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13 空に投げ出されたまふゆ

 洞窟の中では、目の前の巨大な魔物が芽衣里(めいり)彩奏(あやか)たちを苦しめ、命を奪い、魂さえも消滅させようとしていた張本人だと知った鏡太朗が、怒りに燃えて魔物を睨み、怒りが爆発したような凄まじい叫び声を上げていた。

「お前があの人たちを苦しめた張本人だったのかああああああああああああっ?」

 オレンジ色の光の尾を引きながら魔物の周囲を飛び回っていた巨大な二つの眼球が、鏡太朗のすぐそばまで飛んで来ると、鏡太朗をじっと見つめ、魔物が鏡太朗に向かって言った。

「苦しめただと? 意味がわからぬぞ! お前たち人間は大ムカデの餌に過ぎぬのだ!

 大ムカデは人間の肉体を食らうと、肉体に作用する霊力を高めていき、その大ムカデを食らった者は肉体が若返り、寿命が飛躍的に伸びるのだ。俺たち天逆毎(あまのざこ)族の平均寿命は三百年だが、俺は大ムカデを連れて人間界に来て、人間を食った大ムカデを食らい続け、千二百年以上生きているのだ。

 そして、大ムカデは人間の魂も食らい、食らった魂を吸収して膨大な魔力に変換する。そして、その大ムカデを食った魔物は、魔力を飛躍的に高めることができるのだ。

 ここは大ムカデの畜舎なのだ。俺は人間どもを捕獲してここに放ち、大ムカデが人間どもの肉体と魂を食らい、大ムカデは俺の糧となる。人間どもの魂がここから逃げ出すことができないように、魂を閉じ込める結界で洞窟全体を囲んだのだ」


 悪魔の書を消し去ったクロリリィは、冷静な表情で思考を巡らせていた。

『こんなメチャメチャな魔力レベルの魔物だと、さすがのあたしでも全く太刀打ちできないわね〜。ここにいる人間なんて放っておいて、瞬間移動で逃げることにしましょう。鏡太朗だけは一緒に連れて行ってあげるけど』


 鏡太朗は、すぐ目の前の天逆毎(あまのざこ)の眼球を睨んで言った。

「大ムカデは二体とも倒した! 大ムカデがいなければ、この人たちがここにいる理由はないはずだ! この人たちを元いた場所に帰すんだ!」

 天逆毎(あまのざこ)はニヤリと笑った。

「この地面の下には大ムカデの卵がある。夜になれば卵が孵化し、何十体という大ムカデが土の中から出てくるのだ」

 鏡太朗とクロリリィは、天逆毎(あまのざこ)の言葉に慄然とした。

 天逆毎(あまのざこ)は再び横笛を奏で始めた。笛の音に合わせて洞窟全体が振動し、大ムカデが壁や地面に空けた無数の穴が見る見る塞がっていった。

「笛の音で穴が塞がった!」

 天逆毎(あまのざこ)の魔力に驚きを見せた鏡太朗に、クロリリィが天井に空いている穴を見上げながら現在の状況を説明した。

「それだけじゃないわ。この洞窟がまた結界で囲まれたわよ」

「そ、そんな……」

 クロリリィは鏡太朗に耳打ちした。

「魔力のレベルからすると、この魔物はメチャメチャな強さよ。残念だけど、あたしでも敵わない。今の内に逃げましょう。あたしたち二人だけなら、瞬間移動で逃げられるわ」

 鏡太朗はクロリリィに小声で言った。

「ここにいるみんなと一緒に逃げられる?」

「それは無理よ。一緒に瞬間移動できるのは一人だけ」

「じゃあ、クロリリィちゃん一人で逃げて」

「な、何言ってるのよーっ! あなたも一緒に行くのよ!」

 鏡太朗はクロリリィに優しく微笑んだ。

「俺はこの人たちを絶対に守り抜くよ。だから、クロリリィちゃん、一人で逃げて」

「そんなこと、できる訳ないでしょーっ! しかも、毒にやられてるそんな体で、この人間たちを守れる訳ないでしょーっ!」

 クロリリィは思わず叫び声を上げた。その時、クロリリィと鏡太朗は何かの気配を感じて、同時に視線を上に向けて目を見張った。

 二人のすぐ真上には、巨大な右耳がオレンジ色の光の尾を引きながら浮遊していた。クロリリィと鏡太朗が慌てて天逆毎(あまのざこ)に目を向けると、顔の右横から耳がなくなっており、そこには黒い窪みだけがあった。

