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23 風を浴びて

 町の外れでは、損壊した廃校舎が元通りの姿に戻っていた。

 その玄関の前に鏡太朗とクロリリィが立ち、一緒に玄関を見つめていた。玄関には、大ムカデの洞窟にいた十八人の男女が気を失って倒れていた。

「クロリリィちゃん、みんなをここに運んでくれてありがとう。一人ずつ瞬間移動でここまで連れてきて、疲れてない?」

 鏡太朗はクロリリィの疲れ具合を窺うように顔をじっと見つめ、クロリリィは自分に向けられた鏡太朗の優しい視線を感じた瞬間に鼓動が高まり、思わず鏡太朗から視線を逸らした。

「だ、だ、大丈夫よ……」

「みんながどこから攫われてきたのかわからないけど、みんなスマホを持ってるし、ここは電波が届くみたいだから、もう大丈夫だね。クロリリィちゃん、本当にありがとう」

「ま、まあ、どーってことないけど……」

「それに、いっぱい助けてくれてありがとう。本当に心から感謝しているよ」

 クロリリィはちらっと鏡太朗に視線を向けた瞬間、鏡太朗の包み込むような笑顔に視線を奪われ、頭の中が真っ白になった。


 鏡太朗は、玄関の近くに停まっているもみじのSUV車を見つけた。

「あれーっ? もみじさんの車がある! さっきこの校舎から感じていた強力な魔力はもう感じないけど、もみじさんが魔物を倒したのかな? もみじさんはまだ校舎の中にいるのかな?」

「も、もみじの気配は感じないわ……。もう、ここにはいないみたいよ」

 クロリリィは鏡太朗の言葉で我に返って答えた。

「そっかーっ。じゃあ、歩いてもみじさんの神社に行ってみるよ。みんなのことが心配だから、もう行くね。しろっぴーが今どうなってるのかも気になるし。神社に着くまでに結構時間がかかりそうだから、急がないと」

 鏡太朗が校門に向かって歩き出そうとした時、クロリリィが慌てて言った。

「そ、そんなに慌てなくても、あたしが送ってあげるわよ!」

 鏡太朗は振り返ると、何かを思い出して笑顔を見せた。

「そうだった! クロリリィちゃんは瞬間移動できるんだった! お願いできるかな?」

 クロリリィは楽しそうに、とびっきりの笑顔で答えた。

「瞬間移動よりも楽しいことがあるわ〜! 出でよ、我を導く悪魔の書よ!」

 クロリリィは両手に悪魔の書を出現させると、真ん中のページを開いた。

「悪魔の書よ! あたしが預けている愛車をここに出現させなさい!」

 鏡太朗とクロリリィの目の前に一台の車が突然姿を現し、鏡太朗はその車を見た瞬間に笑顔が弾け、喜びの声を上げた。

「えーっ? 何この車ーっ? こんなカッコいい車、見たことがないよーっ!」

 二人の目の前に停まっている車は、クラッシックなフォーミュラーカーのようなフォルムで、フロントスクリーン以外にはドアも窓もないフルオープンのアルミ製ボディに蛍光イエローのペイントがされていた。


 クロリリィは満面の笑みで嬉しそうに言った。

「あたしの自慢の愛車、九十六年式ケーターハムスーパーセブンJPEよ。世界に五十三台しかない伝説の名車なんだから!」

 クロリリィは右側の運転席に向かって飛び上がり、ペダルに向かって足から潜り込むようにして乗り込むと、小径のハンドルを両手で握って人間の姿に変わり、鏡太朗に輝くような笑顔を向けた。

「鏡太朗、乗って! 一緒に風を楽しみましょう!」

 鏡太朗は助手席の横に伸びているバイクのようなマフラーに戸惑いながら、ドアのないサイドシルを乗り越え、バスタブのような助手席に収まると、楽しそうな笑顔で黑リリィに言った。

