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風剣龍ブルトガング

 ──剣龍……彼らはなぜ生まれたのか?


 神々が振るう剣の破片から生まれた剣龍は人々のそのような疑問を余所に、封印を解かれるや否や、それが当然であるかの如く暴れまわった。最初に封印を解かれた雷剣龍カラドボルグはエレデイアの精霊樹海を徘徊し、頭部から突き出た角に帯電させた雷撃で樹海の大樹を根こそぎ破壊し、次に封印を解かれた水剣龍ズルフィカールはロムダールの沖合に出現し、行きかう商船を片っ端から沈めて回った。


ただ、彼らにも自我はあり、意思の疎通はある程度は可能であった。それでもこちらの要求を呑むわけでもなく、彼らは破壊衝動にまかせ世界を破壊し尽くすため、討伐して再封印を施すしかなかった。


剣龍は放っておけば数多(あまた)の人々が剣龍の咆哮に焼かれ、爪で引き裂かれる……。各国の軍でさえ剣龍には太刀打ちできず、被害は増すばかりであった。

このままではヴレインディアから人の営みは無くなってしまう、それだけは避けなければならない。


かくして、魔導要塞アーレデインを陥とした事で名声を得た冒険者であるソーマへ、剣龍討伐の依頼が舞い込んだのである。


──マローワ環状列石群──


ソーマたちパーティは全体防御魔法などの下準備を終えており、あとはMTであるアリスの初動で戦闘が開始されるのを待つばかりであった。


「ソーマ……説明したとおりにやればだいじょうぶ……だから……」


アリスはソーマへ、落ち着けと言わんばかりの言葉を促す。当のソーマはすでに頭の中でスイッチに対しての手順を何十回も反芻(はんすう)していた。


「スイッチさえ上手くいけば、この剣龍はこれまでの剣龍とさほど強さは変わりませんよ」


「ただ、オレたち近接には苦手な剣龍なんだよなぁ……」


「ですねぇ……わたしもこいつ嫌い!」


見かねたクラウスがソーマの緊張をほぐそうと声をかける横で、ボルフントとミクは揃って愚痴をこぼす。


風剣龍ブルトガングは()()()()で有名であった。

ブルトガングの主な攻撃である「エアロバウンド」……ブルトガング中心に外側へ向かって風の衝撃波が出されるスキルである。これが発動するとノックバック……吹き飛ばされるため、エアロバウンドが発動する度に吹き飛ばされ、そしてボスへ近寄るのを繰り返すことになる。

また、パーティメンバーをランダムでターゲットし、その対象メンバーにAoE(※)を発生させる「ドロップダウン」など、とにかく、ギミックによって近接がボスに貼り付く時間を取らせないこの剣龍は、近接DPSに非常に嫌われていた。


(※)Area of Effectの略。瞬時、または一定時間、地面に範囲として現れる魔法やスキルを指す。


「まぁ、こいつはオレやクラウスさんみたいな遠隔が輝く剣龍だからな!」


レイジが生き生きと主張する。その通りクラウスや、レイジのクラスであるレンジ(遠隔)DPSなどはギミックに縛られずDPSを出しやすいといえる。


「行くね……」


アリスが最終確認を終えた後、皆にそう呟いた。


「ハァアアアア!」


ハウリングブレードを発動し、そのままブルトガングへ突進していくアリス。


「恐れズ……我に向カッテくる事誉めてやろう!……ダガッ、その蛮勇ニ後悔セヨ!!」


そう叫ぶとブルトガングは巨体を起こしパーティへ迫ってきた。


 すかさずアリスがボスを北へ固定する。それを見たメリアディやドワイト、クラウスやレイジはブルトガングの左右のやや後方へ陣取った。セオリー通りならタンク以外はボスの後方、真後ろに位置取るのが基本である。しかし彼らは綺麗に左右に分かれ、真後ろを空けていた。その理由はすぐに分かった。

ブルトガングは体を一瞬振るわせ、巨大な尻尾を左右に一薙ぎした。砂埃が後方で舞い、真後ろにいれば確実に尻尾の餌食になっていただろう。


「テイルブーム」……巨大な尻尾で薙ぎ払う後方範囲攻撃である。これがある為にブルトガングの後方に位置取ることは自殺行為であった。最初の大技、テイルブームを難なくやり過ごした皆は順調にブルトガングへダメージを与えてゆく。


大型のボスモンスターであるブルトガングの攻撃をその細身の体で凌ぐアリス、それを横目にソーマはアリスの右向かいに立ち、STとしてありったけの攻撃スキルを撃ち込んでいた。

