突入!大迷宮ヴォルゴス──8
いよいよ「大迷宮ヴォルゴス──探索編」も残すところ4層だけとなった。これまでと同じく、ソーマはクラウスたちと4層へ挑む。マッチングにより大迷宮ヴォルゴスへ侵入すると、3層の礼拝堂に転送された。礼拝堂の両側にある壁の窪みにはカストルとポルックスの像はすでに無く、あれだけの戦闘を繰り広げたのがウソのように静まり返っていた……。
「いよいよ4層かぁ……みなさん、今までありがとうございました。レイド初心者の自分に付き合ってもら……」
「いやいやソーマちゃん、礼を言うのはまだ早いよ。そういうのは4層までクリアしてからにしようぜ!」
「そうだなぁ…ま、4層終わってからにしようや!」
ソーマがガントレットの皆に礼を述べようとするが、すかさすアデントであるレイジはソーマを見上げつつそれを遮る。ボルフントもそれに追随するように腕組みをしたまま頷く。
「3層もですが、4層はプレイヤースキルが試されます。何度もクリアしている我々でも油断すると全滅しますからね……」
「もう、始める前からそんなこと言って……こういうのは4層クリアしたらみんなでいっぱい喜べばいいの!」
クラウスが気を引き締めるように言うが、そんなクラウスへメリアディが“空気を読め”……といわんばかりに諭す。そのやり取りを横目にアリスがソーマへ顔を向ける。長い黒髪に強調された白い顔が眩しい──
「ソーマ……」
「……ん?」
一瞬……ほんの一瞬であったがアリスとソーマ、二人だけがお互いを意識する──
「なんでもない……」
アリスはすぐにそっぽを向いた。ソーマはその仕草が何を意味するのかよくわからなかったが、今は気にすることなく前へ進む。
「?……じゃあ行きます!」
礼拝堂の先にある巨大な扉へ進み、ソーマが扉へ手をかざす。すると、ソーマに反応して巨大な扉は音もなくゆっくりと開いた。開いた先は暗闇になっていたが、ソーマたちは臆することなく進む。この先はいよいよ4層、探索編の最終ステージである。
4層へと続く通路は明かりとなるものが何もなく、真っ暗で一寸先も見えない。ソーマは足元を確かめると、とりあえず床はあるらしく……歩いて前に進むことが出来た。そのまましばらく進んでいくと、やがて目の前が明るくなり出口が近いことがわかる。
「やっぱり緊張しますね。当たり前ですが、4層が一番難易度高いですから……」
「慣れてるオレらですら油断すっと全滅だからなー。アイテムレベルのゴリ押しはできねーし」
「大迷宮ヴォルゴスは特にプレイヤースキルが問われるコンテンツですから……しかし、ここまで来れたソーマさんなら大丈夫ですよ」
「ソーマ……いつも通りやればいい」
「……ありがとう」
ソーマは自らが震えているのに今更ながら気づく……この震えが武者震いなのか、本当に恐怖で震えているの分からなくなっていた……おそらくは後者であろう、とソーマは苦笑する。アリスも言動からソーマの緊張が見てとれるのか、気休めではあったがアリスなりの精一杯の励ましを送る。
しかし、ソーマにとってはアリスのその言葉がなによりも嬉しかった。ここまでくるとさすがに気を引き締めているのか、ソーマ以外のメンバーですら軽口を出すことは無く……全員が一歩一歩、確実に歩みを進めていく。そして出口を抜けると――
その先は部屋、というよりは何もない空間が広がっていた。かろうじて円形の舞台へ階段が繋がっているのが見えるだけで、それ以外には……天井はなく頭上一面、深い紺色の星空になっていた。4層の入り口から続く階段はそのまま空間に固定された舞台へと続く。ソーマたちが階段を昇り円形の舞台にたどり着くと、床の中央に人影が見えるのに気がづいた。
中央に佇むそれは、全ての光を吸い込むような……真黒なローブを頭から羽織っており、その人影はソーマたちが近づいてくるのを見計らい声を出す──
「おや、ここまで来れたのは君達が初めてじゃないかナ?でも残念……ヴォルゴスはここには居ないヨ?僕を倒せばヴォルゴスの居場所が分かるかもしれないネ……どうだい?勝負するかイ?」
性別を感じさせないその声は、ソーマたちへヴォルゴスがここには居ない事を告げる。ローブに隠れて顔は見えず、全く微動だにしないその姿にソーマは薄気味悪さを一層強くした。そんなソーマには目もくれず、ローブ姿の人影は話を続ける。
「ちなみに僕の名は『グラバラス』、これまでキミタチが倒してきた門番と同じデーモンだヨ。ま、誰も訪れなくて僕も退屈してたところだしネ──暇つぶしに……相手をしてもらおかナ!」
そういって自身を”グラバラス”と呼ぶデーモンは、被っていたローブを脱ぎ捨てる。すると、ローブの下からは異形の姿が現れた。体格はボルフントと同じ……いやボルフントよりもやや大きいくらいだが、全身が黒い甲冑で覆われており、兜からは二本の捻じれた角が左右に広がりながら生えている。そして背中にはコウモリのような羽根を備えたシルエットはまさに“悪魔”そのものであった……。
両の手には巨大な鎌……鎌と言っても本当に死神が持ついかにも意匠的な……中世の“サイズ”が握られており、その刃は長く湾曲し内側の刃は怪しく紫に輝いていた。
メリアディによる事前の防御スキルの詠唱を終え、各自の準備が完了する。それを確認したアリスのハウリングブレードで戦闘が開始される。