「でも、意外だったよ」

「何が?」

 リリィは不思議そうな顔で鏡太朗を見つめた。

「クロリリィちゃんって俺と同じ歳か、年下だって思ってたから、車の運転ができるなんて、びっくりしたよ」

「あ、あたしは、鏡太朗よりも、ほんのちょっとだけお姉さんなだけよ!」

 リリィは車のエンジンをかけると、アクセルを思い切り踏み込み、車は鏡太朗をシートに押しつけながら、猛烈な勢いで発進した。


「こんなに気持ちいい乗り物は、初めてだよーっ!」

 鏡太朗は、低いフロントスクリーンから巻き込む強烈な風を体中に浴びながら、地面に近い視点で次々と後ろに流れていく景色を見て、楽しそうに笑った。

 リリィは、子どものようにはしゃぐ鏡太朗の姿を横目で見ると、心の底から嬉しさが込み上げて、幸せいっぱいの笑顔を見せた。

 鏡太朗とリリィの笑顔を乗せて、車は地を這うような低さで走り続けた。


 雷鳴轟之(らいめいとどろきの)神社の鳥居の前に続く長い下りの階段の下に、リリィは車を停めていた。その近くには、まふゆとナツが朝に駐輪した自転車が置かれたままとなっており、車の左横に鏡太朗が立ってリリィに笑顔を向けていた。

「クロリリィちゃん、本当にありがとう。あ、そうだ。クロリリィちゃんに訊きたいことがあったんだ」

「え、何?」

 リリィは不思議そうに鏡太朗の笑顔を見上げた。

「洞窟の中で言ってた『看病する責任』って、何のこと?」

 リリィの顔が一瞬で真っ赤になった。

「な、何でもないわよ! そ、それじゃあね!」

 リリィは激しく動揺すると、車を急発進させて走り去っていった。

 鏡太朗は、遠ざかっていくリリィの車を不思議そうな顔で見つめた。

「う〜ん……、何だったんだろう? よくわからないや」


 鏡太朗を送った後、リリィは鼻歌交じりで車を運転していた。フロントスクリーンから巻き込む強烈な風が、笑みが溢れて止まらないリリィの紅潮した顔に叩きつけ、ツインテールの髪をなびかせ、黒いロリータファッションの服をはためかせていた。

『あ〜、熱くなった顔に当たる風が心地いいわ〜。こんなに何度も顔が熱くなるなんて、あたしって本当に病気になったのかしら〜?』

 リリィは突然あることが気になり始めた。

『でも、やっぱり鏡太朗って名前は、どこかで聞いたことがあるような気がするのよね〜。何だったかしら〜? 鏡太朗……、鏡太朗……。つい最近聞いた気がするのよね〜。う〜ん……、う〜ん……、う〜ん……。あ、そーか! わかったわ!』

 リリィの頭に答えが閃いた。


『これは気のせいね! 気のせい、気のせい』


                                 (おわり)



最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!

心から感謝します!


そして、これまでのシリーズを読んでくださった方、

作品の評価をしてくださった方に、

この場をお借りして、厚くお礼申し上げます。

皆様のお陰をもちまして、

作品が何度もランクインしており、

このことが大きな励みになっております。


ここで、本当にどうでもよい執筆中のエピソードをひとつ。


私はこれまでにムカデを見たことが一度しかなく、

大ムカデのシーンを書くために

2月上旬のとある日に、ネットでムカデについて色々調べました。


その翌日、なんと帰宅すると玄関にムカデが一匹いて、

私にその姿や動きを見せつけながら、

開いた玄関ドアから氷点下の雪で覆われた屋外に

自分から出て行ってくれました。


長年住んでいる地元でムカデを見たのは初めてのことで、

しかも、外で動く虫など全くいない氷点下の気温が続く厳寒期であり、

とても不思議に感じた出来事でした。


なお、ムカデさんのご遺体は、

翌朝、玄関ドアのすぐ前で発見されました。

司法解剖はしていませんので死因は特定できませんが、

恐らく凍死だと思われます。

ムカデさんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。


さて、多くの方がすでにお気づきだと思いますが、

來華が変身するたびにライカ、雷駕と名前の表記を変えているのは、

現在の來華がどの姿なのかが、

文章で繰り返し説明しなくても

表記を見ただけで伝わるようにしているものです。

もし、お気づきでない方がいらっしゃいましたら、

今後は、表記によって來華の現在の姿を

イメージしていただければ幸いです。


本シリーズは現時点の構想では全12話であり、

今回の第6話でやっと折返し点まで到達しました。

残りの話も一話一話に魂を込めてつくり上げてまいりますので、

何卒、最後までお付き合いください。


今後もよろしくお願いいたします。


                         小雨 無限

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