2026/0721『月牙風来伝』の二次創作(作:カオス饅頭)【杏華が台所の土間近くでウトウトする話】
【文章】カオス饅頭
【原作】【けもの対策×和風ファンタジー】境界を行くもの 月牙風来伝
作者:Thera 様
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お天道様の機嫌というのは場所によってよく変わる物で、地図の上では隣り合った二つの地区で天気が極端に異なるのも珍しくありません。
我々のように旅をする者にとっては、それは恵みであり脅威でもあります。
恵み──突然の事態には、多少の甘えも許されるものなのです。
◆
この日、我々は山を越える予定でした。
ところが、そう淡々と道を抜ける訳にはいかず。
麓の村は快晴だったのですが、突然の雨に見舞われたのです。
幸いな事に、にわか雨だったので暫くしたら止んだものの、水を浴びる事になってしまいました。
「まったく、少しは麓の村に合わせて欲しいものですね」
「仕方ないよ月牙。山の天気は気まぐれ」
そう会話するのは、月牙様と時雨ちゃん。
土が剝き出しになった山道は、にわか雨を吸い込み湿り気を孕んでおりました。
私は月牙様に作って頂いた杖でぬかるんだ土を穿ち、草鞋にて小枝を踏んで歩を進めます。
杖というのは、この時の私は体調が悪く重い足取りで御座いました。
まるで鉄下駄を履いたようでした。
「大丈夫ですか?」
「まあ、はい……」
「直ぐ近くに休憩場を提供している寺があるので休んでいきましょう」
「ふあい……」
後から聞いた話ですが、月牙様としても天気が悪くなる事自体は想定の範囲内だったようです。
麓の村で、施設の確認をした上での山越えでした。
そうした訳で、なんとか目的の寺に辿り着きました。
山を信仰する大規模な山岳仏教の一派らしく、中々大きな建物でした。
◆
料理は自分で作った方が安いらしく、月牙様と時雨ちゃんは「今、栄養のある物を作りますね」と台所に向かいます。
そして私は畳張りの客間にて、布団で寝る事となりました。
足取りの重さは嘘を付かず、見事に熱を出していた様子。
そこまで重い熱ではありませんが、無理はいけないといった具合でしょうか。
「……」
室内はやや薄暗く。
天井を見上げれば屋根の梁。
山奥な為でしょうか、建物が大きい為でしょうか。
人が居る筈なのに不思議と音は感じず、耳の奥にシンとし静けさを覚えます。
昔は孤独など気にしなかったのに、とだけ思いました。
果たしてこの気持ちは、新鮮な物なのか懐かしい物なのか。
──寂しい
辿り着いたのはそんな想い。
『気持ち』と呼ぶには短く太く。
それこそ殆どの動物に共通する『感情』という物なのかも知れません。
襖を開きます。
私は思い切って、布団を身体に巻きながら部屋を出たのでした。
巻き寿司になった気分です。
◆
寺の台所は土間に設けられた物。
月牙様は頭に三角巾を巻き、粥を作ってくれていました。
籠には卵や山菜、キノコなど。
具沢山で楽しみですね。
時雨ちゃんは林檎を持っておりました。
後で知った事ですが此処は果樹園も営んでおり、栽培した水菓子の販売もしているそうです。
僧侶が商売上手なのは今も昔も変わらずといったところでしょう。
私は床板と土間の境目に腰を下ろし、壁に体重を預けます。
トントンと、料理をする音や二人の会話。
料理の臭いが安心を誘います。
うとうと。
眠くなってきました……。
◆
夢。
なんとなくそんな気がします。
そこでは『権蔵』と書かれた褌一丁の荒くれ者が、私達三人を脅しておりました。
『権蔵』の手にはセンブリが握られています。
センブリとは、センブリ茶の材料の事です。
日当たりが良く、やや湿り気のある山野の草地に生育します。
それを刀の如く武器として突き付けてくるのです。
月牙様が反撃しないのは夢の中だからでしょうか。
『権蔵』は、言います。
「げっへっへ、この伝説の伊太利亜千振の前には何者も太刀打ち出来んのだぁ〜。
お前、良い身体してるじゃねえか。服を脱ぎな」
ええ、そんな!
しかしみんなが助かるならば仕方ない。
私もアッハンウッフンなウス=異本的な展開になるのを覚悟で着物の襟に手をかけます。
すると『権蔵』は目を見開きます。
「違う!男の方だ!
お前みたいなチンチクリンの身体が良い訳ないだろう」
ええっ!
