんでしたし、主導権は常に兄である朱鷺田社長にありました。優也さんの意見はあくまで"参考"程度で、あまり顧みている様子ではなかった。
そんな中で、経営者としての経験も営業力もある有賀さんが合流し、体制を整えたところで朱鷺田社長が急逝。会社の主導権は優也さんと有賀さんに移ったんです。
憶測で物を言うのは良くない、それは分かっています。
しかしあなたも、話を聞いていて思いませんでしたか?
――タイミングが良すぎる、と。
朱鷺田社長、優也さん、有賀さん。
この3人の力関係は微妙なところがありましてね。
これは優也さんから直接聞いたんですが、朱鷺田社長と優也さんは、実の兄弟ではないんです。
優也さんは児童養護施設の出身で、学生だった朱鷺田さんが施設にボランティアのプログラミング講座で来た際に懇意になった、と言っていました。それがきっかけで、朱鷺田家の養子に迎えられたのだとか。
そういう背景があったからなのか、朱鷺田さんと優也さんは兄弟とはいっても、やりとりには師弟というか――どこか主従関係のようなニュアンスがあったように思います。
一方で、有賀さんは最年長ですが、いわば朱鷺田さんに"拾われて"合流した立場だから、強く意見は言えない。これは僕の印象なんですが……有賀さんと朱鷺田さんの関係も、ちょっと微妙なところがあったと思うんです。
朱鷺田さんは、有賀さんの奥さんが開いていた美容サロンの顧客だったんです。彼は当時の男性には珍しいくらい、美容意識が高いタイプで。有賀さんとの接点自体、奥さんがきっかけだったと聞いています。
自分より若くて、事業で成功して……それも、朱鷺田さんは結構な美男子でしたからね。そういう男が個室で妻と1対1にもなりうるサロンの客と聞いて、夫として良い気持ちはしなかったでしょう。でも、"拾われた"立場の手前、強くも言えない。もやもやした感情はあったと思います。
実は一度、有賀さんがビルの階段で電話しているのを聞いてしまったことがあるんです。盗み聞きするつもりはなかったんですが、結構な剣幕でまくし立てていたので、つい気になってしまって。
内容から相手が奥さんだというのは分かったんですが、僕ら相手には鷹揚な顔しか見せていませんでしたから、意外に思いました。こんな一面があるのかと。
亡くなった方について悪く言うのは気が引けますが、今であれば警察沙汰になりかねないような、脅しじみたことまで言っていて。
奥さんと離婚したというのも、朱鷺田さんとの仲に疑いがあったのが一つの理由だったんじゃないかと、僕は思っているんです。




