2026/0719『素質のなかったおにくの話』の二次創作(作:カオス饅頭)【ゼンミルがネギトロ丼を食べるだけの話】
【文章】カオス饅頭
【原作】素質のなかったおにくの話
作者:瀬野荘也 様
ノベプラ版:https://novelup.plus/story/488476001
カクヨム版:https://kakuyomu.jp/works/16818093087842598289
※本人承諾済
【ゼンミルがネギトロ丼を食べるだけの話】
◆
ある日、ミルラとリュウゼンはフードコートに来ていました。
魔界かも知れませんし、現パロの世界線なのかは不明です。
フードコートとは、食券を買ってプレートでご飯を受け取り、沢山並んでいる机でご飯を食べる場所です。
ショッピングモールや東京の駅ビルとかにあって、サービスエリアみたいな構造をしています。
ミルラはリュウゼンと手を繋ぎ、キラキラとした表情を浮かべていました。
好奇心旺盛に周囲を見渡していました。
「リュウゼン様、色々なお店がありますね。
でも、むっちり焼きは無いそうです」
「此処は食べる為のところだからね。
一階にはミスドがあったから、甘味関係はそちらを探せば良いんだと思う。後で行こうか」
「ハイッ!
ところでリュウゼン様、何を食べましょう」
ミルラは元気よく返事をした後、こてんと首を傾げました。
食べたいものが多すぎて、何を食べれば良いか分からないようです。
こういう時に友達とか彼氏とかが居ると便利ですね、積極的に活用していきましょう。
リュウゼンは消去法で己の舌が求めている物を考えます。
ミルラの白いワンピースが汚れてしまいそうなので、汁物やカレー系は避けていきたいところ。
蒸し暑いので、ラーメンや天丼などの熱いものは気分ではありません。
蕎麦だと量的に少なくないかなと不安になり、野菜炒め系は外食で食べるには抵抗があります。
そこで目に入ったのが、丼物のお店でした。
「海鮮丼にしようか。
さっぱりした物が食べたいし」
「了解ですっ」
ミルラは冗談のように額に手を当て敬礼ポーズ。
そして二人そろって券売機の前に行きました。
しかしリュウゼンは、タッチパネルの前で驚くべきことに気付きます。
──海鮮丼が、売り切れてる!?
なんと『SOLD OUT』の表記が掛かっていたのでした。
チェーン店はメニューを使い回しますが、店舗によっては作らない場合もあるのでこういう事が多々あります。
昨日も明日も売り切れです。
「どうしたのですか?」
彼の表情の焦燥への微妙な変化。
それに気付いたミルラは不安そうな声で聞きます。
海鮮丼と言ってしまった手前、別の物にするのは気が引けます。
しかしない物は仕方ない、優しいミルラなら許してくれる筈。
そんな覚悟を決めた時でした、スライド画面の下の方に載っていたメニューに目を惹かれました。
──ネギトロ丼 990円
微妙。
そんな言葉が頭を過ぎります。
刺身が乗っている海鮮丼とは違い、食感で好みが分かれるからです。
しかし今はこれしかない。
決定ボタンを押して次に進むしかありませんでした。
が、不思議な文字が目に飛び込んできます。
──温玉を付けますか? (温玉 100円)
ネギトロ丼に温泉卵!?
見た事のない組み合わせに指が止まります。
しかしミルラが居る以上、変に冒険する必要もないでしょう。
「いいえ」を押そうとした時、ミルラが受け取り口に小さな看板が立てられているのを発見しました。
「あ、リュウゼン様。
此処のネギトロ丼ってお勧めの食べ方があるそうです。
卵を使うんですね。美味しそうです」
まさかマニュアル化されていたとは。
リュウゼンは身体をタッチパネルに向けたまま、看板に視線をやります。
そこには温玉の乗った、ピンクのネギトロ丼が掲載されていました。
【店長お勧めの食べ方!】
①ネギトロ丼に温玉を落とします
②醤油をかけてかき混ぜます
③ユッケのように食べます
盲点でした。
確かに『ユッケ』と考えれば凄く美味しそうに思えてきました。
なにより近年、ユッケを食べれる店は滅多にないので、チャンスとも思えてきます。
ぽつりと一言。
「このやり方で食べてみようか?」
「ああ、良いですね。
やりましょう!楽しみです」
ポチッとな。
リュウゼンはネギトロ+温玉の二人前を選んだのでした。
大盛を選べないのが、微妙に痒い所に手が届かない店だなとも思いました。
◆
待ち時間。
丸机で向き合い、おしゃべりする二人。
机の真ん中には四角い呼び出しベルが置いてあります。
番号は29。
ベルと言ってもテレビのリモコンのような形です。
──ピピピピピ
「あわわっ!」
ミルラがベルから出た電子音に驚きました。
どうやら料理が出来たようです。
リュウゼンは自分が二人分を自分一人で取りに行こうと思いましたが、丼物は流石に無理と言われたので二人で行く事にしました。
「こちら、ネギトロ丼になります。
醤油は横にあります」
「はい、ありがとうございます」
ミルラはニコニコしながら店員にお礼を言いました。
出されたのは水色のプラスチック製プレート。
その上にはネギトロ丼の入った黒いドンブリと、丸まった油揚げの味噌汁、紫色の大根の漬物の入った小皿が乗っています。
プレートの横の椀には、コロンと白い卵が入れられていました。
ミルラはそのまま持ち替えろうとしましたが、リュウゼンは卵を割ってその場でネギトロの上に載せました。
醤油を受け取り口でかけるという事は、卵は此処で割るという事です。
その事実にハッとして、ミルラもリュウゼンの真似をするのでした。
「お醤油ってこんな感じですかね」
「ドンブリが大きいから、表面だけでは無くてもう少し多めの方が良いかも」
「はーい」
こうして無事に卵を乗せた二人は、食器回収口に卵用の椀を置いて席に戻るのでした。
ネギトロ丼は写真通りのピンクのネギトロに、薄く切られた長ネギがパラパラと掛かっているものでした。
「じゃあ、かき混ぜてみましょうか」
「うん」
リュウゼンは割り箸でご飯の中心に穴を空けて、前後に割るようにかき混ぜます。
対してミルラは豪快に。
こうしてかき混ぜられたので、では実験と口に含みます。
驚きがありました。
卵を絡めているので生温かさは気になりません。
そして、ネギトロに卵のまろやかさが追加されている事で、味に深みが増しています。
卵ひとつで此処まで変わるのかと思っていると、ミンチの筈のネギトロに『食感が在る』事に気付きました。
なんと、ネギトロの中に四角く切った小さなマグロの身が混ぜられていたのです。
ミンチの中のプチプチとした食感が癖になりそうです。
「ごちそうさまでした」
そういう訳で、気付けば何時の間にか完食。
ミルラは手を合わせながら「美味しかったですね」と、リュウゼンに言いました。
彼は「そうだね」と返そうとしましたが、ミルラの顔が目の前に来ている事に一瞬声を失います。
ニュッとミルラが上半身を伸ばしたのです。
そして彼女はリュウゼンの口元に手を伸ばしました。
「ごはんつぶ、付いてますよ」
囁くように言って指に摘まんだご飯を、己の口に放ります。
そこから一拍し、やっとリュウゼンは己の口元に手を添えます。
少し、己の頬が暑くなった気がしました。
天然とは恐ろしい。
そんな事を思った、夏のフードコートでの午後1時の事でありました。




