番外編 彼氏と彼女
海斗視点のデート話。
甘さが多めになってる、はず?
バックミラーに彼女の姿を確認する。
制服以外の姿を見たのは初めてなのだが、見惚れるのは後にして窓を開けてここだと合図をする。
「おはようございます」
「おはようさん、ほい、乗った乗った」
俺の姿を見た栞がなんともいえない表情をよこしたが、ご近所さんの邪魔になってはいけないので車への乗車を促す。
なぜか躊躇する彼女に、にっこり笑って彼氏として当然の主張をする。
「もちろん、助手席な」
「で、ですよね。……お邪魔します」
「はい、どうぞ」
おずおず乗り込むも、シートベルトを着用したのを確認してゆっくりと発信する。
車デートで後部座席に乗られたら、凹むからな。
「荷物邪魔なら後ろに置いてもらっても大丈夫だから」
「いえ、足元に置くんで大丈夫です」
「邪魔になったら遠慮なくいえよ。コンビニで飲み物買ってるけど、紅茶と珈琲どっちがいい?」
「紅茶で」
ほいっと、紅茶を手渡し、ナビを操作し目的地をセットする。
かりてきた猫のように大人しい彼女に、思わず笑ってしまう。
俺の笑った空気が伝わったのか、彼女が頬を少し赤くしながら睨んでくる姿が本当に可愛い。
「男の人というか、家族とかの車以外に乗るのが初めてなんです」
「それは光栄だな。別に襲ったりしないから、そこまで窓側に身を寄せないの」
あからさまに窓際に寄せていた姿勢を助手席正面にもどし、栞が紅茶を口にする。
「あ。これ、新製品の」
ぽそりと嬉しそうに呟く声に、自身のチョイスにガッツポーズを心で決める。よくやった、自分。
ようやく緊張がほどけたのか、栞が熱い視線を寄せてくる。
「どした?」
「海斗さん、いつもと髪形が違う」
「そりゃ気合入れてセットしましたから。で、サングラスは運転用。栞の私服は休憩で車止めた時しっかり堪能するから、詳しい感想はちょっと待っとけ。取り敢えず可愛いのは間違いないから」
「いりません。詳しい感想なんていりませんから!!」
再び頬を赤くして抗議してくる様、本当に御馳走様です。
いつもと雰囲気違う服装を見れただけでテンションあげあげなのに、照れた表情とかマジ感謝。
運転中でなければ、色々とあれだったかもしれない。よかった、運転中で。安全運転、大事。
「はい、到着」
休憩を挟みつつ、約二時間のドライブ。
県外にある、最近リニューアルしたばかりで話題の水族館に降り立つ。
「小さい頃に何回か来たことあるとこです。本当だ、外観もちょっと変わりましたね」
「水族館はデート場所の鉄板だからな。しかも、県外だからそうそう知り合いに出会わないだろ」
出会ったとしても、いつもと雰囲気変えてるから気づかれないだろうしな。
「堂々とデートできるように遠出したんだ、ほれ、手繋ぐぞ」
はわわっと驚く栞を無視し、手をとる。もちろん、安定の恋人繋ぎですが何か。
途中の休憩で私服は存分に愛でておいたが、改めて隣にいる彼女を見て笑みを浮かべてしまう。
「……なんです、その笑顔は」
「いやいや、そんな訝しがるなって。単に、デートが嬉しいだけだって」
大好きな彼女と一緒にお出かけってだけでここまでテンションがあがるとは自分でもびっくりだ。
隣にいて手を繋いでくれてる。話しかけたら、応えてくれる。
それだけなのに、こんな感じたことない幸せを感じてる。
「栞も、もちろん嬉しいだろ?」
答えは分かってるが、念の為に確認する。いや、ここでつまんないですとかいわれたら、凹むけど。
「……嬉しいですよ。照れてるだけです」
「そんなに緊張するなら、進路相談とかカタい話してやろうか?」
「ちょっと、それどんな嫌がらせですか!! せっかくのデートなのに進路とかの話はしたくないですー」
「ご希望なら先生として相談に乗ってやるけど、彼氏としても相談可能だからいつでもどーぞな」
検討しときますと小さくきこえた返事に苦笑する。進路先、悩んでるもんな。
大いに悩むがいい、青少年よ。
「進路の話が嫌なら、そうだな、お前の頼もしい親友に関するとある暴露ネタを進呈してやろう」
「え、なんです、その面白ネタ」
キラキラこちらを伺う栞に、とっておきのネタを提供する。
いや、ネタというかある意味懺悔だな。いい加減ばらしておかないと自分の首を絞めることになるからな。
「央守に兄貴がいるのは知ってるな」
「例の、海斗さんが話してたシスコンの生徒会長ですよね?」
「それそれ」
重度のシスコンの、な。
「その兄貴が、どこで学校での央守関係の情報得てるんだろうって愚痴られたことないか?」
「……あり、ます。例の蔵人くんに抱き着かれて気絶した時とか、詳細過ぎて怖いって」
「情報源、俺」
「は?」
はい。告白します。
央守の兄貴。俺の大先輩。
可愛い妹が入学すると分かってからすぐに、俺のとこにいらっしゃいまして、妹に関する情報を回せと脅されました。
ちなみ、それまで一切個人的に連絡交わしたことなかったっていうか、俺の個人情報をどこで入手して、目の前に現れたのかが謎のままなんですけどねっ!
