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剣士としての初陣

 翌日。早朝。

 一部の大人と子供以外は、ほとんど眠れなかったようで、起きている状態だった。

 しかし明るい内に、できるだけ移動した方がいい。

 急げば夕方までには森に入れる。

 そこからは数時間でネコネ族の集落に到着する。 

 木々に囲まれていると障害物が多く、視界は遮られる。

 竜族に見つかりにくくなるが、死角が増えるのは俺達も同じだ。

 どちらにしても、まずは森へ行かないといけない。

 ぽつぽつと、朝食の準備を始める人達の中、まだミーティアは俺の膝で寝ている。


「おい、ミーティア。起きろ」


 俺はミーティアの肩を揺すった。

 すると、目を擦りながら身を起こした。


「んぅ……朝……?」

「起きろ。すぐに出発するぞ」

「……あぃ」


 ミーティアは舌足らずの口調で相槌を打った。

 低血圧なのか。というか子供はこんなものか。

 全員が、携帯食料と水を口に含んで朝食を終えると、すぐに出発した。

 まともに眠れなかったためか、みんなの足取りが重い。

 肉体的にも精神的にも疲労していることは明白だった。

 気を抜けない上に、常に恐怖心を抱いている。

 それをわかりつつも、生きるために足を動かしているのだ。

 彼等には必要で、それ以外に生きる道はない。

 少しずつ、理解しているだろう。

 結城さんのおかげで築けていた仮初めの平穏はもう存在せず、自身の手で足で切り抜けるしかないのだ、と。

 しばらく進む。

 呼吸の音、土を踏みしめる音が響く中、俺は遠くに緑を見つける。

 森だ。

 ネコネ族の集落がある森だった。

 空を見上げると、まだ青く澄んでいる。

 思ったよりも早く移動できたようだった。

 結城さんが急いで進んだのか、それとも村人達が早く抜け出したいという思いから、速度を上げていたのか。

 どちらにしても、全員が昨日よりも疲れている。

 かなり足元が覚束ない感じで、息も荒げている。

 無理をしてペースを上げていたのかもしれない。

 とにかく、森へ入れば安全だ。少なくともこの平原よりは。


「あぁ、見えた」


 誰かが言うと、それに呼応するように、安堵の溜息がそこかしこから聞こえた。

 リーンガムを出立してから今まで、ずっと緊張状態が続いている。

 森へ到着する、という小目的を達成できれば、少しは気も軽くなるだろう。

 と。

 俺はふと、振り返った。

 遠く、何かが見えた。

 米粒ほどの小ささの何かが、左右に揺れていたのだ。

 遠く、遥か遠くに見えるそれを、俺は凝視した。

 そして気づく。なぜ、左右に揺れていたのかを。

 それは走っていたのだ。

 竜族が。

 俺達へ向かって。

 しかも、その数は一つではなかった。

 少しずつ、増えている。

 複数。

 追って来ている。

 俺は咄嗟に叫んだ。


「追われてる! 走れぇっ!」


 突如として聞こえた俺の声に、全員がぎょっとして振り返る。

 反射的に走れるような人間はいなかった。

 状況を把握しようと、俺を見て、動揺しているだけだ。


「竜族だ! さっさと逃げろ!」


 苛立ちを感じつつ、声を発する。

 ようやく状況を理解したいのか、全員が飛び跳ねるように走り始めた。

 俺も含めて、全員が森へと疾走する。

 走りつつ、後方を見る。

 早い。聞いていた通り、竜族の脚力は人間を優に超えている。

 あれだけ距離があるのに、しばらくすれば追いつかれる。

 森まではまだ遠い。

 それに、森に入っても隠れられるとは思えない。

 こちらは三十三人いるのだ。

 全員は助からない。

 必死で走る中、速度が徐々に落ちる。

 恐怖から足を動かしているが、体力は有限だ。

 いつかは尽きる。

 一日の疲れが、まだ残っている分、体力は削られている。

 それに集団のほとんどは年齢が高く、子供もまだ幼い。

