奇襲・前編
「ふぅ、全く村長も慎重だよな」
ナハトの村、村長宅の地下にある奴隷を収容する牢の前で一人の男がぼやいていた。彼は村人の若者で村長が持つ奴隷たちのお零れをもらう代わりに夜中の見張りを行わされていた。役目として反抗的な態度を見せる奴隷たちを刃先が丸まった槍や木の棒で叩き言う事を聞かせる事だ。勿論これらは村長の私物であるため殺したり動けなくなるほどのダメージを与える行為は禁止されている。だが、多少の発散程度なら許されており若者は何かと難癖をつけては気に入った奴隷を使っていた。
現在村長が持つ奴隷は8体。多い時には20体以上がいたが大分減ってきていた。それゆえに村長は少し気が立っていたが龍人族の奴隷を十数日前に手に入れて意向は終始上機嫌だった。それこそ他の奴隷が若者の手によって殺されようとも笑顔でいるくらいには。
「さて、そろそろ今日最初のお勤めをやりましょうかね」
若者は壁にかけられた時計を確認し、夜明けが近い事を知り下種な笑みを浮かべながら牢に近づく。牢は10個あり一つの牢に10人は寝られるくらいのスペースがあった。その中で狐耳の獣人が入れられた牢を開けると中に入る。白い毛が特徴的な獣人は怯えた目で若者を見ながら後ずさる。その態度と汚されても美しい肢体が若者の劣情を煽る。
「お、お願い……」
「おっと、逃げても無駄だぜ」
そう言って若者は右手の人差し指に付けた指に魔力を込める。瞬間、獣人に付けられた首輪に施された宝石が光り獣人の動きを止めた。そのまま若者が魔力を込めながら指示を頭の中で出せばその通りに獣人は動く。
「奴隷の首輪と連動したこの指輪がある限りお前らに自由はねぇよ。大人しくその体を使わせろや!」
若者が男を誘うような姿で固定された獣人の上に跨る。獣人の瞳には絶望と恐怖、そして壊れつつある心から諦めが感じ取れていた。それを理解した若者が息を荒げながら服を脱ごうとした時だった。若者の肩にポンと手が置かれた。
「悪いがお前が使える奴なんかいねぇよ」
その言葉と同時に、若者の肩は握り潰された。
悲鳴を上げる目の前のガキを殴り飛ばし今まさに強姦されそうになっていた少女を助ける。多分15前後くらいの少女は俺の登場に驚くと同時に助かったかもしれないという安堵と俺に対する不信と不安が入り混じった瞳を向けて来た。
そんな少女に俺は持ってきた毛布を掛ける。リナたちも牢を破壊して奴隷たちを救出している。しかし、まずったな。ガキの行為を見てつい飛び出してしまった。悲鳴を上げさせてしまったしその声で上では異変に気付いているだろうな。ここから迅速に動かないと。
「リナ!」
「はい魔王様!」
「予定通り半数は奴隷の救出だ。残りは上に上がるぞ。前に見た龍人族の奴隷がこの場にいない。恐らく村長と一緒にいるんだろう。そいつを助けて初めて完全達成だ」
「分かりました!」
指示を出し俺が先頭を切って上に通じる階段に向かう。そんな俺に後ろから獣人の少女が声をかけてきた。
「あ、あの……」
「ん? ああ、大丈夫だ。こいつらと一緒にこの穴から出るんだ。そうすれば村の外に出られるぞ」
俺はそう言いながら壁をぶち抜いた穴を指さすが少女は違うようで少し怯えを含んだ目でこちらを見上げてくる。
「貴方は一体……」
「あー」
獣人の少女に俺は一瞬迷ったが笑顔で答えた。
「俺は魔王さ! 魔族を助けると誓った、異世界の変な奴だよ」
「魔王、様……?」
「そうだ。だから安心して逃げるんだ。後の事は任せて置け」
少女の頭を撫でながらそう言うと俺は少女に背を向けて階段へと向かう。目標はこの村のくそったれな村長と、一緒にいるであろう龍人族の奴隷だ。
さぁ! 魔族最初の反抗を見せてやろうじゃないか!




