フラペチーノの嵐と、空中正拳突き
長久手古戦場駅近く、街灯の切れた薄暗いコインパーキング。
アスファルトの上には、激しい雨のせいで何重もの水溜まりができ、そこへバイク便の若者たちが放つ、数十台のヘッドライトの白光が禍々しく乱反射していた。
逃げ場を完全に失ったアポ電強盗・詐欺グループの白いワンボックスカーは、パーキングのフェンスに激しく衝突してその息の根を止めた。
「クソが……、ナメんじゃねえぞ、コラァ!」
ドアを蹴り破って飛び出してきたのは、ウインドブレーカーの受け子と、車内で待ち構えていた強盗グループの実行犯たち数名。
男たちは完全に逆上し、懐から黒く輝くタクティカルナイフや、鉄パイプを抜き放って、私たちの行く手を阻もうと牙を剥いた。
「凛、下がってるネ! 豊のおじさんのコートが汚れちゃうアル!」
後部座席から弾丸のように躍り出たメイリンが、お団子頭を激しく揺らしながら、パーキングの入り口に立っていた。
彼女はチャイニーズ・マフィアの長の娘でありながら、「絶対に殺しと破壊はしない」という自らの誇り高い信条を完璧に守るため、素手で犯人たちの刃物に向かっていく。
メイリンが目をつけたのは、パーキングの隅、スターバックス長久手店へと続く遊歩道沿いに設置されていた、鉄製の頑丈な『スタバの大型のぼり旗(フラペチーノの宣伝旗)』の支柱だった。
コンクリートの土台に差し込まれた、重量数十キロはある鉄の塊。
それを、メイリンは不殺の怪力でガッシリと掴み取ると、地面の土ごと力任せにブン抜いてみせた。
「野郎ども! わたし特製のフラペチーノの嵐、たっぷり味わうアルよ――ッ!!」
ブンッ! という、周囲の空気を強烈に破裂させるような破天荒な轟音。
メイリンが素手で槍のように振り回した巨大なのぼり旗の鉄パイプが、突っ込んできた半グレ二人のナイフを正面から強烈に叩き折った。
「ぎゃあっ!?」「腕が、腕の骨がぁ!」
男たちの身体は、激しい衝撃と共にパーキングの料金精算機へと叩きつけられ、そのまま一撃で戦闘不能に陥る。
この一瞬の、大乱闘が巻き起こした視界の空白。
残されたリーダー格の男が、ウインドブレーカーの懐から奪い取った資産家おばあちゃんのデータの封筒を掴み、パーキングのブロック塀を飛び越えて、闇の奥へとさらに逃走を図ろうとした。
「――逃がさない……っ!!」
私はおじさんの大きなトレンチコートの裾を雨風に激しく翻し、パーキングのブロック塀へと猛烈な勢いで足をかけた。フルコンタクト空手の修行で骨の髄まで叩き込まれた、身体の軸を一切ぶらさない圧倒的な踏み込み。 私はブロック塀の端を強く蹴り上げ、夜の長久手の空へと高く跳躍した。大きすぎるトレンチコートが、まるで巨大な黒い翼のように夜霧の中で鮮烈に広がる。
その空中からの落下重力を、すべて私の右足へと乗せた。
――チェストォォォッ!!
私の放った電光石火の空中二段前蹴りが、逃げようとした男の背中を、そして振り返りざまの顎の先端を、完璧な破壊力で打ち抜いた。
バキィィィン! という激しい肉体の激突音がパーキング内に木霊し、男の巨体は放り投げられた泥人形のように、路上に置かれた大型のゴミ箱の中へと、派手な音を立てて逆さまに突き刺さった。
気絶。
男の懐から舞い上がった茶封筒を、私は空中で鮮やかにキャッチし、着地と同時にトレンチコートのポケットへと滑り込ませた。
「……ふぅ。おじさんのコート、やっぱり空中で回るにはちょっと重いな」
私は乱れた息を整えながら、大きすぎるコートの袖を少しだけ捲り上げた。
周囲からは、バイク便の若者たちが一斉にアクセルを吹かし、パラパラパラと、私の最初の大金星を祝福するような熱い排気音の拍手を浴びせてくれていた。
朝七時に更新されるシーズン1(おじさん編)で「おじさんが藤が丘の若者たちのために泥水を被った過去」のパズルが、夕方更新のこのシーズン2で、私の能動的な正義を運ぶ最強の『一撃』となって、長久手の夜を完璧に制圧した瞬間だった。