アリスはその場で動かずにタウントスキルを当てた。いつもならばアリス自身がボスとの距離を詰め北へ固定するのだが……
「キミに相手をしてもらおうかナ!」
グラバラスは先ほどのハウリングブレードを合図とみてアリスへ突進する。アリスは突進してきたグラバラスを躱し、フィールドのほぼ中央でグラバラスを固定する。大体のレイドにおいてはフィールドの北へボスを固定するのがセオリーであるが、今回のグラバラス戦においてはフィールドの中心にボスを置く。これは開幕から来るとあるギミックの為である。
「ソーマさん、誘導役お願いします」
「了解です!」
戦闘が開始されると、ソーマはすかさずグラバラスから距離を取った。開幕からくるグラバラスの「ソードインパクト」とよばれるギミックの誘導役としてであり、グラバラスから離れそのまま一人で円形になったフィールドの端ギリギリの位置に陣取る。ソーマはフィールドの床に描かれている模様をチラリと確認し、位置を調整する。
「よし、こんなもんか……」
他のメンバーはちょうど、ボスとソーマの間に固まりソードインパクトをソーマが誘導しやすいように、言ってみればソーマが一番ボスより離れている状態へ持っていく。決してボスの前へは行かない。ヘイトが一番高いプレイヤーに使ってくる前方範囲攻撃の「ハードスケアクロウ」があるためだ。これをタンク以外が食らおうものなら、ほぼ即死である。
「……ぐッ……」
アリスは度々繰り出されるハードスケアクロウに防御スキルを合わせながら耐える。HPが大きく減らされるが、ドワイトはインスタントの回復スキルを合わせアリスを支援する。メリアディも負けじと全体回復で対抗する。アリスとソーマ以外のDPS及びヒーラーはボスのすぐ後ろで密着し「バーチカルダイヴ」に備える。グラバラスがその場から一旦ジャンプし、ランダムに対象を選んで降下してくるバーチカルダイヴは、離れているよりかはお互いが密着している方が危険は少ない。また、この攻撃はプレイヤー同士重なることでダメージをシェアできるからだ。
「よし、じゃあこんなのはどうかナ?」
ゴゴゴゴッ──
“ソードインパクト”……グラバラスは右手に鎌を持ち、その空いた左手を天に向ける。そうすると上空から振動音と共に強大な剣が降ってきた。その剣はちょうど、ソーマがいるところめがけ落ちて来る。ズシンッ――という音を響かせ、切っ先を床にめり込ませながら巨大な剣は柱のように突き刺さった。
「と……っとと……」
ソーマはギリギリのところで剣を躱す。剣が突き刺さる衝撃でよろけるが、何とか持ち直し次の誘導場所へ移る。
グラバラスの周囲に紫色がかった円形のオーラが発生する。
「危ない!」
「クリティカルエッジか!」
ミクとボフルントが勢いよくグラバラスから離れる。それ以外のメンバーも一旦グラバラスから距離を取る。グラバラスは両手に持った鎌を思い切り振り回した。ブォン――という音が響く。
「クリティカルエッジ」と呼ばれるこの攻撃は、ボスの近くにいるプレイヤーを吹き飛ばす範囲攻撃で、当たればダメージの他にノックバック効果も持つ……そのため、ボスの固定位置が悪いとそのままフィールドの外へ弾き飛ばされ戦闘不能になってしまうやっかいな攻撃であった。
「ハハハ……粘るねぇ……じゃあ次行くヨ!2本目!」
それを合図に2回目のソードインパクトが来る。先ほどと同じように、ソーマのいる場所へ巨大な剣が降ってくる。これも難なく回避し、次のソードインパクトまでは余裕があるためグラバラスの攻撃へ参加する。ちなみに降ってくる剣は、お互い近すぎると爆発してしまう為、剣柱同士をある程度距離を空けねばならない。
──“剣”はある程度離して……フィールドに目印があるのでそれを目安にすると分かりやすいです──
ソーマは事前にクラウスに言われていた事を心の中で反芻する……そして、フィールドの床に描かれた模様を目印にして降ってくる剣を等間隔に置いていく……。剣が降ってくる度にソーマは位置を変え、剣柱を誘導していく。
3本目……4本目……5本目……6本目……
(よし……いいぞ!ちゃんと剣が重ならず並んでる)
ソーマが落下地点を誘導した6本の剣柱は、フィールドの端をぐるりと囲むように六角形を描きそそり立つ。
「ヒャア!綺麗に並んだねぇ……じゃあ次は何して遊ぼうかなァ!」
グラバラスはフィールド全体へ範囲が及ぶ「ダークストリーム」を放つ。黒い衝撃波がフィールド全体に発生しソーマたちを包み込む。1回、2回と連続で放たれたダークストリームに対し、メリアディは全体バリアで、ドワイトは全体回復で全員のHPを急いで戻す。
「んもぅ!この攻撃嫌い!」
「ソーマさんやるぅ!わたしたちも負けてらんないなぁ……そぉれ!」
「同意……DPSはDPSの仕事をしろってね!いっくぜぇええ!」
ミクが続け様に攻撃スキルを繰り出す。グラップラーの武器である両方の拳に嵌められた手甲が唸りを上げて連続でグラバラスへ撃ち込まれていく。レイジの弓から放たれた光の矢は、途中で何本もの矢に分かれグラバラスへ突き刺さる。“ストレンジアロー”はレンジャーのスキルの中で最大の威力を持つ。そしてボルフントの槍の一閃が……クラウスの爆裂魔法がそれに続く――
それでもまだグラバラスのHPは2割ほどしか削れてない。
剣柱を6本落としたとろでフェーズ1は終わりを告げ、いよいよフェーズ2へ移行する――




