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タンクの心得

 ソーマはブレオンにダイヴするなり、先に来ていたミクに直接会話(ダイレクトチャット)で呼び出された。何でも話があるので、()()()()()まで来てほしい…と。


ヴレインディアの東部は「精霊樹海」と呼ばれる広大な樹海に覆われている。その樹海を領土とするのがエレデイアである。エレデイアはまた、エレシンの故郷でもあり、神秘主義を貫く閉鎖的な国家として知られていた。

そのエレデイアにある神都ラーファムは、ミクが所属しているギルドハウスがある街だ。ミクが所属する「トリンシック」はこのラーファムの街にギルドハウスを構え、拠点としていた。


 ブレオンではギルドにハウジングコンテンツ用のハウスを持つことが出来る。ギルドハウスは現在、エレデイア、レクテナント、ロムダール……それぞれの首都にインスタンスエリアが別に設置されており、手続きを踏めばそこにギルドハウスを設けることが出来る。

ギルドハウスを設けるには莫大な価格の土地権利書が必要になるため、多くのギルドはメンバーを増やし個人のゴルダ(ゲーム内通貨)を持ちあったりカンパなどで資金を集め、土地権利書を購入する。土地が手に入れば、ギルドハウスを建てることが出来るという仕組みだ。


トリンシックのギルド員は12人、ギルドマスターはあのクラウスだという。


「あー、あの人ギルドマスターだったんだ……。確かに見た目からリーダーオーラ出てるもんな」


「そうそう、で、わたしがお世話になってる『gauntlet(ガントレット)』っていう固定のマスターもしてるんです」


ブレオンにおいてギルド員の上限は150人。それを鑑みると12人という人数は非常に少ないといえる。


「でも12人ってかなり少なくない?」


ソーマは「ギルド」というからにはもっとこう……大所帯な会社のような組織を想像していた。それがたったの12人である。


「元々、クラウスさんがレイド活動するために作ったギルドらしいので、メンバーも固定の人がほとんどで、他はメンバーのフレンドが数人居たりな感じなんです」


「あぁ、この間手伝ってくれた人たちか……で、そのトリンシック……だっけ?ギルドに入らないか……と」


「はい、ソーマさんまだギルドに入ってないですし、もしこれから入ろうと思ってるんだったら是非うちに、と」


「んー……まぁ、ギルドにはいずれ加入するつもりでいたから、誘ってもらえるならうれしいけど」


ギルドに加入すると、経験値取得の増加やギルド倉庫の使用権利、ステータスが一定時間上昇するギルド専用バフアイテムの使用など、ギルドに加入することによって得られる恩恵は大きい。よってブレオンにおいては「とりあえずどこかしらのギルドに加入しておく」というプレイヤーがほとんどであった。ソーマもいい機会だったのでこの際、ミクの誘いを受けることにした。


「じゃあ、クラウスさんにも話しておきますね、多分すぐに招待の通知が来ると思いますけど」


「あぁ、お願いするよ」


「ところで、話は変わりますけど──」


その後、ラーファムのギルドハウスでミクとひととき談笑したあと、ミクと別れソーマはこれから挑戦するレイドの為に装備や食事、戦闘中に使用するアイテムの在庫を確認するため、一旦レクテナントへ向かった。


──商業都市レクテナント──


 神話の時代、陽神ラーファムと夜神バルサーは月神ルネを巡り、数千の年月戦い合っていた。やがてお互いの剣でつば競り合ったとき、とうとう剣が砕けてしまったのである。両者の砕けた剣は12個の大きな破片となり大地に降り注ぎ、やがてそれが剣龍……と呼ばれるドラゴンと化して大地を蹂躙し始めた。


それを見たラーファムとバルサーは争いをやめ、大地を荒らすドラゴンをお互い協力して封印した……といわれている。しかし、近年その封印が何者かによって解かれ、ドラゴンは再びヴレインディアの大地を荒らし始めた──


というのが「剣龍討伐」と呼ばれるレイドコンテンツの背景設定である。現在バージョン2.3では3体までの剣龍が実装されており、ソーマはこれまで“雷剣龍(らいけんりゅう)カラドボルグ”、“水剣龍(すいけんりゅう)ズルフィカール”をアリスの指導の元クリアしていた。


「ソーマ……()()()()って知ってる?」


ソーマはアリスと合流し、グライユの街の冒険者ギルドで今から挑む「風剣龍(ふうけんりゅう)ブルトガング」の説明を受けていた。

「は?スイッチ……ですか?いや……よくわかんないです。何かを押すギミックとか?」


「……まぁいい、ブルトガングはタンクのスイッチが必要。これやらないと全滅する……」


「えぇ……」


 冒険者ギルドに併設されている酒場でテーブルに座り、アリスからタンクについての講義を受ける。目の間に座るアリスが真剣な面持ちでソーマへ大まかなスイッチの概念を説明することにした。

丁度、テーブルの上にHPを回復するポーションの瓶と、特定のステータスを強化させる強化薬の瓶が並べられていたのでそれらを使い、タンクとボスに見立てアリスはタンクの位置取りを分かりやすく説明していく。


 「スイッチ」とはレイドコンテンツ、とりわけレイドボスを擁するようなコンテンツにギミックのひとつとして実装されている。Switch(スイッチ)の名の通り「入れ替わる」ことを意味し、ブレオンでもMTとSTが戦闘中に入れ替わることを指す。

この入れ替わる……とは8人で行うコンテンツの場合であり、タンクが2人いることを利用したギミックであるといえる。本来、MTはヘイトトップを維持してずっとボスを自分に注視させていればよく、STはさほど仕事が無い。あっても雑魚が沸いた場合の処理や、味方への防御バフを使うなど、おおよそタンクとしては脇役に回ることが多い。


