突入!大迷宮ヴォルゴス──9
グラバラスの“ソードインパクト”により、フィールドに6本の巨大な剣が柱のようにそびえ立つ。ここからはフェーズ2と呼ばれる段階へ移行する。フェーズ2では引き続きヘイトトップへの前方範囲攻撃「ハードスケアクロウ」とランダム攻撃の「バーチカルダイヴ」、全体攻撃の「ダークストリーム」などに加え、フィールド上に複数の“回転する鎌”を設置する「ジェスターサイズ」も加わる──
アリスへのハードスケアクロウはソーマが「シェアディフェン」でダメージを肩代わりし、少しでもアリスの負担を減らす。相変わらず防御スキルを合わせていてもかなり痛い。
「アリス!気休め程度だけど……今のところこれくらいしか出来ないから」
「うん……それでいい」
ソーマは剣による攻撃をしつつ、アリスをフォローする。シェアディフェンスの効果でアリスへのダメージがそのままソーマへと伝わる。シェアディフェンス効果中はアリスのダメージの“半分”をソーマが受け持つことになる。ソーマとアリスはグラバラスの正面へ立ち、少しでもHPを減らすためお互い防御スキルの合間に攻撃スキルを繰り出していく──
「忙しいったらありゃしねぇ!」
「いまのうちにDPS(※)を稼いどかないと!」
※……ここでは本来の「Damage Per Second」の事を指す。
ミク、ボルフントはバーチカルダイヴを処理するとすぐさまグラバラスの攻撃を再開する。レイジとクラウスもそれに続く。レンジDPSであるレイジはともかく、詠唱を必要とするキャスターDPSであるクラウスにとってこの4層は非常に相性が悪いはずであるが、それをものともせず魔法を叩き込んでいく。ダークストリームの連続攻撃にドワイトは全体回復の連打で応酬し、メリアディは全体攻撃に合わせバリアを張り直す。
「ヒャヒャヒャヒャ……キミタチやるねぇ、でも僕も負けてないよォ!」
グラバラスはそう言って、自身が握りしめている巨大な“サイズ”……鎌を上空に放り上げる。すると上空に静止した鎌が青白く光り、その光が幾つもの光の塊にはじけ飛びそのままフィールドに落下する。
“ジェスターサイズ”と呼ばれる攻撃によってフィールドへ等間隔に設置された回転する鎌は、触れると被ダメージ低下のデバフをもたらす厄介な攻撃である。
幸い、中央からドーナツ状にジェスターサイズは配置されてるため、グラバラスを動かすことなく鎌の間を縫い、グラバラスに攻撃を与えてゆくソーマたち……このように、これまでの1~3層とは比べ物にならないほど多彩な攻撃がソーマたちに襲い掛かった。
そしてフェーズ2からは「ホリゾンタルストライク」が追加される。“ホリゾンタルストライク”はフィールド外からプレイヤー目掛けて突進してくる攻撃で、回避不可能なダメージとノックバック効果をもたらす。この攻撃を食らえばノックバックでどの位置にいようが問答無用でフィールド外へ吹き飛ばされてしまう。
そこで必要になってくるのが、フェーズ1でソーマが必死に設置した“剣の柱”である。この剣を壁代わりに使い、ホリゾンタルストライクの衝撃波によりフィールドから吹き飛ばされるのを防ぐ。
しかし、とりあえず剣の柱を壁にすればいい……というわけでは無く、ホリゾンタルストライクの侵入位置と剣柱は必ず対角でなければならない。
少しでもその軸がずれれば簡単に吹き飛ばされてしまう為、ホリゾンタルストライクが開始されたら素早くフィールド外へ注意を払い、どこからグラバラスが突入してくるか確認をする。そしてその対角上の剣柱を壁にするのだ。
