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『R on T』

「「ぶーーーーーーーーーーー。やめちまえ。くそが。お前なんかに賭けるんじゃなかったぜ」」


目を開けるとそこには親指を地面に向けて本気の怒りを含んだ観客がいた。

俺が、ログアウトした先には、大勢の人がいた。多種多様な学生たちが。俺が目を開けたことに気付くものもいたが遠慮なしの罵声が鳴り響いた。


「お前なんて、言葉だけのくそが。」 「美女を奴隷にしたからっていい気になってんじゃねぇよ。三下が」 「新入りのビギナーズラックだけの野郎が」


様々な罵声は、俺が目覚めたことを気づく奴らが増えるにつれて収まるどころかピークを迎えていた。俺が目を開け、耳が聞こえるようになったからこそ言うことしかできない哀れな奴らが--自分に期待できないで他人に無責任に望みを託す奴ら--が声を荒げていた。


俺は、その声たちを無視して戦略を立てようとする。一先ず、野次馬に囲まれたこの状況から抜け出さなくてはならない。この誰に見られてもおかしくない環境で動くことは誘拐犯を捕まえる上で適切ではない。相手だけが自分たちの動きを知っている状況では流石に手も足もでない。

そのため、この場から一刻も早く立ち去ろることが先決だ。コンマ数秒でそう結論付けこの罵声の渦から立ち去ろうとする。

だが、

「てめぇ、何とか言えやコラッ」

俺の胸倉をつかんで、唾を飛ばすように語気を荒げる男がいた。

男は、身長190㎝ほどの柔道をやっていそうな肩幅の広い体格をしており、角刈りで鋭い目で睨みながらごつごつとした鍛えられた腕で俺の胸倉を掴んでいた。

男はがたいのいい体格に身を任せて感情のままに声を発していた。


「てめぇの口臭ぇ息をかけてんじゃねぇよ。お前如きが俺に指図するな。お前、死ぬぞ」

俺は自分でも思っていないほどに抑揚のない淡々とした声を発していた。

俺はその時少しだけ感情を失っていた。学生詐欺師香川天彦ではなく、アメリカの超一流詐欺師の香川天彦となっていた。命のやり取りを言葉と洞察力だけでこなしていた。あの頃の自分を自覚する。

俺は、ただただ目の前の男を排除する方法を考えていた。

この声を荒げ感情高ぶっている男が何事もなく俺の目の前から居なくなることはあり得ないことだ。


自分の思い通りにならない現状をこういう風に感情を発することでしか、発散できない奴らはある意味”無敵の人”となり厄介だ。手負いの獣は自分の死を自覚するほどに捨て身の攻撃を仕掛けてくるものだ。

だから、殺すのが最適解だろう。

殺してしまえば、その獣もただの屍になり感情の発露はできなくなり面倒もなくなる。

もちろん、俺が罪を問われたりする場合--明らかに俺が命を奪うなど--はむしろ取り調べなどで時間がかかるのは明白なため論外だ。

罪に問われない方法状況でなければ意味がない。



そして、俺は人間外れのことはできないが殺しの技は一つ持っている。ある意味、他の誰にもできない技かもしれないが微表情を読むほどの天才と謡われた俺の詐欺を裏社会の全ての人が信じるきっかけとなった技ならある。

仕方ないから、俺はアメリカの詐欺師として裏社会で働いていた時に行使していたその技に手を染めることにした。


学生気分はもうない。


アメリカに居たあのころと同じでいい。本当に最悪の事態がおきて俺が犯人にされても、俺は死刑になりえない。ちょいと不満だがあの親父のところに戻ればいい。

目的のために手段は選ばない。俺は、そうやってここに生き残って、妹と会えたのだ。

もう一度引き離されようと妹を守る。絶対に。


「う、うるせぇ。そうやって口だけで言っているだけだろう」


大衆の前で発した言葉とは裏腹に俺のただならぬ気配を感じ取ったか、目の前の男-----いかにも優秀なスポーツ選手の証である隆隆とした鍛え上げた肉体を持った角刈りの男-----は、震える声を出しながらそう言っていた。大勢の観衆が見守る中、その言葉を代弁するために表の場に出た以上後には引けない様子だった。この男もこの学園に合格しているだけあって俺の雰囲気の変化に勘づいたらしい。

だが、引けるほどの安いプライドもなければ理性もそこまでは携えていなかったらしい。

普段の俺ならば、ここまで恐怖をして引き際を探している男には適当に引く理由を与えてやって丸く収めるだろう。

なんだったら、他のギャラリーに余裕を見せつけるような態度で。


しかし、今はそういう感情や打算がすべてそぎ落とされている。

面倒だからただ、殺そうと思う。

淡々とそう思った。

事故死にして殺すことは、俺にとっては簡単だ。

人間の心臓は、電気信号により動いている。そこに合わせて軽く心臓だけに衝撃をあたえてやれば一発でやれる。

医師曰く、[R on T」というそうだ。

およそ、必殺技とは言えないものだ。ださいにもほどがある。

だが、死というものを子供よりも分かっている大人はこの技の恐ろしさが分かっていた。だからこそ、微表情すら読み解く天才という言葉に簡単に騙されたのだ。

そしてこの技の恐ろしいところは必要な動作が俺がしっかりと観察して胸に手を当てるだけということだ。

地味だからこそ、誰にも証拠を突き付けられることなく、事故を装って殺せる。まずは、胸骨左縁のあたりに掌を置く。


ドクン、ドクン、ドクン

リズムが分かる。普通の人だと、電気信号までは分からないようだが俺はこうすることで経験則的にどのタイミングで衝撃を心臓に与えるようにすればいいかがわかる。


「てめえ何するんだ」

そう言いながらも恐怖で、動くことができない蛙。流石は天才として集められた学生の一人。

何にをされるかまでは分からなくても先ほどよりも更に強い恐怖くらいは感じることができるらしい。

だが、俺はそれを無視して汗に滲む白いワイシャツに手を当てたままタイミングを計る。


そのまま、地味すぎる行動による必殺技は観衆に注視されることなく解き放たれる。

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