 しかしながら、ボスの攻撃スキルで「攻撃時に防御力低下のデバフを付与する」というギミックがあれば話は変わってくる。このようなスキルは大体がスタックしていき、スタック数が上るといくらタンクの防御力が高いとはいえ、防御スキルを使っても攻撃に耐えられなくなる。

下手をするとボスの強攻撃の一撃でHPがゼロになる場合もあるので、スタック数が一定まで上がるとデバフが付いていないSTがMTからヘイトを奪い、自らがMTとなってボスを引き付けるようにする。


その間にMTだったタンクがSTとなり、デバフを解除して(大体は制限時間で解除されるものがほとんど)、再びデバフがスタックするまで次のスイッチに備える……というのがスイッチの一連の対処の仕方である。


ソーマはまだスイッチが必要なコンテンツへ参加したことは無く、今回のレイドが初めてであった。


「だから、ソーマはこう動く……」


机の上にある強化薬の瓶を動かしながらソーマにスイッチの流れを見せる。


「そしたら……わたしはこっちへ行くから……わかった……?」


「はい……なんとなく。とにかくボスの痛い攻撃が来たら、ザッパーブロウを当て、続けてタウントスキルを入れればいいんですよね?」


「ザッパーブロウ」とは、タンクの共通スキルであり、このスキルを発動した瞬間に、対象のヘイトは発動したそのプレイヤーがパーティ中最大となる。スキルの効果は一見ザッパーブロウさえ使えば簡単にヘイトを管理できるように思えるが、実際はザッパーブロウはあくまでもスキルを使った時点で使用者をヘイトトップにするだけであり、その後のタウントスキルを発動させてきっちりヘイトを自分に向けないと簡単にヘイトを他のDPSやヒーラーに取られてしまう。

しかし、他のDPSにヘイトをとられた場合や、今回のスイッチギミックの場合に使用する場合など、タンクのヘイト管理にはなくてはならないスキルである。


「そう……それでソーマがヘイトトップになってMTとSTが入れ替わるから……次交代するまでMTやってればいい……」


「なるほど……」


「あとはやってみれば……わかると思う……わたしが合図するから……ソーマは合図したらザッパーブロウ入れて」


「りょ……了解」


──マローワ環状列石群──


 レクテナントの街から西へ1時間ほど行くと草原がぽっかりと円形に切り取られ、周囲の地面にはびっしりと石畳みが敷かれた場所に着く。ソーマは「マローワ環状列石群」と呼ばれる……円陣状に3メートルはあろうかという巨石が並ぶモニュメントのなかに足を踏み入れる。その中心に、巨大な鋭い石英のような柱が空に向かってそびえ立っていた。これが、陽神ラーファムと夜神バルサーの剣が砕けて飛び散った破片のひとつだと言われている。


このような破片が世界には12個あり、それぞれがドラゴンの依代となったらしい……目の前にある破片はすでに封印が解かれており、どす黒く退色していた。ソーマはその石英の柱へ手をかざした、すると──

空から風を切るような鋭い音が聞こえてきた。そしてそれはだんだんとソーマの方へ近付いていき、円陣を覆うほどの影と共に、4枚の翼をはためかせながら巨大な生物がソーマの目の前に降りてきた。


風剣龍ブルトガングである──


準備が整ったのをアリスに伝え、ソーマはパーティを作る。8人揃ったところで


「みなさん、お願いします……」


今回も、アリスの他に以前にソーマのメインクエストの手伝いをしてくれたトリンシックの7人が集まってくれた。前々からお願いしていたので、全員が時間を作り調整してくれたようだ。


《これよりインスタンスに入ります、よろしいですか?》


全員が“はい”と答える。


 バトルフィールドとなる地面にある石畳は、円形に囲む暴風の壁に遮られ外側は見えなくなっていた。前方には風剣龍ブルトガングがその巨体を伏して冒険者を待ち構えている。

全身が薄緑の羽毛に覆われており、全身が鱗に覆われたおおよそ爬虫類のような……一般的なドラゴンの雰囲気からは少し外れてはいるが、その鳥のような嘴から漏れる炎のような吐息、羽毛が生えた恐竜のような手足から覗く鋭いツメ、背中に生えた4枚の大きな翼などはやはりドラゴンとして相応しい外見であった。


ソーマたちが現れたのに気付くと、その巨体を揺らし四肢を石畳に踏みしめ立ちあがった。


「ヒトよ……。誰かは知らんガ……ワ……我を封印ヨリ解いてクレタことには礼ヲ言おウ…」


風剣龍ブルトガングはなおも咆哮する。


「ダガ!……我の邪魔をスルノ……ならバ排除するマデ!」


誰がこのような恐ろしいドラゴンの封印を解き、世界に解き放ったのか……。

それはまだわからないが、目の前にいるドラゴンをそのままにしていればいずれ世界は人の住めない荒野と化してしまう。これまでに2体のドラゴンを封じてきた歴戦の冒険者ソーマは、再びドラゴンを討伐する依頼を受けた。


─────────────────────────────────────

《風剣龍ブルトガング討伐戦》

討伐任務

推奨レベル 50


冒険者ギルドからの緊急依頼だ。あの風剣龍ブルトガングが確認された。

すでにあちこちでヤツによる被害が起きている。

そこで剣龍を2体も倒したあんたの出番ってワケだ。


風剣龍ブルトガングを倒してくれ!


経験値 ─── 

報酬  50,000ゴルダ

    剣龍討伐の証

─────────────────────────────────────


「風剣龍ブルトガング討伐戦」は静かに始まった。


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