 天逆毎(あまのざこ)は薄笑いを浮かべると、横笛を奏で、その後で口を開いた。

「お前たちの話は聞いたぞ! ここからは誰も逃しはしない! 今新しい結界を張った。この結界は、外の世界との繋がりを完全に遮断する効果がある。もう瞬間移動などできぬぞ!」

 天逆毎(あまのざこ)を睨む鏡太朗の隣で、クロリリィの目が冷たく光った。 

「こいつのこと、めっちゃムカついてきたわ〜。決めたわ。ここを出ていくのは、こいつをぶっ倒した後にするわよ」


 ヴァンパイアになったもみじは、背中からコウモリのような翼を生やし、町の南側に向かって飛んでいた。

 その後方をもみじの魂が飛んでおり、百メートルの間隔を維持しながらヴァンパイアに支配された自分の体を追っていた。

『ちくしょおーっ! ヴァンパイアめ、あたしの超絶美しい体を奪いやがってええええええええっ!

 それにしても、ジルに噛まれた瞬間、いくら修行しても修得できなかった離魂之術に初めて成功したぜ! 一昨日臨死体験をして、魂が肉体を離れる感覚がやっと掴めたんだよな。魂の姿で空を飛ぶのって、めっちゃ気分がいいじゃねーかよ! さくらが小さい頃からこの術で遊んでいた気持ちが、よくわかるぜ! あ、でも、二十分以内に体を取り返して体の中に戻らねぇと、二度と体には戻れなくなるんだった! 急がねぇとな』

 もみじの魂はもみじの肉体を追跡しながら、ジルに噛まれた時の状況を思い返した。

『ジルに噛まれた時、とっさに離魂之術を遣って体から逃げ出したが、その直前に体に感じた感覚……。ありゃあ、血を吸われた感じじゃあなく、逆に牙から血液の中に何かが侵入した感じだった……。魔力と魂を持つ液体状の何かが……』


「な、何だありゃあーっ?」

 驚愕して思わず叫び声を上げたもみじの魂の目に映ったのは、町の南側上空に浮かぶ雲のような何かの塊だった。その雲のようなものは、雲よりもずっと低い高さに浮かんでおり、少しずつ上昇していた。

『あの雲みてぇなヤツ……、すげぇ数の魔力を感じるぜ……。ま、まさか、あれはヴァンパイアになった町の住民が大群になって空を飛んでるのか? この距離じゃあよくわからねぇ! どうしたらいい? まず、状況を整理するか』


 もみじの魂は冷静になると、状況の分析を始めた。

『まず、あたしの肉体がヴァンパイアになって、あたしの魂が抜けているのも関わらず、自律的に行動してやがる。ってぇことは、ヴァンパイアになった奴は、魂までヴァンパイアになっちまう訳じゃあなく、別の魂が肉体に入り込み、肉体を変異させて支配してるってことだな。本来の魂は眠らされているんだろうな。

 あのジルって奴に噛まれた時、注射した時みてぇに血液の中に液体が入ってくる感覚があった。その液体に魂が宿っていて、一緒に肉体に入り込んだってぇことは、ヴァンパイアの本体は液体なのか? もしかしたら、他の生物に寄生して自分の体を手に入れるっていう生態を持つ魔物なのかもしれねぇな。そして、血液の中に混じった液体が分裂して次の世代の命を生み出し、そこに魂が宿り、それを他の生物の血液に注入して次の世代に肉体を与えてるってことか?

