『ハイボク』
解き放たれる瞬間タイミングがずらされる。俺の手首を少しだけ触れて完璧なる必死の技をずらすものがいた。
「天彦君は、少し気が立っているだけだと思いますよ。許してあげてください。大丈夫です。僕の天彦君はきっと勝ちますから」
手首にあたる冷たい掌を感じつつ、聞こえる優しい声に耳を傾ける。
そこには、奏君がいた。女性らしいほっそりとしたいでたちにこれまた、女性らしい少し男性にしては高めの声。柔和な微笑み。整いすぎた顔立ち。
それらが、俺が放った殺伐とした空気を一掃としていた。
そして、
「ちっ。負けたならただじゃおかねえからな」
引くべきタイミングを見失っていた目の前の名前も知らない男は言葉だけは威勢よく逃げるように引き返し、去っていった。
「どうして、奏君がここに」
俺も、一瞬だけ毒気を抜かれて思わず聞いてしまう。
「う~ん。友達のピンチに駆けつけることに理由が必要?」
そう、格好よく微笑む友人がいた。
観衆から抜け出したタイミングで俺は奏君にお礼を言う。
「奏君がいなければ、こういう風にすぐには動き出せなかったよ。助かった」
奏君はきょとんとした顔をした。
そして、錆色の綺麗に手入れされた髪の毛を自分の耳にかけてからゆっくりとした動作で俺の耳元に少しピンク色に染まった唇を近づける。
恋人が自分の秘密を伝えるような潜めた声色で空気を震わせるような声を出す。
「でも、天彦君なら大丈夫だったでしょ?秘策がある人だっていうのは知っているよ」
耳から唇を話した後、俺を全面的に信頼するように青に澄んだ目をじっとこちらに向けて柔らかく話しかける。
確かに俺は妹を守るための勝利を渇望していた。他人の命なんてどうでもい程に。
**********************************************************************************************************************************************************************************************************************************
ちょっとしたひと悶着を終えて、島内アプリを確認すると1件のメッセージが来ていることに気付いた。
「ところで、どうしてログアウトしたの?しかも、奴隷勝負の最中に。人生かかった勝負だっていうのにやっぱり天彦君はおかしな人だね」
柔和な笑みを浮かべる奏君が引き続き隣にいた。
彼の笑みは本当に毒気を抜かれる。他の人だったら感情を昂らせたままに妹のことを述べるか。無視するかだろう。
だが、奏君の言葉は何故か安心できるものだった。
だから、俺はこれまでの経緯を語った。
そして、先ほどのメッセージに目を移しながら今し方入った情報も述べた
メッセージには、こう書いてあった。
「よくぞ、ログアウトしてくれました。最初のゲームで鬼ごっこをしていたようですが、我々も鬼ごっこをしましょう。簡単なルールです。我々を見つけてください。そしたら、あなたのかわいいかわいい妹君は返してあげましょう。
ヒント:舞帆から耳 すいか と共に乗せて
大国を目指す太陽の子の遣いより」
それを見た奏君は、いつものふわふわした雰囲気をすこ脱ぎ去って少し硬い声で俺に疑問を呈した。
「これは、どういうこと?」
「俺にも分からない。ただ、それだけがゲーム中にメッセージで入ってきたんだ」
今度は俺が少し優しめの口調を意識して答える。
「天彦君は誰がやったか心当たりはあるの?あと、本当にこの犯人は妹さんのことを誘拐はしているの?」
言外にただのブラフではないかという疑問をぶつけてくる。
「それはわからん。だが、妹にさっきから電話やメッセを飛ばしているんだが全然でねぇんだ。本物だと思って動くしかない」
妙に確信を持っていた紗耶香のことは告げずに奏君に自分の見解を述べる。
「なるほどね」
そう言いながら、奏君は青い瞳を裏路地の黒いアスファルトにむ右手の親指と人差し指で顎を抱えながら真剣に考える表情を見せる。
「天彦君は、黒川さんの方にいったら?僕が必ず天彦君の弟さんのことを助けるよ。天彦君は自分の奴隷勝負もかかっているんだからそっちに行った方がいい。妹さんだって自分のせいで天彦君が奴隷になんてなったら凄く悲しむよ」
奏君は、俺の眼を見つめて少し熱くなった様子で俺を説得しようとする。
「ありがたい話だが、それは無理だ。中継されている勝負だからな。俺が中継中のゲームに現れたら誘拐犯が逆上してしまう。俺はそっちの勝負にはいけないよ」
そう言うと、奏君は節目がちに俺の方をちらちらと見ながらそれでもと言葉を続ける。
「だとしても、僕は親友になれそうな友人をみすみす奴隷にはしたくない」
普段の奏君からは想像もつかないほど少し語気を強めたはっきりとした言葉で俺に語り掛ける。
「ありがとう。その気持ちは嬉しいが、俺にとっては妹が大事だ。それに、このゲームにはあいつにしかない必勝法がある。俺が抜けた所で既に俺の勝ちは揺るがない。むしろ、妹を助け出さないとあのお人好しのバカ奴隷は勝てないだろう」
いつものように、親指と人差し指と中指を額にあてて集中して答える。
責任感を持った時の紗耶香が強いことはよくわかっていた。あの神知にも負けないくらいに。
この勝負、俺らの勝ちは揺るがない。
奏君は、その俺の自信満々の様子をみて呆然とした。そして、いつもの優しい表情にもどり
「天彦君って実は中二病さんなんだね。でも、不思議と天彦君のことを見ていると頼りになるなって思うよ」
と少しからかうような視線をみつつ話しかけてくる。
「うるせぇ」
「でも、新雪の巫女相手に一人で大丈夫かな」
「大丈夫だよ。既にあいつの能力も割れている。あとは、うちの奴隷がいつ気付いてくれるかだな」
既に、ヒントは出している。
こうなるのは想定外だがどうなってもいいようにあいつなら新雪の巫女の能力に気づけることも言っている。
あの勝負の前の舌戦の前に言ったことを考えればあいつならあの女狐の正体もわかるだろう。
だが、どちらにしても今の触れることのできない・女王では新雪の巫女には勝つことができないだろう。
それでも、その考えの続きは一旦打ち切り妹を取り戻すことを考える。