卒業するまで三年間。毎日レポートを提出してます。
「あ、明子――――っ! ここに、ここに、裏切者がっ!!」
「裏切者いうな、俺も好きでやってるわけじゃないからな」
栞がはっと、こちらを睨み付ける。
「まさか、私が色々と話してた明子に関する情報も流してた、とか」
「ばーか。そこまで流すか。教師の俺が普通に拾える範囲での情報しかながしてねえよ」
俺のことを軽く疑いやがった制裁に、繋いだ手を持ち上げてちゅっと軽く口付ける。
「――っ!! な、何を」
「べっつにー、俺のことを見くびってくれたお返しですけど?」
繋いでいた手を振りほどこうとするのを、さらに握りこんで引っ張ってやる。
ふわりと甘い香りがする。その香りをほんの少しだけ堪能し、鼻先がかすめるくらいの至近距離で微笑んでやる。
「さて、どうしてほしい、お嬢さん?」
顔を真っ赤にして口を開けるも、言葉にならないのか、ぬわぁとか、乙女らしからぬうめき声が微かにきこえてくる。
とっさに、きゃあって言える乙女が世の中にはほぼいないのは知っているが、もう少し他にあるだろうが。
「反省した?」
もの凄い勢いで首肯する栞に、これ以上は泣かせちゃいそうだなと、手を振りほどく。
解放された勢いで、そのまま距離をとられるかなと思いきや、にゅっと栞の腕が伸びてきて、
むにゅううううぅぅっと、両頬をつねられた。
「ひ、ひたひ、ひたいっ。ひ、ひほひひゃん?!」
「やられっぱなしは性に合わないので、お返しですー」
このままだと、頬が赤くなると危機感を覚え、両腕をつかみとる。
「やってくれるじゃないか」
「……海斗さん、頬が赤くなって可愛くなってますよ」
「物理的にではなく、そこは精神的に俺を照れさせて赤くしてやろうとか思わないかな?」
「まだそこまで高度な技は覚えてないので無理です」
おい。無理と判断するの早すぎだろ。
そこは、ちっと努力しろ。ていうか、してください、俺が嬉しいので。
「簡単だって。この両手をこうして、後ろにまわしてくれるだけで、俺のときめきが得られますよ、お嬢さん」
掴んでいた栞の手を、ぐいっと俺の後ろにまわしてやる。
その際に小さくきこえた、にょわあぁっという怪奇な叫びは、聞かなかったことにしてあげよう。
自ら抱き着いたような体制になっている栞は涙目になってて、本当に可愛い。
「こここの体勢は難易度が高すぎですううぅぅっ!!」
「いやいや、しっかり慣れて頂かないと困るので、今後も挑戦お待ちしてるのでよろしく」
「無理無理無理っ」
ふるふると否定する頭を、ぽすんと優しくなでる。
「嫌?」
小さく問いかけると、むうぅっと、難しい顔をするも最終的には俺の胸に頭を預けてくれた。
「……嫌、じゃないです。恥ずかしいだけですー。くっ、この間まで同じ年だと思ってたのに年上とか勝てるわけないじゃん」
心の声がだだもれてるぞー。
そして、好き好んで年上になったわけじゃないからなー。時間軸のせいだから。そこは我慢してくれ。
可愛らしい文句をきかせてくれたお礼に、こちらも優しく抱きしめ返しておく。
と、まあ、邪魔にならないように隅っことはいえ、水族館という公共の場でいちゃついてるわけで、たまにきこえる爆発しろいうお言葉に、爆発してたまるかと心の中で応えておく。
まだまだ色々と展望がありますから。
ちょっかいを掛けすぎていて、いっぱいいっぱいの栞の耳に聞こえてないのは、ある意味ラッキーであろう。
こんな感じで、水族館を周りながら、普段はできないじゃれ合いをする。
最終的に魚を見た記憶よりも、海斗さんにちょっかいかけられた記憶しかないんですけどっと抗議を受けたり、それでも快く次回のデートの約束を受け入れてくれる彼女に笑ってしまったり。
そんな幸せな日々。
これにて、海斗視点の番外編も一旦終了です。
お付き合いありがとうございました。
WEB拍手なるものを設置しましたので、励みになりますので気が向いた方はぽちっとお願いします。