 だとすると、肉体を取り戻すには、血液に混じったその液体を分離して追い出す必要があるが、方法が全くわからねぇ。

 いや、もう一つ別の方法がある! 液体は追い出せなくても、魂を追い出しちまえばいいんじゃねぇか? 体はヴァンパイアのままかもしれねぇが、少なくとも体は取り戻せる。

 どうしたら魂を追い出せる? 物理的な攻撃は魂を通り抜けちまう……』

 もみじの心に、怨咒(えんじゅ)のビスクドールの体と、咒嗟(えんさ)の死体の体の記憶が蘇った。

『悪霊は雷が怖いってーことだったが、あいつらの魂は神伝霊術の雷の術で苦しんでたよな? ってぇことは、雷の神様の御神氣が宿る雷なら、魂にダメージを与えられるんじゃねーのか?』

 ヴァンパイアに支配されたもみじの体は町の中に降下していき、もみじの魂はそれを追った。


 町の千メートル上空では、魂が抜けて落下するさくらの体に向かって、空飛ぶヴァンパイアと化した住民たちの無数の手が伸びていた。

「この女の体をバラバラにするぞーっ!」

「バラバラにして、生き血を一滴残らず飲み干しちまえーっ!」

 四体のヴァンパイアの手がさくらの体に触れた時、ヴァンパイアたちの頭にテレパシーによる声が伝わってきた。

『やっほーっ! みんなのアイドル、ジルちゃんだよぉ! ジルちゃん、お腹ペコペコなのぉ〜っ! 今すぐ生きた人間を連れてきてちょーだいっ!』

 ヴァンパイアたちの手が一斉に止まった。

「ど、どうする?」

「いや、この女の生き血を飲んでから、他の人間を探そうぜ」

 ジルの声色が、急にドスが効いた威圧的なトーンに変わった。

『ジルちゃんより先に生き血を飲んだ悪い子がいたらぁ……、ジルちゃん激おこだよぉーっ! 生きたまま体を細かく刻んじゃうからねぇーっ!』

 ヴァンパイアたちは顔面蒼白になって表情が固まった。

「ジ……、ジル様にこの女を、け、献上しよう……」

「そ、それがいい……」

 さくらの体に手を伸ばしていた四体のヴァンパイアは、さくらの体を掴んで町に向かって降下していった。


 その時、残って滞空している数万人のヴァンパイアと化した住民の中の一人が、上空を指差して叫んだ。

「もう一人人間が落ちてくるぞーっ!」

 ヴァンパイアと化した住民たちが見上げた上空では、領巾(ひれ)から投げ出されたまふゆが真っ逆さまに落下していた。

「な、何だ? ありゃ?」

 まふゆから離れた場所には、直径三百メートルの夜の空間が浮遊しており、その中では、旋鬼に憑依されて体を支配された來華が空を自由に飛び回り、天女姿に変身したさくらの魂を狙って、雷と咒靈力(じゅれいりょく)が螺旋状に混じり合ったつむじ風を左右の掌から次々と発射し、咒靈力(じゅれいりょく)の塊で覆った両手両足でさくらの魂に突きや蹴りを放ち、さくらの魂は宙を舞ってそれらを避けていた。

 しかし、さくらの魂が見えないヴァンパイアと化した住民たちの目には、実体化した領巾(ひれ)だけが、旋鬼に支配された來華の周りで不自然に宙を動き回っているように映っていた。

「あれって、ジル様から受け継いだ魔界の記憶の中にある一反木綿族の魔物じゃね?」


 旋鬼に支配された來華は、凶悪な笑みを浮かべながら空を飛び回り、天女姿のさくらの魂に向けて咒靈力(じゅれいりょく)の塊で包まれた拳と足を放ち、連続して攻め立てていた。

「どうして攻撃しないんだい? この魔物の嬢ちゃんの体には攻撃できないってことかい? ふふふ……」

 さくらは、旋鬼に支配された來華の連続攻撃を避けて飛び回りながら、焦燥感に煽られていた。

『早くまふゆさんを助けないと! でも、旋鬼の攻撃が激し過ぎて、まふゆさんのところに行けない!』

 さくらは、旋鬼に支配された來華が放つ雷と咒靈力(じゅれいりょく)のつむじ風の連射を宙を舞ってかわしながら、空飛ぶヴァンパイアの大群に向かって落ちていくまふゆの姿を一瞬見た。