 限界が近かった。

 数分後には、速度が激減する。

 このままではすぐに追いつかれる。

 俺は肩口に振り返る。

 見えるだけで八体。もうすぐ追いつく竜族は二体。

 この速度では数分程度しか耐えられない。

 やはり予想通り、こういう状況になったか。

 逃げるならば、追われる。

 追われるならば、一番危険なのは殿。

 俺の位置だ。

 そのためにこの配置を選んだ。

 いいさ。わかっていたことだ。

 だったら。

 俺は足を止めつつ、ぎこちなく大剣を鞘から抜いた。


「リーダー!?」


 ミーティアが叫ぶと、全員が振り返る。

 俺が立ち止まっていることに気づき、結城さんが叫んだ。


「日下部君! 何してるの!? 逃げないと!」

「先に行け! 俺が時間を稼ぐ!」


 全員で逃げていてもすぐに追いつかれる。

 ならば、早い段階で俺が囮になった方がいい。


「で、でも」

「早く! 時間がない!」


 有無を言わさぬ口調で、俺は言った。

 結城さんは悩んでいる様子だったが、他の人間を見て、決断したようだった。


「し、死なないで!」


 言うと、すぐに結城さんは走っていった。


「死なないさ」


 死ぬつもりはない。

 自己犠牲の上に、誰かを助けるつもりもない。

 俺は俺のため、俺の意思で戦う。

 これは俺の望みだ。俺が決めたことだ。

 何があっても、全員助けると、そう決めたのだ。

 俺は半眼で後方に視界を移した。

 莉依ちゃんが、俺を見ている。

 何を考えているのかわからない。

 だが、俺は鷹揚に頷いた。

 大丈夫だ、と伝えるように。

 気持ちが伝わったのかわからないが、莉依ちゃんは僅かに俯き、踵を返して結城さん達と走り去った。

 ミーティアは心配そうに俺を見ていたが、やがて結城さん達について行った。

 残ったのは俺だけ。

 俺は大剣の柄を強く握った。


「さあ、初陣だ。相棒」


 久々に感じる、緊張感と高揚感。

 慣れない感触が手に伝わり、新鮮さを感じさせる。

 先頭の二体が俺に向けて真っ直ぐ突き進んでいる。

 戦いの火ぶたが切って落とされる瞬間、俺の頭の中にあったものは、結城さんや莉依ちゃん達のことではなく、どうやって戦うか、それだけだった。

 俺は大剣を傾けて、鞘から抜いた。

 構えるだけで重みが、腕、肩、背中、腰、脚に伝わる。

 骨が軋み、筋肉が悲鳴を上げる。

 鈍色の刀身が真っ直ぐ竜族に向かって伸びている。


「ギギィ! ミツケタゾ! ドウホウノカタキ!」


 どうやら、リーンガムで殺した竜族を見つけて、ここまで追ってきたらしい。

 結城さん達の言葉通り、仲間の死体から俺達の存在を嗅ぎつけたようだ。

 厄介な奴らだ。

 緑色にテラテラと光る竜人は、両の手から伸びる爪同士を擦っている。

 俺は大きく息を吐き、脱力した。


「バカメ! ソンナ、キョダイナケンヲ、フレルハズガ、ナイ!」


 妙に甲高い声音と共に、竜族二匹が跳躍した。

 早い。だが、一度見ている経験からか、予測はできた。

 俺は既に予備動作へ入っている。

 右足を踏み出し、剣を持ち上げる。

 尋常ではないほどの重量が肩から背中に伝わる。

 重い。だが持てなくはない。

 体重を移動させ剣を持ち上げる。

 そのまま。

 頭上で回転させるように振り回し、袈裟斬る。

 それは一瞬だった。

 ゴオンと耳障りな風音が周囲を満たした時、竜族二匹は俺の後方へと吹き飛んだ。

 同時に、虚空を鮮血が漂う。

 水音と共に、赤が俺の身体に付着した。

 独特の鉄の臭い。

 それが鼻腔を刺激した時、竜族達は後方で着地した。

 地面を滑り、肉塊と化し、痙攣を繰り返している。

 奴らは真っ二つだった。

 リィンと音叉のような音が聞こえる。

 まるで大剣が喜んでいるかのように、哭いていた。

 血にぬれた俺と大剣を前に、別の竜族達が同胞たちの死を目の当たりにする。

