21話 最高の一日
王都に着いたのはお日様が真上からだいぶ傾きを見せ始めた頃。
パレードは一番の大盛況を見せているところで、大勢の人々が派手な行進や音楽に合わせて楽しそうに唄い、踊り、笑い合う。
私とシュバルツ様は二人で一緒にパレードを眺め、あるいは共に唄い楽しみながら、様々な雑貨店、露店、宝石店、食事処などを見て回った。
「リフィルさん、ちょっと止まってくれるかい?」
「え? なんですの?」
私が右手に甘いクレープ菓子、左手に先程もらった可愛らしい風船を持っていて手が離せない事に気づいたシュバルツ様が、
「きゃっ」
私の頬に付いていたクリームを拭き取ってくれたのである。
「はは。リフィルさん、結構子供っぽいところがあるね」
「んもぅ……付いてたなら言ってくだされば良かったですのに」
私は言われた通り子供っぽく、プーと頬を膨らんで見せると彼はまた笑って、私の頭を撫でてくれた。
それが嬉しくて私は口元のニヤニヤが止まらなくなってしまっていたのだけれど、彼に見られないように風船でお顔を隠していたりした。
それからも色んなお店を見たり、紅茶店で珍しい組み合わせの茶葉で淹れた紅茶を嗜んだり、ちょっと変わった装備屋さんでシュバルツ様に似合いそうな武器防具を覗いて見たり……。
とにかくとにかく、時間も忘れて彼と二人でたくさん見て回って、そして喉が枯れるほどお話をした。
それはもう楽しくて楽しくて。
見る物全てが新鮮だった。輝いて見えた。
隣に愛する人が一緒にいてくれるというだけで、世界はこんなにも色鮮やかに光放つのだと思わされた。
ダリアス様と過ごした一年では、絶対に味わえなかった日々。
私は今、世界一幸せだ。
彼が私の婚約者だったなら、どんなに幸福だっただろう。
そんな事を思いながら、気づけば野盗に襲われた事などもはや完全に忘れてしまうほど、濃密で満たされた時間を彼と二人で過ごした。
そして――。
「リフィルさん、足元に気をつけて。ここの階段は少し急だから」
「は、はい」
太陽が完全に西へと沈み、夜の闇が王都を包みきった頃。
私たちは王都内全域を見渡せるほど最も高い塔、エリシオンタワーと呼ばれる場所に来ていた。
「ふぅ、着いた。ここが最上階だ。リフィルさん、ほら、見てくれ」
私は彼の手で案内されたその先を見ると、
「わぁー……なんて……」
思わず言葉を飲み込んだ。
絶景であった。
夜の闇に光る、様々な光が王都を鮮やかに彩っていた。
「こんな時間までキミを付き合わせてしまったのは申し訳ないと思っているのだが……どうしても私はコレをキミに見せたくてね」
と、彼は照れ臭そうに言った。
「このエリシオンタワーは、エリシオン王国の権威を象徴する為に建てられた建物で、国内では最も高い建物なんだ。普段は厳重に施錠されているんだが、今日のパレードの日だけは開放されるんだ。日中、ここから王都全体を兵士が見張る為にね」
「……? でも今はここ、私たちしかおりませんわよ?」
「うむ。兵士たちの見張りは夕刻までなのだ。それ以降は期間限定の観光場所として開放される。とは言ってもあまり知られていないんだけれどね」
「そうなんですのね」
「ほら、アレが見えるかい?」
シュバルツ様はそう言って、王都の一部に見えるカラフルな光の点滅を指差す。
「わあ……凄く綺麗……アレは一体なんですの?」
「アレはね、このパレードの締め括りに行なわれる魔法のお披露目なのさ。パレードが無事終わりました、とあそこでたくさんの魔導師たちが様々な色の光を放つ魔法で祝福しているんだ」
「もしかして私に見せたかったのって……?」
「ははは、実はそうなんだ。コレは私が子供の頃に見つけたポイントでね。あの光魔法をこのエリシオンタワーから見るのが一番絶景な事を私だけが知っていたんだ」
シュバルツ様だけの秘密を……。
なんだか私だけ特別扱いされているみたいで、とても嬉しい。
私はチラリ、と横目で祝福の光魔法を楽しそうに観ているシュバルツ様の横顔を見る。
火照った身体を冷やす様に流れるやわらかな夜風が、彼のサラサラの髪をなびかせている。
そんな様子の彼に、光魔法よりも見惚れてしまっていた。
と、同時に急に顔と身体が熱くなってきてしまう。
シュバルツ様……私の事をどう想っているのだろう。
初めてお会いしたのは数ヶ月前。ダリアス様のお屋敷で開かれた魔法お披露目の夜会の時。
私がセシリアに馬鹿にされているところを初めて庇ってくれたのが出逢ったきっかけ。
その時から、シュバルツ様に心奪われていたのかもしれない。
そしてこの前。
私はつい勢いでキスをしただけでなく、彼に告白してしまったけれど、あれからシュバルツ様はそれについては触れてこない。
彼が何も言ってこないので、私も聞き出せなかった。
一体シュバルツ様は何を考えているんだろう。
私の事が嫌い……なんて事はないはずだとは思うけれど、好きだとも言われていない。
もしかしたら、ただ彼はダリアス様に婚約破棄された私に気を使って、こうやって優しくしてくれているだけなのかもしれない。
そう考えると納得できてしまう。
だって、彼が私を好きになる要素なんて、どこにもない。
私は可愛くないし、スタイルだって全然良くない。お金持ちでもないし、魔法だって誇れない。
私とセシリアを比べたら、百人中百人がセシリアを選ぶに決まっている。
だって……私は、ブスなんですもの。
ダリアス様は婚約破棄を言い渡す前に何度も私に「なんだキミは。もうちょっとあのセシリアでも見習って美しく自分を着飾れないのか」と言っていた。
遠回しにずっとブスだと言われ続けていた事はよくわかってる。
婚約破棄の時にはハッキリとそう言い渡されているし。
だから、そう。
これは夢なんですの。
ブスで馬鹿で愚かな私が見ている、少女の淡い夢。
シュバルツ様が特別優しいから、私が勘違いしているだけ。
私はスッと彼の顔を見るのをやめた。
夢なら覚めなければ良いのに。
このままずっと――。
「リフィルさん」
私が彼から視線を逸らすや否や、彼が不意に話しかけてきた。
「……はい」
「話が、あるんだ」




