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5 メイド・アリッサは仕事に励みたい

また新たに評価をいただけました。

ありがとうございます。

 勇者パーティに入ってから、アリッサは仕事に物足りなさを感じていた。

 勇者の身の回りの世話ができるのは、この上ない喜び。気にしているのは、全体的な仕事の量である。

 今までは大きな屋敷の家事をこなしていたのもあり、数人しかいない勇者パーティの仕事量は元の十分の一にも満たない。


 ――こんなことを考えてしまうのは失礼よね。


 とは思っても、自分に与えられた仕事以上のことはしない。新たな主人、リリアの私生活に首を突っ込んだりはしない。


 代わりに王城の仕事を手伝おうともしたのだが、アリッサも今では勇者パーティの一員である。他の使用人たちに一目置かれてしまった。手伝いを申し出ると、大きく遠慮される。

 今も、アリッサは勇者のいる部屋、正しくはマクシミリアンの私室前でぽつんと一人で立っていた。


 いつ呼ばれてもいいように待機しているのだが、


 ――お茶はさっき用意ましたし、勇者様の買い物も終わってしまいましたし。


 勇者パーティには、あと二人女性がいる。ラミという精霊使い( シャーマン)と、ミツルギという剣士だ。

 この二人は、アリッサの仕事を受け入れていない。正しくは、時間があればクエストに出ているため、会う機会自体が少ない。


 ――あのお二人は忙しそうですけど、勇者様とマックス様はあまりお部屋から出ないのね。


 聞いた話では、勇者は国王から直接言い渡される任務以外では、ほぼ動かないという。

 それをアリッサは、有事の際にすぐ動けるように待機しているのだと思っている。

 これも聞いた話だが、勇者とマクシミリアンは長い付き合いで、最初は二人で様々な任務をこなしていたという。


 マクシミリアンは優秀な魔法使い(ソーサラー)で、詳細なレベルこそ不明であるものの、魔族の大軍を一人で相手できるそうだ。

 魔族の大軍と聞いてアリッサに具体的なイメージは湧かない。百か二百か、もしくは千単位なのか。ただ、マクシミリアンがただ者ではないと感じている。


 今は書類仕事に追われているが、戦場ではたった一人で戦局を左右できる猛者。勇者の仲間としては、この上なく頼もしい。


 ――そんな方々と同じパーティになれたのは光栄ですけれど……。


 やはり、ヒマなものはヒマだ。掃除も洗濯も買い物も差し入れも終わり。リリアからはヒマな時は休んでもいいと言われているが、


 ――メイドとしての本分を忘れるわけにはいきません。


 先日会いに来てくれたメイド長・エイプリルに言わせれば生真面目すぎる考えは、アリッサが長いメイド生活で最も大切にする信念のようなものだ。

 主人が変わっても、その信念は変わらない。なので、仕事が欲しくてたまらない。


 マクシミリアンの私室前の廊下は、あまり人が来ない。来るのは、やはり勇者パーティの面々くらいだ。

 有り余る時間をどうしたものか、アリッサは日々考える。

 早く任務が来て欲しいと思うのは、不敬だろうか。アリッサは、まだ任務を経験していない。その中で役立てることがあれば、この持て余している時間にも新たな意味が生まれてくると思うのだが。