 憤怒の顔に変化し、瞳の色もまた赤に染まる。

 わかりやすい奴らだ。


「オノレェェェェ!」


 生理的に受け付けない甲高い声音に、俺は顔をしかめた。

 緑の集団は、更に増えている。

 十匹。

 過去の俺ならば余裕な数字だが、今の俺には力がない。

 一度手に入れた力。でも、神のような強大な存在を殺し、その上、人に許されない領域の力を使用した。

 その末路が、これだ。

 だが、それでいい。

 誰かが言った。圧倒的な強さは虚しさを感じる、と。

 強大な力は、何もかも手に入れたということでもある。

 手に入らないから面白く、難しいからこそ目標となるのだ。

 今、俺は愉しんでいる。

 平穏な生活もいいが、混沌とした生活も悪くない。

 戦いは好きじゃないはずだった。けど、嫌いでもない。

 こんな刺激は他にない。こんな高揚も他にはない。

 だがそれは手段に過ぎない。俺が戦うのは誰かを守るためだ。

 俺は柄をグッと握る、

 重厚感が手に伝わる。

 いい感じだ。

 慣れないが、扱えなくはない。

 次はどうか。

 俺の体格からして、これほどの大剣を振れるとは思わなかったのだろう。

 だが、俺が大剣を扱えると奴らは知ってしまった。

 今度は、奇襲が通じない。

 大剣の威力は絶大だが、振りは遅く、予備動作も早いとは言えない。

 竜族の身体能力はかなり高い。

 さっきは、相手が不用意に跳んだから当たったが、慎重に戦われたらどうなるか。

 俺は再び、正面に剣を構える。

 今度は三匹の竜族が、まとまって襲ってくる。

 早めに倒さないと後方の奴らも加勢するだろう。


「サンカイ!」


 竜族三匹は散らばった。

 俺を囲むように等間隔で位置した。


「キィアアアッ!」


 後方の竜人が叫んだ。

 俺が咄嗟に振り向くと、奴はニヤッと笑う。

 陽動だ。こんな雑な手に引っかかるなんて。

 俺の右方にいた竜人の気配が近づいてくる。

 俺は反射的に、大剣を薙ぎ払った。

 しかし、竜人は軽々と一撃を避ける。


「キヒィッ!」


 愉悦に浸った表情のまま、竜人は跳躍した。

 今度は、俺の攻撃を避けての跳躍だ。

 大きな隙を晒したままの俺に向かい、竜人は爪を伸ばした。

 振り降ろされる鋭い爪。

 俺は薙ぎ払った大剣を、半ば強引に地面に落とした。

 そのまま切っ先を視点にして、柄部分を持ち上げる。

 シーソーのように柄が勢いよく昇ると、竜人の顔面に埋まる。

 俺の拳も竜人の顔を歪ませた。


「ギヘェッ!」


 頭蓋を歪ませて、竜人は吹き飛ぶ。

 その瞬間、別の竜人が、吹き飛んだ竜人の後方から現れる。

 俺は二匹目の竜人の姿を認めた瞬間、振り上げた柄の勢いを加速させた。

 前方へ傾く大剣。

 限界まで押し、刀身が俺の身体に埋まりそうになった刹那、俺は跳躍した。

 捻りを入れながら、前方宙返りをする。

 柄は決して離さない。

 俺の体重に引っ張られ、大剣は更に前方へ傾く。

 俺は着地と同時に、慣性を殺さずに大剣を手元へ移動させる。

 一回転しながら大剣を振りかざした。


「ギッ!?」


 まさか、あの態勢から攻撃出来るとは思わなかったのか、竜人は目を見開く。

 俺は奴の頭に獲物を落とした。

 硬い物同士の鈍い衝突音が響く。

 竜人は強引に、地面に押し潰され、身体の半分まで切り裂かれた。

 血の噴水が地面ごと俺を濡らす。

 全身はすでに血に濡れている。

 一体目の竜人は地面に転がったまま動かない。

 俺が睨むと、三体目の竜人が怯えてビクッと震えた。

 だが、恐怖を感じた自分が許せないのか、青筋を立てた。

 即座に態勢を整える。

 つもりだった。

 奴は俺が構える前に、地を蹴る。

 激情に駆られての行動のようだが、それは好手だった。

 俺は大剣の重量のせいで、バランスを崩している。

 その上、二体目の竜人に大剣が引っかかり思うように抜けない。

 迫る竜人。

 眼前には竜人が。