そして月牙様は悔しそうな顔で帯に手をかけ──
◆
ツンツン。
頬を突かれる刺激と共にハッと目を覚まします。
横を見れば白鼻丸。
頬の刺激の犯人は彼だったようで。
こんな状況の浮世絵が麓の村で売っていた気がします。
[かの有名な浮世絵の構図と権蔵 画:Thera様]
夢の中とは言え、チンチクリンと言われた事に腹が立ちますね。
みんな権蔵のせいです。
権蔵をゆるすな。
全てを権蔵のせいにするとスッキリした為か、またウトウトと眠気が湧いてきます。
◆
再び夢。
私は平和な農村にて、縁側で麦茶を飲んでおりました。
しかしその平和は簡単に打ち砕かれる事になります。
──ズン
「シューシュッシュッシュ!
この惑星は、我らインシュ=ウ星人の物でシュ!」
巨大な宇宙人が空から降ってきました。
第一印象は『蛸』。
サイコロの様に四角い身体から沢山の触手が生えています。
身体の中心には『因』の文字に、蛸のように尖らせた口。
口は数字の『3』にも見えますね。
大変、このままでは世界全てが因習村になってしまいます!
「任せて!」
すると時雨ちゃんが、私の横から駆け出しました。
そして天に沢庵を掲げて叫びます。
「変身!」
声と共に時雨ちゃんが巨大化していきます。
インシュ=ウ星人と同様の身長になった彼女は、四角い身体を両手で挟んで投げ飛ばしました。
相撲の合掌捻りです!
投げて距離が出たところで、手と手の間に空間を作ると球状のエネルギーが集まっていきます。
「沢庵ビーム!」
「やられたでシュー!」
ずどーん。
「演出の人、火薬の分量間違えたかな?」と、思えるくらいのしつこい爆発と共に敵は爆発霧散していきました。
そして彼女は両手を広げて空を飛んで去っていきます。
そうか、あの広い袖は空を飛ぶ為の物だったんですね。
ありがとう、正義の味方シグレチャン!
[空想特撮シリーズ シグレチャン 画:Thera様]
◆
「ハッ!」
そしてまた私は起き上がりました。
正に風邪を引いている時に見る変な夢といった感じで。
そう思っていると、私の鼓膜を震わすソプラノボイス。
「……うなされていたけど大丈夫?」
ずっとそこにしゃがんでいたのか。
時雨ちゃんが、超近距離で私の顔を見ている事に気付きました。
彼女は首をこてんと傾けます。
かわいいですね。
「あ、はい。なんとか」
「これを食べて元気になってね」
そう言って、ウサギ型に切られた林檎を私の口に放り込んできます。
シャクシャクしていて甘くて、美味しいですね。
そして彼女は身を翻し、再び台所に向かっていきました。
ふう、なんとかなったのでしょうか。
安心するとまた眠くなりました。
◆
「メシを喰うでごわす!」
今度の夢は、皆で食事の最中。
突如、よく肥えた月牙様が乱入してきました。
小脇に中身山盛りの米桶を抱え、下は履いておらず、赤い褌のみです。
私達と一緒に居た普通の月牙様は、「どちら様ですか!?」と動揺を隠せません。
[メシを喰うでごわす(一部トレス) 画:Thera様]
「ごわすっ!」
「わっ」
ああっ、普通の月牙様が投げ飛ばされてしまいました。
肥えた方の月牙様は猪突よろしく此方に向かってきます。
そして彼は私の眼前に迫ると、酢飯の乗ったしゃもじを私の口に突っ込んできました。
「ごわす!ごわす!」
「もがもが〜!もがもが〜!」
「ごわすっ!」
「もが〜」
桶が空になるまで何度も突っ込んできますが、一向に無くなる気配はありません。
◆
「ずんだどーん!」
謎の掛け声と共に、私は目が覚めました。
夢の内容が段々酷くなっている気がします。
目の前には、呆れた顔の月牙様が居ました。
「……明らかに奇声を発していましたが大丈夫ですか?」
「ちょっと心配になってきました」
「部屋に戻りますか?」
「いや、それはちょっと……」
「特別ですよ」
彼は溜息をつき、私の頭を撫でます。
そして、床に鍋敷を敷いて、その上に鍋を置きました。
中は金色のおじや。
どうやらこの場で食べるそうです。
「良いのですか?」
「住職には許可を取っておきましたから。
貴女が起きないよう気を付けさせて頂きました。
……起きてしまいましたけどね」
「お手数おかけします」
「良いですよ。
その代わり、ちゃんと休みなさいね」
そう言って月牙様はお玉で米を掬い、椀に私の分の食事を入れていきます。
やや棘のある言い方なれど、声色で感情の裏返しだとバレバレであるのは捻くれ気味な彼らしい。
布団を羽織りながらの食事は、どこか懐かしく。
優しい味がしました。
◆
その晩、私は夢を見ました。
大人になった私が、大人になった皆と一緒に旅をしている夢。
ずっと離れないでいてくれたら良いのに。
ずっとこの世界が続いてくれたら良いのに。
そんな事を思った夢でした。




