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17.【マクミラン三琴(旧姓堂島 / 中学・高校の同級生)の証言】


堂島三琴です。今日はどうも。


聞きたいって言うのはスナコ――山田さんのことですよね?

お役に立てるかはわからないですけど、私にわかることだったら、どうぞ。


……ええ。スナコとは中高の同級生です。

結婚してからは疎遠になっちゃってましたけど、引っ越し祝いも兼ねて久々に会いに行ったんです。ちょうど日本に帰ってくる時期でしたし。

私ですか?……はい、向こうで結婚して、そのまま住んでます。


それで、スナコとは都内で落ち合って、お茶して……最初は、その後新居にお邪魔する予定だったんですけど。

会う1か月くらい前だったかな?『M美術館でハリー・クラークの美術展をやるらしいから、お茶するついでに行かない?』って誘われたんです。

ちょっと意外な感じはしましたね。私の知ってるスナコは、実用主義っていうのかな、あんまりそういうの興味があるタイプじゃなかったし。


実際に会ってみたら、なんか服の趣味とか、見た目の印象もだいぶ変わってて。

秋の始めの時期だったんですが、ブラックウォッチ柄のタータンチェックのワンピースに、レザーのショルダーバッグ、っていう出で立ちで。


いつ会ってもシンプルなパンツスタイルの印象が強かったから、思わず『誰だか分からなかった!』って言っちゃいましたよ。

それなりに付き合いは長いですけど、チェックのワンピースなんて着てるところ見たことないですもん。髪も伸ばしてハーフアップにしてましたし。


本人も照れて『変かな?』って言ってたんですけど、『全然いい!』『すっごい素敵になった!』ってつい大声で返したら、『そんな大きな声で言わないで……恥ずかしいよ』って。でも、やっぱりちょっと嬉しそうで……正直安心したし、嬉しかった。


心配してたんですよ、色々あったから。まだ落ち込んでるんじゃないかって。

女ひとりで家を買うっていうのも、言っちゃえば「一人で生きていく」っていう決意を固めたようなものじゃないですか。


……そうなんです。未遂で済んだから良かったけど、スナコ、婚活してるときに不動産投資詐欺に遭いかけて。

デート商法っていうのかな?婚活パーティーで知り合って、交際も進んでた相手が『二人の将来のために』ってワンルームマンション投資だかを勧めてきたらしいんです。言ってることがおかしいからって断ったら豹変して、『今までお前にかけてきた手間と時間を返せ!』とか……他にも色々ひどいことを言われて、ノイローゼというか、鬱みたいになっちゃって。


いるらしいですね、結婚を餌に投資用不動産を買わせようとする営業マン。男女問わずですけど。スナコ、家族のこととかもあって三十代半ばまで動けなかったから、結構焦ってたみたいなんです。三十五の壁がどう、とかって言ってました。


でも、久々に会ったら何だかキラキラしてて、幸せそうで……すごく安心したんです。吹っ切れたんだって。本人も『今はすごく楽しい』って言ってたし、強がりにも見えなかった。近づいた時にふっと甘い香りなんかもして。前は香水なんか全然興味なかったのに。


それで、美術展を見た後、お宅にお邪魔したんです。

過疎化が進むニュータウンって聞いてましたけど、近くに商店街もあるし駅も徒歩圏内だし、思ったより住みやすそうだなって思いましたね。

ただ……スナコの家はちょっと他のお宅から離れた丘の上にあって、夜とか不安じゃないかな、とは思いましたけど。本人は『静かで緑が多い所が良かったの』って言ってました。


玄関に陶器のノーム人形が置いてあって、それも意外に思いましたね。あんまりそういう飾りみたいなの置くタイプじゃなかったし……修繕した痕もあって。

聞いたら『庭に埋まってたのを直した』って。それも何か……変じゃないですか?中古で買った家の庭に割れた庭飾りが埋まってたとして、それを直して飾るかなあ……?

まあ、人形って言っても不気味な感じのしない、コミカルで可愛いデザインだったんで、そういう気持ちになったのもわからなくはないですけど。


前の住人の残した家具がそのままっていうのも、海外だと割と普通なので、そんなものかなと。以前、エディンバラに住んでる旦那の兄夫婦の引っ越しを手伝ったんですが、ビルトイン(作り付け)が多いし、家具の運搬が手間だから、家の一部って扱いなんです。日本も少子高齢化とかで事情が変わってきたのかな、って。

スナコも『相続人が遠方に住んでたりとかで、結構増えてるみたい。むしろ値引き交渉できてラッキーだったよ』って言ってましたし。


家の中もふんわり甘い匂いがしたんで、その話もしましたね。スナコのつけてた香水と似た香りだったので。服装もですけど、香りの方もちょっと意外な好みでしたし。

ルームフレグランスとか使うにしても、スナコってウッディで爽やかな香りとかのイメージだったんですよ。でも本人は甘い匂いがすごく気に入ってるみたいで、「なんか勝手に決めつけちゃってたな」って、反省しましたね。


服装にしろ香りの好みにしろ、本当は元からこういうものが好きだったのかもしれないのに、どこかで「私の思うスナコ像」を作っちゃってた気がして。本人はすごく楽しそうにしてるのに。


ただ……お手洗いを借りた後、廊下からリビングに戻る時に、話し声がしたんですよ。廊下の奥にある部屋から。スナコが電話でもしてるのかな?と思ったんですが、何か、その部屋のある一角から強い香りが漂ってて。


甘いというより、甘ったるいような。言葉は悪いですけど、空気の底に匂いが滞留して淀んでるような感覚、って言ったらいいかな。


それで妙に思って近づこうとしたら、『ミコちゃん?』って後ろから声をかけられて。リビングからスナコが出てきてたんですよ。え?じゃあさっきの話し声は?って思ったんですけど、もう聞こえなくて。匂いも普通になってたんです。


スナコに言ったら驚いて、『えー、おどかさないでよー』『思い切って買った終の棲家が事故物件とかやだよ~』って笑ってて。本人は住んでて特に変な思いをしたことはないって言ってました。どこからともなく猫の鳴き声がするくらい、って。


時差ボケもあったし、私の勘違いだったんでしょうね。スナコも全然気にしてないみたいだし、せっかく元気になって、幸せそうに新生活を送ってるのに、水を差すようなことしたくないですよ。


『でも本当に心霊現象だったら、ミコちゃんの旦那さんのネタにしてよ』なんて言うから、『猫の鳴き声くらいじゃポーのパクリにしかならないよ』って返しました。その後はまあ、近況とか思い出話とか、お菓子をつまみながらあれこれ喋って……。ああ、うちの旦那、会社勤めの傍ら作家やってるんです。売れてないですけど。そんな話もして。


猫といえば、ちょうどハリー・クラーク展でもらったポストカードが『黒猫』の挿絵でしたね。

あれ?ご存じないですか?エドガー・アラン・ポーの短編小説です。


妻を殺して地下室の壁に埋めた男の罪が、一緒に埋められた黒猫の鳴き声で暴かれる、って話ですよ。


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