 俺は咄嗟に、柄を離した。

 そのまま横に転がると、頬に鋭い痛みが走る。

 ギリギリの回避だったが、間に合ったようだ。

 安堵する間もなく、俺は受け身をとって大剣の下へと駆ける。

 踵を返した竜人が俺へ向き直る。

 相対した状態で、俺は躊躇わずに走った。

 大剣の柄を握ると、勢いをそのままに正面に疾走。

 肩が抜けそうな反発が生じるが構わない。

 目の前には再び竜人の爪が迫る。


「シネェ!」


 俺は一瞬も逡巡せず、むしろ加速する。

 目前には凶爪。

 目に刺さる――寸前で、首を傾げて避ける。

 額に走る裂傷を無視する。

 俺は竜人に肩で体当たりする。


「グェェッ!」


 竜人はもんどりを打ちながら地面に落ちる。

 そして一度跳ねた後、ゴロゴロと転がり、停止した。

 俺は強引に大剣を引き抜き、急ブレーキ。

 流れた反動が大剣の切っ先に伝わる。

 必然。

 大剣が弧を描いた軌道を通る。

 竜人が立ち上がる前に、剣閃が走る。

 鈍い音と共に竜人の首が不自然に歪む。

 そのまま、竜人は身体ごと吹き飛んでいった。

 俺は大剣の重量に振り回され、たたらを踏み、何とか倒れずにバランスを保った。


「くっ、重すぎる……!」


 一回転し、ようやく地面に落ちた大剣。

 ここまで予想以上に動けている。

 過去の戦いで、剣を用いて戦う人間は少なくなかった。

 そのためか、俺の記憶に彼らの戦い方が刻み込まれている。

 おかげで、模倣しつつ、学習しつつ、戦えている。

 ぎこちなくはあるが、ここまでやれれば及第点だろう。

 だが、それは初めての戦いの割には、という意味だ。

 俺は剣を何度振った?

 わからないが、思った以上に負担が大きい。

 一撃の重さは、素手とは段違いだ。

 だが、ここまでの戦いで気づいた。

 予想以上に重いし、扱いづらい。

 何より、武器を扱うことが過去になかったため、かなり不恰好だ。

 竜人を殺せたのは、相手の侮りと、過去の戦闘経験を活かしただけ。

 大剣の利点を活かしているとは言えない。

 剣を軌道に沿って真っ直ぐ振るという単純な動作が難しい。

 僅かでも角度を間違うと、斬れずに、威力が激減する。

 実際、重量で潰しているだけで、斬れているかと言えば微妙だ。

 それにここまでの動きだけで全身の筋肉が疲労している。

 いかに重いのか、こんな短い時間で理解した。

 これは前途多難だな。


 俺は笑った。

 初戦。素手だとかなり厳しい戦いだったが、武器を使うとそれなりには戦える。

 何、問題はない。

 これから色々と試し、鍛えればいいのだから。

 再び、大剣が哭いた。

 俺は思わず、刀身を叩いた。

 軽めの音が聞こえるが、先ほどの音とは違う。

 打鍵音ではない、らしい。

 アーガイルの作った武器だ。何かありそうだけど。

 奇声が上がると我に返った。

 まだ敵は残っている。

 奴等は仲間達を殺した相手に激昂している。

 瞳を赤くし、俺を睨んでいた。

 思うつぼだ。俺は囮なんだから。みんなを守るための。

 俺は大剣を横に構える。


「さあ、来い」


 竜人の数は更に増えている。

 勢いが弱まる気配はない。

 普通の人間であれば絶望を感じる状況だ。

 しかし、俺は相好を崩す。

 力を試す、絶好の機会だ。

 竜人が迫る。

 大剣を振る。

 血が肉が魂が、何もかもが湧き猛る。

 膂力のあまり、歯噛みし、骨が軋む。


「ガアアアアア!」


 獣の咆哮は俺の口腔から漏れていた。

 身体中に傷が生まれている。

 赤い、赤い。視界も地面も身体も赤い。

 血で汚れている。

 痛みは感じない。

 激情の中、俺は一つ一つの動きを記憶し、改良を加える。

 斬撃は多種多様。剣を理解しようとすれば深く、どこまでも最良はない。

 動きが緩慢になっていく。

 それでも俺は止まらない。

 地面に転がっている死体の数はどれくらいだ。

 時間は?