 ドアノブの回る音を聞いて、すぐにアリッサは扉の方を向く。

 無言で一礼。相手は、ミツルギだった。


「……」


 あちらも無言で、少女剣士は去っていく。

 警戒されているようだ。まだ勇者パーティに入って日が浅い身としては、当然か。


 ――信頼を得られるようにも、もっとお勤めに励まないと。


 メイド長・エイプリルからは、主人の代理とまで言われたのだ。それに恥じない働きをしたい。

 とはいえ、と思いつくものはなく、先ほどの思考をループするだけだった。

 そこで、再び扉が開いた。


「ん? なんだ、休んでていいのに」


 リリアである。アリッサはまた一礼し、


「お疲れ様です、勇者様」

「ん? いや、別に疲れてはいないんだけどなー……」


 頬をかきつつ、リリアが呟く。


「あ、そうそう。今からちょっと出かけてくる」

「かしこまりました。では、私もお供いたします」

「んあ? いや、マックスが一緒だから大丈夫なんだけど」


 リリアが言うと、マクシミリアンもまた出てきた。


「お疲れ様です、マックス様」

「おや、アリッサ、ゆっくりしてていいんですよ? 今のところ、急ぐ用事もありませんし」

「今からお出かけとうかがいました。私も共に……」

「ちょっと息抜きに出るだけなんですが」

「私のことは、お気になさらず。お二人のお邪魔はいたしません」

「はあ……。まあ、いいですかね、勇者さま?」

「いいぞー。つっても、ホントに少し出かけるだけだぞ?」


 そう言うと、リリアは自室へと向かった。着替えてくるのだろう。アリッサはあえて追わず、


「どちらまで行かれるか、うかがってもよろしいですか?」

「馴染みのスウィーツ屋ですよ。大した場所でもありません。私の仕事が一段落したので、勇者さまが出かけたいと言いまして」

「かしこまりました」


 馴染みの、と言われて、アリッサはすぐに思いだす。買い物に出かけた際、王都での情報収集は完了している。スウィーツ屋の場所も把握済みだ。


 紺色のワンピースに着替えてきたリリアは、マクシミリアンと並んで外へ出た。

 今日は晴天。青い空を見て、


 ――お洗濯ものが、すぐに乾いてくれそう。


 と思うのは職業柄か。ふらりと出かけるには、良い陽気だ。

 リリアとマクシミリアンは、王都でもよく知られていた。挨拶をしてくる者もいる。


「勇者様、今日は良い果物が入ってますよ!」

「今、ちょうどパンが焼けたところなんです。一ついかがですか?」

「勇者様にお似合いの服を仕入れたんです。後でお立ち寄りくださいー」


 リリアはひらひらと手を振って応える。共に歩くマクシミリアンにも、主に女性から声がかけられていた。

 どちらも、人気者であるようだ。ただ、二人には剣呑な視線も向けられていた。

 町民ではない。路地の陰からこちらをうかがうような、いかにもといった仕草。アリッサでもすぐさま見破れるような、つたない隠れ方だった。

 勇者であるリリアには、敵もいると聞いている。その一派の手の者だろう。アリッサは警戒心を高め、しかし、


「あまり気にしないでください、アリッサ。いつものことですから」

「えっ? あ、はいっ」


 マクシミリアンも当然のように気が付いているようだ。リリアも、


「廃絶派もヒマな奴雇ってるよなあ。わたしの散歩なんか見ても、良い事ないっての」

「隙を見て、暗殺でもしようってところじゃないですか?」

「マックスがいるのに、隙も何もないってのー」

「まあ、そうですね。下手なことをするならば、燃やしましょう」


 話題は物騒なのに、二人にはたっぷりの余裕が感じられる。


「マックス様、いざという時は私も……」

「あなたが何かするまえに、私が燃やしますから、大丈夫大丈夫」

「あっはっは、マックス、冗談になってないぞー」

「冗談じゃなくて、本気で灰にしますからねー」


 戦場を、修羅場を潜り抜けてきた二人には、走狗そうくもなんのその、といったところか。

 遠巻きにいくつも視線が向けられている。三人から、四人。それでも、この二人には日常茶飯事らしい。


「あんなのを雇ってるくらいなら、税金をもっと払えっての。王様、資金難だって言ってたぞ」

「いざとなれば、一切合切徴収してはどうでしょうかね。持ち主である貴族が“不慮の事故”で消えてくれれば没収できるでしょう」

「かもなー」


 暗殺されようかというときに、これまた危険な話題で盛り上がっている。


「あ、そうそう、今日から新作のスウィーツがあるらしくてさー」

「ほほう」


 と、思えば、暗殺から、あっさりと菓子のことに話題を変えて、二人はまた楽しそうに会話している。


 ――よ、よほど慣れてらっしゃるのね。


 リリアとマクシミリアンは、アリッサの想像を超える危険を乗り越えてきたようだ。

 やがてスウィーツ屋が近づいてくると、リリアは、


「お、今日は結構空いてるんじゃね? 急ぐぞ、マックス、アリッサ」

「はいはい。お子様みたいにはしゃがないでください、勇者さま」

「誰がお子様だ!」

「誰でしょうね。さて、行きますよ、アリッサ」


 小走りで駆けていくリリアに、マクシミリアンとアリッサも続く。

 そこで、不意に気配が近づいて来た。こちらを向いているリリアの背後から、フードをかぶった人影が走ってくる。


 ――危ない!


 アリッサは、すぐに走りだそうと脚に力を込めた。

 が、


「はいはい、そこまでー」


 いつの間にか、リリアよりも先にいたマクシミリアンが、フードをかぶった何者かを取り押さえていた。

 文字通りに、目にも止まらぬ早業。驚き、思わずアリッサは転びそうになる。


「ぐぎっ!」

「こんなタイミングで飛び出してくるなんて、甘いですねえ。下っ端ですか?」


 叩き伏せたマクシミリアンは驚くこともなく、淡々と続ける。


「腕を切り飛ばしましょうか? 足を砕きましょうか? 腹に穴を開けましょうか?」

「ひっ、ひぎっ」

「それとも、全部やりましょうか?」


 容赦のない殺気を浴びせられて、刺客は震えていた。思わず、アリッサまで立ちすくんでしまう。

 先ほどまでの、ゆるい空気が一変していた。


「ここでそれをやると周りに迷惑がかかりますので我慢しますけどね。アリッサ、憲兵を呼んでください」


 呼びかけられて、やっとアリッサの足が動くようになった。慌てて、憲兵の詰め所へと走る。


 ――こ、怖かった……。


 あの場に、他の誰もいなければ、刺客はあっさりと殺されていたに違いない。そう確信させるほどの空気だった。


 ――あれが、マックス様の……?


 一面なのか、本性なのかまでは分からない。しかし、アリッサは新しい主人の従者たる黒い青年に、間違いなく恐怖を抱いた。

 その力強さに頼もしさだけでなく、言いようのない不気味さを感じて、震えた。

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