アリスにブルトガングの巨大な前足が容赦なく襲い掛かる。


ガシィイン──


アリスはそれを巨大なシールドで防ぎつつタウントスキルを繰り出してゆく。ヘイトゲージを確認し、ある程度のヘイトを稼いだ後はアリス自身も攻撃へ転じるのを忘れない。


「くっそ、ホントうぜぇな!このエアロバウンドはよ!」


スロウターであるボルフントは、度々繰り出されるブルトガングのエアロバウンドのノックバック効果でボスから離れたり近づいたりを繰り返してた。スロウターとは主に槍や斧槍、長刀などの長柄武器を扱うクラスである。長柄武器を使う割には射程が短く、近接DPSとして扱われグラップラーと同様にボスに密着しこそ真価を発揮する。


そのため、一旦離れてしまうと攻撃可能距離まで再度ボスに近づかねばならない。ボルフントとミクがエアロバウンドに四苦八苦しているのを余所に、レンジDPSであるクラウスとレイジは安全な位置から着実にダメージを与えていく。


「おっさん、ちゃんとDPS出してくださいよぉ」


弓を引き絞りながら余裕の表情でレイジはボルフントを煽る。その後弦を放ちレイジの弓からは輝く矢が放たれた。「ストレンジアロー」はレンジャーのスキルの中で一番火力があるスキルである。クラウスも「アイスドレイン」や「フレアブラスト」などの魔法攻撃を繰り出しダメージを与える。


クラウスなどのキャスタークラスはスキルの発動に「詠唱時間」が発生する。数秒ではあるが、詠唱中は動くことが出来ず、このためスキルを発動する直前の位置取りが重要になってくる。詠唱が存在するため扱いは難しいがその分火力が高めに設定されているスキルが多く、これがキャスターが()()()()()()()()()と言われる由縁である。


「やーん、わたしぃ?」


ミクの頭上に半透明な緑色をした菱形のオブジェクトが浮かぶ。ドロップダウンのターゲットにされた証で、ミクはすかさずボスの真後ろからフィールドの南へ向かいAoEを捨てる。こうしないと3連続で来るAoEを味方に当ててしまうためだ。

なんとかボスのギミックを処理しつつ、ブルトガングのHPを30パーセントほど減らしたころ、ブルトガングは大技の予備動作としてその鳥のような嘴を大きく開いた。そして勢いよくブレスをアリスへ吐き出した。


「消シ飛べ!愚カなヒトよ!…ゴァアアアアアァァァ!!!」


「エンビレルバースト」、この攻撃は前方扇型に広がるスキルで、ダメージと共に対象へ「被ダメージダウン」の追加デバフをもたらす。ダメージもさることながら、そのデバフが非常に厄介であった。連続して繰り出されるエンビレルバーストによってアリスに付与されたデバフはひとつ、ふたつ……とみるみるスタックしていく。

デバフが3つほどスタックした時点で、ブルトガングの通常攻撃でさえアリスへのダメージは相当なモノになった。ドワイトがアリスへヒールを飛ばし続ける。


「アリスちゃん頑張って!」


メリアディもHoTでクラウスのヒールワークを支援する。


「ソーマ、次のバースト来たらスイッチ……」


「え?あ、了解!」


アリスはタウントスキルの頻度を緩め、ソーマのザッパーブロウの発動に備えた。

ブルトガングが再びエンビレルバーストの予備動作に入った。その瞬間……


「今!」


アリスが咄嗟に叫ぶ。


「こっちを向けぇ!」


 それを確認すると、ソーマは手を上にかざす動作と共にブトガングへザッパーブロウを発動する。すると上空から光の筋がブルトガングを包み込む、ソーマはすかさずタウントスキルを叩きこんだ。エンビレルバーストのブレスはそのままアリスへ吐き出され、同時にデバフを付与する。アリスの被ダメージダウンのデバフはこれで4つにスタックされた。

こうなってはもうタンクとしてボスを引き付けておくことはできない。次の攻撃でHPをほとんど減らされてしまうからだ。


しかし、ソーマがスイッチし、MTがソーマへと入れ替わったためアリスがデバフを解除するまでソーマがブルトガングを受け持つ。初めてのスイッチは予想に反して上手くいった。アリスはソーマの傍らへ移動し、攻撃スキルを打ち込みつつ次のスイッチまで待機する。


 ブルトガングのHPは50パーセントを切っていた。スイッチは一巡し今はソーマがMTを務めている。そうするうちに4回目のエンビレルバーストの予兆が来た。次はSTのアリスがザッパーブロウを発動しMTを担当する番である。一巡目は上手くいった、次も同じようにすれば問題なくスイッチが出来る、筈であった……しかしソーマは重大なミスを犯した。

アリスがザッパーブロウを発動したのにタウントスキルを全力で発動していたのである。ザッパーブロウは()()()()()()()()1()()()()()()()のスキルである。そのあとにタウントスキルを発動することによって、完全にボスを注視させ事が出来る、が……アリスがタウントスキルを発動させる前にソーマが全力のタウントスキルをブルトガングに叩き込んでしまった。