 残っている敵は?

 状況は?

 頭が回らない。

 身体だけが、本能だけしかそこにはない。

 視界が広がる。見えた。敵の姿が。

 なんだ、これは。

 視界がすべて敵で埋まっている。

 周囲は竜族だらけだった。

 四方から迫る竜人達。

 緑で埋まる視界で、時折に朱色が彩る。

 大剣が三体を殺した。

 俺が殺したのだ。

 まるで他人事のように思える。

 実感が薄い。

 集中して、意識だけが虚空に浮かんだように思える。


「ゴアアアァッ!」


 叫んだと同時に大剣で竜人数体を跳ねのけた。


「はぁはぁ、はぁっ!」


 突然、肺が痛みだした。いや、元々痛んでいたことに、今更に気づいた。

 腕が背中が足が全身の筋肉が、骨が何もかもが悲鳴を上げている。

 露出している部分が妙に滑っている。

 こんな状況でも、血を洗い流したい、なんて場違いなことを考えていた。

 大剣を持ち上げようと腕に力を込める。


「くっ……」


 腕が上がらない。筋肉が麻痺している。

 これは鍛練不足だな。

 普段、使わない部分を使っているためか余計に疲労が強い。

 息も荒い。全身汗だくで血だらけ傷だらけだ。

 深手はないが、無数に傷ができている。

 地面は竜人の死体で埋まっている。

 二十、三十、くらいか。

 思った以上には善戦したか。

 それはそれとして。

 俺は周囲を見渡した。

 これは中々にまずい状況だ。

 奴等、続々と増えている。

 ギヒギヒと気味の悪い声を漏らし、集結している。

 三十、いや四十、もっと、か?

 おいおい、冗談だろ。

 俺はまだ武器にも力にも慣れていないし、この世界に来て間もない。

 この状況でいきなりこれか。

 まあ、想定の範囲内だな。

 絶望には程遠い。

 とはいえ。

 どうやってこの状況を打開しようか。

 このままでは俺の体力も限界を迎える。

 いや、待てよ。

 俺は普通に戦っていたけど、忘れていた。

 この表異世界と裏異世界では俺の能力は違っていることを。

 竜人は、俺と距離を保ちつつ、唸っている。

 躊躇っているのか、これだけ同胞を殺されれば、当然か。

 俺は警戒しつつステータスを開いた。



 ●スキルLV:1

 ●スキルポイント:2【5】



 スキルポイントが増えている。あれだけ殺してたった2か。

 ということは、最初に持っていた3ポイントは、最初の竜族を殺す前から持っていたモノなのか。

 スキルポイント括弧内は、ポイント総数のようだ。

 スキルレベルは1のままか。やはりポイントとは別の意味があるようだ。

 とにかく、2ポイントある。

 今の内に、割り振ってもいいかもしれない。



 ●武器スキル【11】

  ▼大剣【3】

   ▽パッシブスキル

    ・振り速度上昇1【派生:振り速度上昇2】 ■■

     …振り速度が僅かに上昇する。

      ★振り速度上昇2【派生:振り速度上昇3】□□□

       …振り速度が少し上昇する。



 元々、決めていた振り速度上昇に割り振った。

 これで少しは戦いやすくなるし、もしかしたら消費体力も減るかもしれない。

 それにアクティブスキルの存在を忘れていた。

 