『まふゆさん!』


 まふゆは空中で体勢を整えてうつ伏せの状態になり、自分が落ちていく先で海のように広がるヴァンパイアの大群を見つめていた。

 まふゆは、空腹のヴァンパイアたちが、強烈な食欲を満たすことを期待して自分に向ける熱い視線を全身で感じ、緊張と恐怖を覚えながら必死に思考を巡らせていた。

『あ、あんな人数のヴァンパイアに捕まったら、あっという間に全身の生き血を飲み干されてしまう! でも、あの人たちを凍らせたら、あの人たちが地面に墜落して死んでしまう! もーっ! どうしたらいいのーっ?』

 ヴァンパイアたちは、見る見る近づいてくるまふゆに向かって、次々と両手を伸ばしていった。


 さくらの魂は、旋鬼に支配された來華を睨んだ。

「ごめん、ライちゃん!」

 さくらの魂の肩にかけられた領巾(ひれ)の両端が長く伸びると、旋鬼に支配された來華に向かって鞭のように迫った。

 旋鬼に支配された來華はニヤリと笑った。

「これはチャンスだねぇ! 魂さえ苦しめる呪いの力の激痛を味わいな!」

 旋鬼に支配された來華は、左右の手で領巾(ひれ)の両端を掴んで受け止めると、両手から咒靈力(じゅれいりょく)を放ち、咒靈力(じゅれいりょく)は瞬く間に領巾(ひれ)を伝ってさくらの魂を包み込んだ。無数の黒い雷がさくらの魂を駆け回り、さくらの魂は激しい激痛に襲われて悲鳴を上げた。

「きゃああああああああああああああああああああっ!」


「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 まふゆはヴァンパイアたちの目前で反転して仰向けになると、絶望の叫び声を上げながら、ヴァンパイアたちが伸ばしている手の中に落ちていった。 


 さくらは咒靈力(じゅれいりょく)に包まれて激痛に襲われ続けていたが、まふゆの叫びに気づき、下方で墜落していくまふゆに顔を向けると、渾身の力を込めて叫んだ。

「コアちゃああああああああああん! お願い、まふゆさんを助けてえええええええええええええっ!」


「さくら?」

 大型ダンプカーに押し潰されながら凄まじいスピードで墜落していたコアちゃんは、さくらの叫びを感じて目を開いた。そのすぐ背後には、石だらけの河原が迫っていた。

「さくらあああああああああああああああああつ!」

 コアちゃんはダンプカーを避けると、凄まじいスピードで上昇を始めた。その時、ダンプカーが轟音を立てて河原に激突し、バラバラになった部品が激しく周囲に飛び散った。


 仰向けで落下したまふゆは、背中の翼で羽ばたく三体のヴァンパイアの両手で受け止められ、一体は両肩、もう一体は背中の右側と右腰、もう一体は背中の左側と左腰を支えた。

 周辺で滞空しているヴァンパイアたちは、歓喜の表情を浮かべた。

「早くその女をバラバラにしろーっ! 生き血をすするんだーっ!」

 まふゆから離れた位置にいるヴァンパイアたちが、怒って叫んだ。

「俺たちにも生き血をよこせーっ! バラバラになった女の体をこっちにも回せーっ!」

 まふゆのそばで滞空していたヴァンパイアが、邪悪な笑みを浮かべてまふゆの上方へ移動した。

「俺がこの女をバラバラにしてやるぜ!」

 上からまふゆを見つめるヴァンパイアの両手の指先の爪が、鋭く尖りながら長く伸びた。

 その様子を見たまふゆは目を剥き、その顔が恐怖で凍りついた。

『あたし、こいつにバラバラにされて殺される! こいつを倒せたとしても、空の上じゃあ、こいつら全員からは逃げられない!』  

 その時、まふゆの記憶の中で、血まみれのもみじが目に涙を浮かべて全力で叫んだ。 

『まふゆ! 最後の最後まで、ぜってぇに生きることをあきらめるんじゃねぇ! ぜってぇに死ぬんじゃねぇえええええええええええええっ!』

『そうだ! 生きることをあきらめちゃいけない!』

 まふゆの見開いた目に力が宿った。


「この爪で引き裂いてバラバラにしてやるぜええええええええええっ!」

 まふゆの上方のヴァンパイアがまふゆに迫り、両手の爪をまふゆに突き刺そうとした。

『今だ!』

 まふゆは右足を上げ、迫るヴァンパイアの心臓を踵で蹴った。

「ぐおっ!」

 蹴られたヴァンパイアが呻き声を上げて一瞬動きを止めると、まふゆは両足の裏でそのヴァンパイアの下顎を蹴り上げながら、まふゆの両肩を支えて上を向いているヴァンパイアの額の上に両掌を置き、その上で倒立した。