グラバラスがジャンプし、いずこかへ消える。ホリゾンタルストライクの合図である。ソーマたちはすぐさまフィールド外のどこからグラバラスが来るかを確認する。
「どこだー?どこだー?」
「あ、10時の方向!来ますよ!」
「てことは…4時に集合か!遅れるなよ、吹っ飛ばされるぞ!」
「集まれー!」
フィールドを時計に見立て、10時の方向から消えていたはずのグラバラスがソーマたち目がけ勢いよく突進してきた。そのため、対角になる4時の方向に立っている剣へ全員が集まる。先行していたミクが集合場所を知らせるためピョンピョン跳ねる。
激しい衝撃を伴いグラバラスによる突進がソーマたち全員を襲う。そのまま吹き飛ばされるが、4時の方向へ避難していたソーマたちは剣へ叩きつけられるだけで、フィールド外へ吹き飛ばされることは無かった……そのあとにゴゥッ──という衝撃音が耳へ響く。
ソーマたちを仕留めそこなったグラバラスは侵入方向を変え、再びホリゾンタルストライクで仕留めにかかる。今度は8時の方向から飛来してきた。それも何とか剣の壁で対処したソーマたちは、ホリゾンタルストライクを諦め、再びフィールドに降り立ったグラバラスへ攻撃を集中する。
「しぶといネ……これでもダメか……」
アリスへの攻撃を行いつつ、グラバラスはクラウス目掛けバーチカルダイヴを放った。グラバラスが飛び上がった瞬間、上空から光の筋がクラウスに向かって放たれる。しかし、ボルフントが攻撃するためにグラバラスに貼り付いたままだったため、バーチカルダイヴのシェアが十分では無かったのだ……。
結果的に、シェアするために向かっていたメリアディ、ミク、レイジは攻撃に耐えられず、標的になったクラウスと共にその場で崩れ落ち、戦闘不能となってしまった。一気に4人が戦闘不能になってしまったため火力がガクンと落ちる。また、ヒーラーであるメリアディが戦闘不能になってしまったのも痛かった。
「まずはメリアディさんから……」
ドワイトはアリスへの回復を行いながら、冷静にリカバリでメリアディを起こそうとする。しかし──
「いや……ワイプしよう、今のところは粘りすぎたな……」
「だな、すまねぇ……」
「了解です……」
「もーダメですぅ……」
クラウスが仕切り直しを宣言する。ボルフントは自分のミスによりパーティが崩れたことを詫びる。すでにメリアディ、レイジ、ミク、クラウスが戦闘不能となって床に突っ伏している。ワイプ宣言が出たのでソーマとアリス、ボルフント、ドワイトはワイプするために自ら戦闘不能になる必要があった。
ようは“自殺”である……幸い、この4層バトルではフィールドから落ちる事が出来たため、生き残っていた4人は各自フィールドから飛び降り、自ら戦闘不能となる。
ソーマは飛び降りる際に一瞬躊躇したが、ここがVR空間であることを思い出し、意を決してフィールド端まで走り……そこから思い切って自らの身を投げ出した。
「ぐぅッ……!」
降下時に頭の奥にザラリとした頭痛のような……耐えがたい感覚をソーマにもたらす――
飛び降りてしばらくすると、目の前が一瞬暗転し全員が復活した状態へ戻される。再び開幕時の、グラバラスと相対した状態となった。
「落ち着いていこう、火力出すよりもギミック優先で構わない」
「おっけぇい!まぁ、久しぶりってのもあったからな!」
「おっさん、それ言い訳になってねぇ!」
クラウスが皆にそう促すが、ボルフントは先ほどのミスを弁解する。しかし、すぐさまレイジに突っ込まれる。キンッキンッ――という音と共に全員が白い光の壁に包まれる。改めてメリアディがソウルウォールを掛け直した。
「アリス任せた……」
「……うん……いくね」
――ハァアアアアアア!!!!