   ▽アクティブスキル

    ・昇断剣『威力:80』【派生:大昇断剣、???、???】 ■

     …轟音と共に昇る大剣。小型の敵は寸断し、大型の敵は打ち上げる。



 スキルも使用して慣れなければ。

 表異世界の能力のように使えばいいのだろうか。

 幸か不幸か、スキル振りが終わった時、丁度、竜族達が一斉に襲ってきた。

 スキル説明を見れば、複数相手にはこのスキルは向かない。

 だが、周囲の敵を一気に倒すスキルは他にはない。

 どうする。

 一方向の敵だけを狙い、強引に包囲網を抜けるか。

 だが、今の俺の体力では、大剣を持ったまま俊敏に動けるか。

 考えろ。だけど迷うな。時間がない。

 俺は無意識の内に柄を握る。

 と、指先にかかる感触があった。


 トリガー。


 竜人が迫る。


 動かなければ。


 殺される。


 どうする。どうする。


 アーガイル。おまえが、無駄な物を取り付けるはずがない。


 賭ける! この時、この状況をお前が想定していたことに!


 俺は右方に大剣を構え、そしてトリガーを引いた。

 瞬間。

 視界が歪んだ。

 大剣の刀身背面から熱を感じる。

 粒子が走り蒼い炎が噴出された。

 なぜかはわからない。全力で俺は大剣にしがみついた。

 態勢を維持した。

 必死で。

 『回転する大剣』をコントロールしようとした。

 大剣を振る態勢のまま、俺は横に何度も回転する。 

 トリガーを離すと、噴出口から炎が消える。

 途端に、大剣の重みが地面に向かい、やがて動きを止めた。


「気持ち悪い……」


 三半規管が見事に揺らせれて、胃の中身が逆流しそうになった。

 嘔吐感を堪えつつ、辺りを見回す。

 無残に千切れた竜人達がそこにいた。

 一斉に俺へと襲い掛かったらしく、大半の竜人は細切れになっている。

 残っている竜人も、戦意を喪失したのか、踵を返した。

 残ったのは死体と俺だけだった。

 大剣を見下ろす。

 やはり思った通り、アーガイルは剣に色々な加工を施していたらしい。

 これは技巧武器なのだ。

 恐らくは俺のような魔力のない人間にしか扱えない。

 だから残していったのだろうか。

 彼がどういう意図で作成したのかはわからない。

 だが、俺は心の中で感謝していた。

 間違いなく、この剣がなければ、俺は戦えなかっただろう。

 この大剣はトリガーを引くことで、刀身後方部分から蒼い炎が噴出され、剣速をブーストするようだ。

 用途がわからず、暴発してしまったが、活用方法は色々とありそうだ。

 使い方を間違えば、今みたいになるけど。吐きそうだ。

 いや、むしろまだよかった。

 気を抜いて、引っ張られれば、身体がねじり切られていたのではないだろうか。

 力をこめて、自分の身体を腕力で支えたからどうにかなったが。

 俺はほんの僅か、背中に寒気を感じた。

 アーガイル。無茶苦茶なものを造ったな、おい。

 とにかく。

 結局スキルは使わなかったが、まあいい。これからも使う機会はいくらでもあるだろう。

 それより、みんなを追わないと。

 一応、俺が囮になって敵を引きつけたが、無事だとは限らない。

 他にも敵がいる可能性もある。

 そう思った時、俺は森に視線を移した。


「……冗談だろ、おい」


 敵がいる可能性もあるとは考えたが、これは考えていなかった。

 空。そこに、飛んでいる黒い竜がいた。

 竜という名称から、空を飛んでもおかしくないと考えるべきだった。

 別種か。

 囮だったのはあちらも同じだった、ということか。

 大剣を何とか鞘に納める。

 俺は焦燥感を胸に抱いたまま、走り出そうとした。

 だが、蹴躓いて倒れそうになってしまう。

 ギリギリで転倒を回避し、バランスを保つ。


「……限界、が、近い、みたいだな」


 思った以上に、体力が残っていない。

 しかし弱音を吐いてもいられない。

 急がなければ、みんな殺されてしまう。

 守ると決めた。

 だから、諦めるわけにはいかない。

 そう決めたのは誰でもない、俺自身なのだから。

 覚束ない足取りながらも、俺は走った。

 痙攣する足を強引に抑えつけ、走り続けた。


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『マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-』

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