67話
用紙の記入が終わった。異世界の文字を読めることはわかっていたが、書く方も問題なくできた。習ってもいないのに手が自然に動くのは面白いがちょっと気味が悪くもある。ノワールの申請書類も俺が代わりに書いた。
チーム内の役割のところはどう書くか悩んだ。つまり、戦闘におけるポジションである。RPGで言うところの「前衛」「後衛」、「戦士」「魔法使い」などを指す。
武具店で装備を買ったときから考えていた。盾に鈍器、この武装は言うまでもなく前衛型。それも最前線に立って敵の侵攻を真っ向から受ける形になる。アタッカーと言うよりはタンクに近い構成となるだろう。
タンク(壁役)は打たれ弱い後衛を守る、パーティーの盾となる役割である。ヒーラー(回復役)と並んで戦線維持に欠かせない存在だ。守りを固めた自分に敵の攻撃を引きつけることで被害を最小限に食い止めることができる。
タンクにも色々種類がある。ガチガチに守りを固め、とにかく後衛に攻撃を通さない純タンク型。守りつつ、攻撃や補助、回復をこなす万能型。防御よりも回避力を高め、敵の攻撃をかわしまくる回避盾型などがある。
俺の場合は体の頑丈さを武器に、攻撃を受け止めつつ、メイスによる強打でダメージを与えたり牽制するタイプとなるだろう。まさに守護騎士。『守護騎士ゴーダ』である。この名前だけ見たらガチムチのおっさんみたいな印象を受けるぞ。
アルターさんは「弓使い」で、ノワールは……「魔法使い」と言ったところか。どちらも後衛職であり、俺の盾役とマッチする布陣だ。俺が前線を抑えたところを、後方から遠距離攻撃でズドン! 定石とも言える戦法である。
後衛職の火力は申し分ない。物理と魔法のダメージソースがそろっており、バランスも取れている。しかし、欲を言えば前衛がもう一人くらいほしいな。俺一人だと敵が複数で来たとき抑え込める自信がない。ヘイトを集めるスキルとかないのだろうか。あと、ヒーラーとバッファーとデバッファーもほしい。状態異常攻撃に特化した味方がいると、ザコとの連戦で回復ソースを節約できるぞ。それに理不尽な全体攻撃を仕掛けてくる敵に備えて、確実に先制を取れる速攻役がいるとありがたい。この布陣となると、盾役が俺一人では心もとないな。俺が乙ったら戦線が崩壊する。予備の盾役をもう一人入れるか。もしものときの立て直しに備え、ヒーラーの予備も入れた方がいいかも。いや、それだとあまりにも守勢に偏重した構成となる。守りに入りすぎて敵のHPを削りきれないと戦闘が長期化して危険だ。
「となると、属性攻撃ができる物理アタッカーをもう一人入れるとして、ええっと、今パーティーメンバー何人だっけ?」
「お悩みところすみませんが、ゴーダさんが盾とならなくても、私は近接戦闘もこなせます」
「なぜノワールが自分よりも弱い存在に守られなくてはならない?」
そっか、アルターさん接近戦もイケるんだっけ。クロウさんとガチの殴り合いして互角だったって言ってたな。それにノワールもチート防御スキルがあるから守りいらない。むしろ接近戦の方が強い。
アルターさん:殴り弓使い
ノワール:反則超防御魔法使い
俺:肉壁(用無し)
「俺いらないにゃん!?」
「普通に戦士として戦ってもらえればそれでいいと思いますが」
「うわあああいやだああああ! タンクがやりたいんだああああ! タンクになってみんなを守りたいんだあああ! さすがナイトは格が違ったと言われたいんだあああ!」
俺は深い悲しみに包まれた。だが、諦めてはいない。もしかしたらアルターさんやノワールでも歯が立たない強敵がこの先現れるかもしれない。そのときこそ俺の真価が発揮される場面である。そんな絶体絶命の状況で俺が役に立つのかという疑問はさておき。
書類には、俺のところは「戦士(盾役)」、ノワールは「魔術師」と書いた。アルターさんいわく、ノワールの戦闘スタイルは魔術師という分類で呼ばれるらしい。なにそのカッコイイの。『白銀弓手』『魔術師』『戦士(盾役)』。明らかに一つだけモブっぽいのが混ざってますけど。
不満は残るが、まあそれはいい。そのうち俺もカッコイイ二つ名をつけてもらえるようになるだろう。それはいいとして、問題は他にもある。
チーム名だ。これが『ゴーダさんファンクラブ』になっている。何を思ってこんな名前にしたのか知らないが、早急に変更する必要があるだろう。
しかし、これが厄介なことにチーム名の変更権はリーダーにだけあるらしい。登録されたチームの呼び名がコロコロ変わらないようにするための措置らしい。そして現在、『ゴーダさんファンクラブ』のリーダーはアルターさんになっている。
「このままではいけませんか」
「なぜこのままいけると思ってるんですか」
チーム名は、言うまでもなくそのチームの顔である。冒険者たちは自分たちの誇りと夢をチーム名に込めるのだ。そして名のある冒険者ともなれば、その人物が所属するチーム名もまた有名となる。『ゴーダさんファンクラブ』の名が世に知れ渡るという恐ろしい事態が発生してしまうかもしれないのだ。
「この名前は、私の誓いを表したものなのです。スケアクロウさんと一時の関係を結ぶという不貞を働きながらも、心だけはゴーダさんに捧げ続けるという意志を込めて名付けました」
わけわからん理屈を持ちだされたが、要するに変更する気はないようだ。仕方ない。このまま行くしかないだろう。アルターさんには返しきれない借りがいくつもあるし、このくらいの要望は聞いてあげたい。たとえ今後、俺が赤っ恥をかき続けることになろうとも!
リーダーはこのままアルターさんでいこう。アルターさんがリーダーにふさわしいかは別として、俺にその適性があるとも思えない。そのくらいの自覚症状は俺にもあります。ノワールは論外だし、消去法的にアルターさんに決まる。
アルターさんは俺をリーダーにしたかったようだが、もしそうなれば俺は『ゴーダさんファンクラブ』のトップ、まるでファンクラブ会長のような目で周りから見られてしまうではないか。俺のファンクラブなのに俺が会長って、あまりにも痛々しすぎる。まあ、自分のファンクラブに平会員として入る状況もわけがわかりませんが。
「でも、せめて略称で呼びませんか? 『ゴーダさんファンクラブ』、略して『ゴーファン』でどうでしょう」
「良いと思います」
「では、改めて……『ゴーファン』結成おめでとう! これからもよろしくね!」
「よろしくお願いします」
「ふん、慣れ合う気はない」
書類を提出し、俺たちは三人とも冒険者となった。なんだかここから物語が始まっていくような気がしてワクワクする。我ながら、良いスタートが切れた気がする。




