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『No.1詐欺師(夢)』

<失われた記憶>


まだ、俺が妹と一緒に居た頃。父の手下として働く運命を気づかされたあのころ。

俺には、○○がいた。


「がはは。坊主。つまるところ、嘘を付くのが嫌ってことかい?」

俺は○○のことが世界一の詐欺師だったと今でも思っている。

もうぼんやりとしか思い出せない。途方もないほど遠くの遠景にみえるような過去。蜃気楼のように確定しない過去。

豪快に笑う姿を思い出す。目じりをくしゃっとゆがめて、大きな口を広げて豪快にけれど経験豊富な男性にしか出せない余裕のある笑み。

その頃、闇の世界に身を置く日々が始まろうとしており、嘘をつくことが必要悪だと気づかされた。ただ、それでも幼心に嘘を付くということに対して抵抗があった。

「そうだよ。嘘を付くのはわるもんじゃん。そんなんじゃなくてヒーローとか格好いい方がいいよ。」

「ふむ。そういうことかい。だったら、お前には俺の仕事を見せてやる。特別サービスだぜ」

○○の顔は遠い思い出の欠片の中にしかなく明確には思い出せない。

ちょび髭のおっさんだった気もするし、意外と若いお兄さんだった気もする。このころの俺は、自分の仕事についてもめまぐるしい日々を過ごしていた。

ただ、幼い心だけがもつ真っ白な世界で○○は異質だった。明確な悪と呼べる父やその側近とは明らかに違った。


「おっ、いいところにいるね。ばあさん。この金のネックレスを買わないかい?純金ものだよ」

通りがかりの老婆に向かって○○は通りのいい声で話しかけた。

「△△かい?また、何か売っているのかい?純金なんて本当かね」

記憶の中で名前だけが思い出せない。自分の記憶は、本棚に宝箱が並んでいるように整理されている。

だが、記憶の宝箱を開けようとするのだけれど、出す瞬間に出すことを拒否されるような感覚から抜け出せない。宝箱を開けると不幸になる感覚だ。きっと気のせいだろう。

あるいはその記憶自体も俺が作り上げた幻想なのかもしれない。いつも、明確な会話の記憶がこうやって思い出せるとは限らない。俺はサイとかと違って天才ではないから。

記憶の整合性について考えている間も脳内では薄ぼんやりとした映像は止まらない。


○○とおばあさんの会話は止まらない。

「そりゃあそうさ。ばあさんのために持ってきたんだぜ。遠路はるばる中国から安値で買い付けてやったんだ。ありがたいだろ?」

偉そうな言葉には優しさがあふれていた。○○の言葉は言葉遣いこそ荒いものの話しかける人を楽しませようとする気概に満ちていた。


「ばばあがこんなんもったってたかが知れているだろ?どうせ老いぼれていく命。今買ったからってねぇ、どこへつけていくこともなく死んじまうのさ。最近はどうも気力の方もがたがきちまっている。何をするのも億劫だ」

「いやいやだからこそだろ?最後こそいいもん持って、良いところ行ってこの純金のネックレスにふさわしいばばあになったんだって言わなきゃね」

「ばばあ、ばばあうるさいよ。」

自分のことを年老いた命と言っていたばあさんは○○と話すことで語気にも力が増してきた。笑顔の力。

「それに私は確かに衰えたけど最近のなよなよした若いもんに負けるほど腐っちゃいないよ。」

この短い会話少しの言葉だけでも○○は言い方、表情、話すタイミング、そういったものでばあさんの心を開けさせる。


世界最強の詐欺師となったと純然と思う今でもこれは俺にはできない。そう思わされる。

いや、これは正確な表現ではないか。

正確に言えば○○以上にうまくできる自信もある。


だがそれとともに、この詐欺師は何か秘めている力がある気がしてしまう。これですら本気の詐欺ではない気がしてしまう。俺の幻影によって○○が巨大化されただけなのだろうが、実感としてどうしてもその思いが拭えない。

「その意気だぜ。じゃあ、このネックレスをしてヨーロッパ旅行、豪華客船の旅にでも行ってきなよ。ばあさん金はある程度もっているんだろ?」


「まあねぇ。仕事人間でこの年になるまで誰とも一緒にはならなかったくらいには働いたよ。」


「じゃあ、まいどあり」


「しゃーないね。そこまで○○が言うなら買ってやるよ」


そう言って老婆はそのネックレスを買ってつけて希望に満ちた目で立ち去った。


それを見た俺は質問した。

「こういう風に喋りが上手く売るのが○○の仕事なの?」

「坊主、半分あたりだ。ただし、半分ははずれ」



おかしそうに○○はそう言った。


「どういうこと?」

「つまりな坊主、あのネックレスは純金じゃねぇ。原価でいやぁ、売った金額の1/100だ」


いたずらっ子がいたずらを成功させたように屈託ない笑みで俺に○○は話しかけてきた。


「そんなの噓つきの犯罪者じゃん」

「かもな。でも、俺は誰よりも普通に売るよりもあのばばあの笑顔と活気を生み出せたって自信があるぜ。」

「そんなの屁理屈だよ。普通に○○が本物の純金のネックレスを売った方がよかったんじゃないの?僕やっぱり○○が噓ついたって言ってくる。」

そう言って小さくなりかけた老婆の曲がった背中を追いかけようとした。


「ばかいえ。世の中にはな対価ってものが必要なんだ。俺は、あの笑顔と活気を引き出すって仕事をやってその対価として少しばかり得をさせてもらったってわけだ。あの純金(偽)のメッキがはがれるころにはあのばあさんはこの世にいないだろう。だから、坊主が何も言わなきゃあのばあさんは幸せのままなのさ。お前さんはばあさんの幸せを願っていないってわけかい?」

その言葉に幼かった俺は言葉が出なくなる。

あの老婆の笑顔が思い出されてしまった。


「じゃあ、嘘はいいことなの?」

俺は純粋な気持ちで○○に聞いた。

○○は少し苦笑交じりに答える。

「ははっ。わからねーよ。俺は神様じゃねーんだ。ただな、俺は一流の詐欺師であることに誇りを持っているぜ。超一流の詐欺師は『だました相手を笑顔にする』それだけは覚えておきな坊主。」


それが俺の最強の始まりだった。

わずか、2年で俺の詐欺は○○をも超えたと父でさえ言っていた。

世界が新たなNo.1詐欺師を見つけるのにそこから時間はかからなかった。

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