「ダメ!タウントスキル控えて……」


「しまっ……」


アリスが咄嗟に叫んだが遅かった。こうなってはもうアリスにはヘイトを取り返せない。ザッパーブロウはリキャスト中なのであと10秒は使用できず、タウントスキルで徐々にヘイトを奪うしかない。しかしそんな余裕は無かった。いまだMT状態のソーマへブルトガングの前足が迫る。

デバフが4つもスタックしていたソーマにとって、その攻撃を防ぎきるのは無理であった。いくら防御スキルを使おうと一瞬でHPを全部奪われたのである。


ブルトガングの渾身の攻撃を食らったソーマは、力なく膝から崩れ落ちた。手足の感覚が無くなり、天を仰ぎながらその場に倒れ込む。


「あ……」


アリスはそれを見て、瞬時にブルトガングのヘイトを取る。幸いザッパーブロウのリキャストが戻っていたので容易に取り戻すことが出来た。アリスがそのままMTを受け持つ。ドワイトはすぐさまリカバリ(蘇生魔法)を唱えソーマを蘇生する。


「ソーマさん、そのまま起き上がって大丈夫。すぐにHPを戻します」


ドワイトがソーマへ蘇生を促す。


「くっ……」


ソーマはすぐに起き上がってパーティに復帰する。だがすでにブルトガングの次の攻撃の予兆が来ていた。


「グゥオオオッ……ヒトに……このヨウナ(ちから)が……ナゼだ!」


ブルトガングはそう叫びながら、上半身を持ち上げ両腕を左右に広げた。すると両腕からプレイヤーほどもあろうかという大きさの、シャボン玉のような緑色の球体「ウィンドエクスプロージョン」がフィールドの左右に出現した。するとブルトガング自身は詠唱を始めると、(もや)のようなモノに包まれターゲットできなくなった。


究極(アルティメット)龍技(ドライブ)》と呼ばれる、回避不可能の全体範囲攻撃の予兆である。


 フィールドの左右に出現したウィンドエクスプロージョンを、ブルトガングが詠唱を終える前に壊さなければ、詠唱を終えた究極龍技がパーティ全員のHPを一瞬にしてゼロにするほどの威力で襲い掛かる。DPS陣はすかさす左側のウィンドエクスプロージョンへ照準を定め、攻撃を叩き込んでゆく。今はSTであるソーマも左側の処理に回る。みるみるウィンドエクスプロージョンのHPは減っていき、ものの30秒ほどで左側のウィンドエクスプロージョンは破壊できた。続いて右側のウィンドエクスプロージョンを破壊する。

両方を破壊することに成功したソーマたちは、フィールド中央へ固まり究極龍技に備えるため、メリアディが女神の抱擁を発動しバリアを出現させる。ドワイトの全体回復魔法(ロードキュア)もそれに続く。


「これで終わリダ……吹き飛べ……!!!」

 

ブルトガングの詠唱が完了したと同時にフィールド全体に薄い緑色の竜巻のような衝撃波が襲う。


ズゥォオオオオオオ──


あまりの衝撃に地面の石畳がガタガタと震える。しかしパーティは直前のウィンドエクスプロージョンの処理と、ヒーラーのバリア効果により皆のHPは3割ほど減った程度で済んだ。究極龍技を凌いだ今、もうブルトガングに奥の手は残っていなかった。先ほどの失敗が嘘のようにソーマとアリスはエンビレルバーストを処理し、他のメンバーはそれぞれの自分に与えられた仕事をこなす。


エアロバウンドを受けながらもボルフントとミクは最大限の火力を以てブルトガングのHPを削ってゆく……10%……5%……2%……そして──


「こンナ……ヒト如きに……ワレが……オォオオ!」


ブルトガングのHPをすべて削り切った瞬間、天に向けて声にならない咆哮を上げ、風剣龍ブルトガングの体が霧になって消えていった。


<<Congratulations!>>


とうとう風剣龍ブルトガングを討伐できた。あとは再封印を施すだけである。いつの間にか暴風は止み、辺りは静かなマローワ環状列石群の風景に変わっていた……。ソーマは中心部にある石英の柱に近づき、魔導師ギルドに託された護符によって再封印を施す。護符の効果により、石英の柱は色を失った黒から緑色の輝く石英に変わる。3体までの剣龍を封印した冒険者の名声は、この後ガルドス帝国にまで轟くことになる。


それが何を意味するのか、今の段階では知ることはできない。再び次の剣龍の封印が解かれるまで、ソーマは力を蓄えるだけである……。


ともあれ、風剣龍ブルトガング討伐戦は終わりを告げた──

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