66話―冒険者協会リベンジ
あんなに重かった金貨の袋がもうぺったんこである。代わりに重量感たっぷりの装備品は手に入れたけど。
この勢いでお金を使い続けるのはヤバい。実は相場もよく理解しておらず、金貨一枚がどれだけの価値なのかもよくわかっていない。少なくとも1Gは1円よりも高そうな気がする。
俺がもらった100万Gはほとんどなくなったが、まだアルターさんの報奨金50万Gがある。とはいえ、それはアルターさんのお金だ。彼女は俺が使っても問題ないと言ってくれているが、それを最初から当てにするのはよくない。
いくら親しい仲と言ってもお金の管理については改めて話あっておくべきだろう。俺がアルターさんから借りて門番に通行税の名目で強奪されたお金も返せていない。返そうとしたが、彼女は受け取らなかった。自身にも過失があるから返す必要はないと彼女は言う。
結局、今回もらった報奨金はチームの活動資金としてプールすることになったが、今後個人的な支出がでてくることも当然あるはずだ。ノワールもお小遣いがほしいだろう。無論、冒険者を続ける上での必要経費も出てくるだろうし、そこらへんの分配をどうするかも話し合わないとな。
とりあえず、武具店を後にした俺たちは借り衣装を返却しに行った。そして現在、その足で冒険者協会へとやって来た。
そう、ついに冒険者となる瞬間が来たのだ。異世界転移モノおなじみの、冒険者ギルドである! ここまで来るのにどれだけの時間を使ったことか。他の小説なら3~5話くらいでとっくに登録を済ませているところだぞ!
協会の建物に入る前に気持ちを整える。ここはイベントの宝庫だからな。ならず者の先輩冒険者が『ここはテメェらみたいな乳臭えガキの来るところじゃねえぜ! ギャハハハ!』とか言いながら喧嘩を売ってくるかもしれない。戦場に臨む覚悟でいかなければな。
「みんなメイスは持ったな! いくぞぉ!」
「持ってません」
俺たちは心して冒険者協会の玄関口をくぐる。中では協会の職員らしき人たちが慌ただしく走り回っていた。冒険者と思われる男たちの姿もある。入って来た俺たちの方を見て、空気がざわついた。
「おい、あれ……『白銀弓手アルター』じゃないか?」
「あの『死鳥払いのスケアクロウ』と競り合ったという……!?」
冒険者たちのささやき声が聞こえる。彼らはアルターさんの方に緊張した眼差しを向けている。そこには恐れを含みつつも、強者に対する敬意が感じられた。畏怖されている。
「アルターさん、どういうことなの? 俺より先に冒険者登録したばかりか、もうカッコイイ二つ名がつけられてるなんて……この卑しいメスブタッ!」
「ありがとうございます」
しかし、仲間の評価が高まるということは俺としても嬉しいところだ。二つ名がつくほど周りから認められているのだ。喜ばしいことである。ぜ、全然悔しくなんかないんだからねっ!
俺がツンデレしても気持ち悪いだけだな。いや、今は見た目美少女だから許されるのか?
「これはこれはアルター様! ようこそお越しくださいました!」
俺たちが入り口付近で突っ立っていると、メガネをかけた職員の男が近づいてきた。アルターさんにへこへこと頭を下げている。随分、腰の低い人だな。でも、無愛想な人よりはいいか。俺は意気込んで話しかける。
「あの! 冒険者登録をしに来たんですが!」
「そちらの方々は……ゴーダ様とノワール様ですね。お話は伺っております。ささ、どうぞこちらへ」
あれ、俺たちのことを知っているのか。疑問に思いつつも、案内されるままカウンターの方へと歩いていく。
「こちらの書類に必要事項の記入をお願いします」
渡された用紙には名前や出身、年齢、拠点(住所)などの記入欄がある。最低限、署名だけで申請は通るみたいだが、この使用武器とかチーム内での役割とか記入するところは書いておきたい。こういうのを考えるのはわくわくしてこない?
「なんでノワールがボウケンシャなんかにならないといけないんだ!」
だが、そこでノワールが難色を示してきた。登録する気はないと言う。
「ノワール様はゴーダ様所有の奴隷でございますので、ゴーダ様の一存で強制的に登録させることはできますが」
なんでノワールが俺の奴隷だと知っているのだろうか。ともあれ、冒険者協会における奴隷の扱いはどうなっているのだろう。奴隷を冒険者登録することは一般的に見て問題ない行為なのか。
「自分の奴隷を冒険者登録させて、その奴隷とチームを組むことはよくあることですよ。チーム内の人間関係に気を使わなくていいですからね」
時に危険な依頼もこなす冒険者チームは、その結束を第一に優先しなければならない。チーム内で不和が起これば、互いに命を預けたチームワークなど発揮できないからだ。
どんなに親しい間柄の仲間であっても、ささいな諍いが積み重なって解散にまで発展することはよくあるという。アルターさんに頼りっぱなしの俺には耳の痛い話である。
解散するだけならまだマシなケースで、中には殺し合いにまで発展してしまうことがある。特に報酬の分配でもめることが多いそうだ。複数人で同じ依頼を共同遂行すれば達成しやすくなる半面、一人ひとりの取り分も減る。
依頼の難易度に応じてチームで分配することが前提の価格設定になっているらしいが、それでも割り切れないのが人間の心情である。依頼達成への貢献度が少ないから取り分を減らされたり、いじめにあったりと、チーム内のトラブルの種は尽きない。
最初から裏切ることを前提でチームに入り込もうとする奴までいるという。メンバーを信用させたところで後ろからグサリとやって、報酬を横取りするのだ。そういう悪事は発覚すれば資格の永久剥奪の上、指名手配されるらしいが、それでも詐欺・強盗が後を絶たないらしい。
本当に信用できる仲間を見つけることは難しい。仲間に恵まれない冒険者はソロで出来る範囲の依頼を受けるか、金に余裕があれば奴隷を買う。奴隷ならば主人の命令には絶対服従、報酬の分配もしなくていいし、余計なトラブルは起こらない。
中には奴隷だけに依頼を受けさせ、自分は働かないという者もいるそうだ。ただし、奴隷が起こした問題の責任は全て所有者が負うことになるらしい。
「登録させずに奴隷を依頼に参加させることはできるんですか?」
「フリーランクの依頼なら、おおよそ可能です。しかし、ランク指定依頼の中にはゲストメンバーの参加を認めないものもありますので、その場合は同行できません」
特に護衛依頼などは部外者の同行禁止となる場合が多いという。奴隷も登録しておくに越したことはない。
ノワールはいずれ解放奴隷にするつもりだし、もし俺たちのチームを抜けることがあるとしても、そのときに何かしらの資格を持っていた方がいいだろう。俺は所有者権限でノワールも登録しておくことにする。
登録を進めている間、ノワールはぶつぶつ文句を言いながら俺の足をゴツゴツ蹴ってきた。地味に威力を込めるのはやめるのだ。