『こいつらの頭の上を跳び回り続けて、逃げ切ってやる!』

 まふゆは、近くで滞空しているヴァンパイアの頭の上に右足で着地し、その近くのヴァンパイアの頭の上まで跳ぶと、左足で着地した。まふゆが自分の左足に目を向けると、そのヴァンパイアの下にも夥しい数のヴァンパイアが幾層にも重なって滞空しており、邪悪な目で自分を見上げていた。さらにその遥か下には、ミニチュアのビルと豆粒のような家屋が広がる町の姿があった。

『落ちたら死ぬ! 絶対に落ちるもんか!』


 まふゆの左足が頭を踏みつけているヴァンパイアが、まふゆの左足首を両手で掴もうとしたが、まふゆはそれよりも早く左足で踏み切ると、ヴァンパイアと化した赤い髪の若い女性の頭の上に右足を着地させた。その瞬間、まふゆの右足が滑り、まふゆの体が大きく傾いた。まふゆが右足を見ると、女性の赤い髪が大きくずれていた。

『ウイッグ? まずい!』

 赤いウイッグが町に向かって落下していき、まふゆは足場を失って宙に投げ出された。

『落ちる!』

 まふゆが視線を下に向けると、幾重にも重なって滞空しているヴァンパイアたちがまふゆを見上げてニヤリと笑みを浮かべている姿と、その千メートル下に広がる町の光景が視界に入り、その瞬間にまふゆの顔は恐怖で凍りついた。


「まふゆさん!」

 咒靈力(じゅれいりょく)に包まれて激痛に見舞われていたさくらの魂が、痛みに耐えながら、まふゆに向かって降下しようとしたが、旋鬼に支配された來華が、掴んでいた()()を引っ張って上昇し始めた。

「あの嬢ちゃんのところへは行かせないよぉ! あはははははっ!」

 天女姿のさくらの魂は、高笑いをする旋鬼に支配された來華に領巾(ひれ)を引っ張られ、空を上へと昇っていった。

「放してええええええええええええええええええっ!」

 涙を浮かべて叫ぶさくらは、まふゆから見る見る遠ざかっていった。


 宙に投げ出されたまふゆに向かって、その真下にいた三体のヴァンパイアが一斉に手を伸ばした。

「逃げやがるなら、逃げられない空中でバラバラに引き裂いてやるぜーっ!」

 迫るヴァンパイアたちの指の爪は、すでに刃物のように鋭く長く伸びていた。


『引き裂かれる!』

 まふゆの顔から血の気が引いていき、まふゆはヴァンパイアたちの爪に向かって落下していくのを感じながら、絶望で視界が暗くなっていった。


 まふゆを切り裂こうとする三体のヴァンパイアの鋭い爪が、まふゆに触れるほど接近した。

「ぎゃはははーっ! コアちゃん様の竹節鋼鞭を食らいやがれーっ!」

 戦闘モードのコアちゃんが凄まじいスピードで斜め上から飛んで来ると、両手で掴んだ竹節鋼鞭でまふゆに向かって伸びたヴァンパイアの腕を打ち払った。

「コアちゃん!」

 まふゆの顔が希望と喜びで輝き、コアちゃんはまふゆに笑顔を見せると、まふゆを右腕で抱えて高速で上昇し、ヴァンパイアの大群から離れていった。

「ありがとう、コアちゃん! コアちゃんは命の恩人だよーっ!」

「さくらからの命令でまふゆを助けたまでだ。礼はさくらに言ってくれ。さくらはどうなってる?」


 コアちゃんとまふゆの遥か上方では、天女姿のさくらの魂が、旋鬼に支配された來華に掴まれた領巾(ひれ)の両端から咒靈力(じゅれいりょく)を送られて激痛に苦しんでおり、領巾(ひれ)を引っ張られて雲の中に引きずり込まれていった。

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