グラバラスめがけアリスが走り出す、と同時にタウントスキルであるハウリングブレードを放つ。剣の切っ先から光の波紋が飛び出しグラバラスへ着弾する。それに合わせ全員が距離を詰め、先ほどのアリスの合図によって再び戦闘が開始された。
そこから再びフェーズ1のソードインパクトの処理、フェーズ2のホリゾンタルストライクを処理し、今度は順調にフェーズ3を迎える。
「よしよし、順調」
「ドワイト、あなたMP温存しといていいわよ。ここはわたしのバリアで持たせる。単体ヒールだけお願い!」
「了解しました。アリスさんを見つつヒールを抑えます」
「ハッハァアアア!いいね!いね!キミタチほんと面白いよ!じゃあ次いこうかぁ!!そぉ~ら……グラウンドヴェイル!」
グラバラスがグラウンドヴェイルの詠唱を終えると、フィールド上空に突如巨大な剣が現れる。その剣はフェーズ1で落ちてきた剣より遥かに大きく、10メートル以上はあろうかという大きさであった。その剣は出現すると同時にフィールドめがけて落下し、剣の切っ先がフィールドの中央に深々と突き刺さった。グラウンドヴェイルの詠唱が完了すると段階的に剣が深くめり込んでいく。
1回……2回……と、グラウンドヴェイルで剣がめり込む度に激しい爆風が起こりソーマたちはフィールドの外周へ吹き飛ばされる。ホリゾンタルストライクの時と同様に、フィールドにある6本の剣を壁にして吹き飛ばされるのを防ぐが、3回目のグラウンドヴェイルによって剣はさらに深く突き刺さる。そして──
ゴゴゴゴゴ──
フィールドの床部分に勢いよくヒビが走る。割れた床は捲りあがり、大小さまざまな破片になってバラバラと音をたて崩れ落ちていく。
「おっとっと……来たぞ来たぞ」
「きゃぁあああああああ!」
「うわっ……っと……」
「大丈夫、演出で落ちません。そのまま見ていましょう」
「凄い……こんな仕掛けが……」
ソーマは崩れ落ちる床から滑り落ちないように踏ん張るが……クラウスが言う通り、床が崩れ落ち、足場が無くなっても落ちることは無く足をバタつかせていたソーマは光に包まれてその場に浮遊する。そして……フィールドが全て崩れ落ちると、それまで紺色の星空しかなかった景色が、突如としてインスタンス全体が業火の真っただ中のように真っ赤になる。同時にさきほどの床の代わりに“光る円形のフィールド”が発生した。ソーマたちはその光るフィールドへとゆっくりと降ろされる。
フィールドの外周では炎が柱のように吹き出し、炎のゆらめきがフィールドの周囲を囲う……。さっきまでソーマたちが戦っていた“星空に浮かぶ舞台”という幻想的な景色は、実はグラバラスの幻術によってそう見えていただけであった。
本来の4層が姿を現す……。ソーマはこの変化を目を凝らして見ていた。先ほどまでの静寂な星空とはうって変わって、燃えさかる炎の壁がごうごうと音を立てている。熱さは感じないはずだが、その景色に圧倒されて汗が頬を伝う錯覚に陥る。この段階ですでにグラバラスのHPは4割ほどに減っていた。
そうして、いよいよ最終フェーズであるフェーズ4まできた──
「いやはや……強いねキミタチ。殺すな……とは、ヴォルゴスには言われたんだけど……ちょっと本気出させて貰おうかナ!」
そう言って、グラバラスはこれまでのソーマたちの攻撃によるダメージでヒビが入っていた黒い甲冑を弾き飛ばす。
すると、その中からグラバラスの本体が現れた。その姿は全身に炎の帯を纏った“人型”をした悪魔の姿である……。
「さぁ、最終フェーズです。気を引き締めていきましょう!」
「もうここまで来たらクリアするしかないぜぇ!」
「いける……いけますよ!」
「引き続きわたしはアリスさんを見ます。メリアディさんはHoTで全員の継続回復とバリアをお願いします……」
「おっぇけぇい!任せなさい!」
「ソーマ……がんばろ」
「ああ……了解!」
フェーズ4の準備としてソーマたちはすぐさま陣形を作り直す。アリスは引き続きグラバラスをフィールド中央へ固定し、DPS陣はそれぞれの位置でグラバラスに攻撃を与えてゆく。ヒーラーの2人はMPを温存しつつ、とっさの回復に備える。
(いよいよだ……ここまできたからにはクリアしたい!)
ソーマも意識を集中しフェーズ4へ臨む。
いよいよこのフェーズ4でグラバラスのHPを削り切ればクリアである……しかし、このフェーズ4が大迷宮ヴォルゴスにおいて最大の難関であった──




