準備
「ふっ!」
俺は一気に刀を振り下ろす。ボスモンスターであるミノタウロスは俺の大上段からの振り下ろしを受けて真っ二つに切断された。俺は今新たなに覚えた身体強化の魔法を使い肉体を大幅に強化し、更に上位魔法にあった武属性の魔法を使う事で更なる強化を行い同じく上位魔法の鬼属性魔法を用いた刀への能力付与とバフをこれでもかとかけてミノタウロスに振り下ろした。
俺達がいるのは迷宮の最深部。ボスモンスターであるミノタウロスだけなら上級クラスの魔物に匹敵する実力を持っているらしいが結果は見ての通り瞬殺だ。デカい斧で防ごうともしていたがそれ事切り裂いてしまっているからどれだけのバフがついているのか恐ろしい。ステータス画面ではバフがかかった状態の情報が出ないからいまいち分からないのが難点だな。
「魔王様、お疲れ様です」
ミノタウロスを倒した事を確認したリナが駆け寄って来る。よほどの事がない限り戦闘に参加する事は無くなったリナは邪魔にならないようにと隅で見ている事が増えた。
「ふぅ、ここの迷宮も漸くクリアだな」
「漸くって、迷宮に挑んでから三日目ですよ?」
「三日もかかってしまったんだよ。仲間たちはもう到着しているんだろう?」
「ええ、そうですね。魔王様の号令待ちです」
自分の能力の把握とレベルアップの為に迷宮に潜っているが能力方面の把握は完了した。というよりもバフが強いからレベルアップの必要性すら感じなくなりつつあった。武属性と鬼属性の併用はマジで強い。本来なら上位魔法と言うのは何年も戦いレベルを上げた最強と言われる者達が習得する能力らしい。それを俺は召喚特典とも言えるものでレベル1から手に入れられている。
「リナ、作戦は決まっているな?」
「勿論です。……では遂に?」
「ああ、俺の確認は終わった。奴隷になった仲間たちを助けるぞ」
「はい!」
奴隷解放を行うと俺が言えばリナは目を輝かせて勢いよく返事をした。
「皆集まったな?」
俺の言葉にその場の全員が頷く。今俺達がいるのは村の地下に作った空洞の中だ。魔族の中に上位魔法に位置する陸属性魔法と呼ばれる魔法を使える者がいてそいつが頑張って密会の場を作ってくれた。俺の土魔法じゃこんだけの規模を作るには何倍も時間が掛かってしまうからな。
「では夜明け前に襲撃を行う。目標はナハトの村のここ、村長宅」
俺が指を指し示す先にはこの村の具体的な地図がありその一つ、一番デカい村長の家を示していた。これらは俺が能力確認をしている間に魔族たちが調べてくれた。こうして見れば魔族がどれだけ魔法に長けているかが分かる。それを圧倒する勇者と言う存在がどれだけ凄まじかったのかが分かる。
「村長宅の様子から奴隷は地下に置かれていると思われる。一方で村長が寝ているのは二階のここだ」
地下を持つ二階建てのもはや屋敷と言ってもいい家はこの村における村長の権威を示しているようで吐き気がする。
「奴隷を開放するのは実は簡単だ。このまま横に掘っていき地下につなげるだけだ。護衛はいるだろうがここまで滞在した中でそれらしい人物はほとんどいなかった。今更逃げだしたり反抗するとは思っていないのだろう」
人間がいかに魔族を降したことに胡坐をかいているのかが分かる。普通ならもっと護衛なり警備がいても可笑しくはないが小さい村ゆえか全くと言っていい程ザル過ぎた。
「奴隷を解放後村長を殺す。聞いた限り殺しても問題ないくらいの事をやらかしているからな。こいつは俺が相手をしようと思っている」
だが、その時になり俺は果たして殺す事が出来るだろうか? 俺は人殺しとは無縁の世界に生きてきた。この世界に来て初めて生物を殺し、さっきは人型のモンスターを殺している。だが、きちんとした人間に手を下したことはない。自分にそれが出来るだろうか?
「……魔王様、無理はしなくてもいいのですよ? 魔王様が人を殺す事に忌避感を持っている事は何となく察しています。こういう時は私達を頼ってください」
「ありがとう。だけどこいつは俺が相手をしたいんだ。この世界で生きると、魔族を開放すると決めた以上人を殺す事は避けては通れない」
今のうちに慣れておかないといけない。もっと重要な場面で躊躇しないように。心臓が苦しい。人を殺す事に対する緊張感が全身を支配していく。だけど今はそんな事に構ってはいられない。それらを全て無理やり引きはがす。
「行くぞ。魔族の最初の反抗の時だ!」
「「「「「おおぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」」」
俺の言葉に魔族たちは雄たけびを上げ結構の時を待った。
そして、遂にその時はやってきた。