12 勇者リリアは書く
これにて一段落です。
諸事情があり、今日から更新が不定期になります。
申し訳ございません。
「えーっと、ここにはもう払い終わりましたから、次はこっちですね」
「うーい。つか、書類書くのめんどくさい。マックスが代わりにやれ」
「一応、勇者さまが負債を買うのですから、ご本人でないと」
「お前が勝手に条件変えたんだろー?」
「あの場で見殺しにしてもよかったのですが、それだとラミも立場がないでしょうし」
「……お前、ラミに甘くなってね?」
「それは気のせいですよ」
マクシミリアンに渡される書類にサインをしながら、リリアはため息を吐く。
ミツルギ、という名前の少女がパーティに加わることになってから数日。王都に戻ったリリアを待っていたのは、いつものスウィーツたちではなく、借金の権利書の山だった。
ミツルギの実家は、かなりの金を借りていたらしく、その件は十件や二十件では済まなかった。
しかも、その額は小さな領地が丸ごと買えるほどのもので、額を聞いたリリアもさすがに顔が引きつった。
金自体はマクシミリアンの懐から出したが、名義がリリアになっているので、結局リリアが苦労することとなっている。
「マックスー、あとどんくらいだー?」
「今日中には終わると思いますよ。終わったら、いつもの店にでも行きましょうか」
「うー、今行きたい」
「ダメです」
勝手に仕事を持ってきておきながら、マクシミリアンの態度は横暴だった。すぐさま文句を言ってやりたくなったが、ノックの音に邪魔された。
「……あの、オレ、です。買い物、行ってきました」
「ああ、入っていいですよ、ミツルギ」
黒い髪の、自分とそう変わらない年頃の少女。リリアとは別の理由で苦労を背負った、新しい仲間だった。
「……言われた通りに、クッキー、買ってきました」
「ご苦労様です。さあて、勇者さま、少し休憩してもいいですよ」
「マジか!」
リリアはさっそく、皿に盛られたクッキーに飛びついた。マクシミリアンが淹れてくれる紅茶を飲みながら、うっぷんを晴らすように、クッキーをかじる。
「……オレの仕事って、こんなのでいいんですか?」
「今は任務がありませんから。今はこんなのでいいんですよ」
と軽く言いつつも、マクシミリアンが用意させたのは王都では有名な菓子屋。下手をすれば、数時間待たされる人気店のものだ。
「……小間使い、みたいですね」
「仕事がないと、働いている実感がないでしょう? ラミはまたクエストに出ていますし、ミツルギも話し相手がいないと寂しいでしょうから」
「……そんなことは」
「まあ、今はこれくらいなものです」
リリアは、二人そっちのけでクッキーを食べる。紅茶との相性が抜群だ。バターの風味も良い。
「……あれが、オレの借金の?」
「ええ、そうですよ。勇者さまが絶賛格闘中です。あの書類を全部書き終えれば、あなたの借金は全部まとめて勇者さまからのものになります」
「……そう、ですか」
リリアからすればただの厄介ごとも、黒髪の少女にとっては大きなものらしい。
そこに多少の同情はあれど、リリアからすれば、書類など面倒でしかない。
「勇者パーティに入ったからには、危ない任務もあります。その時は期待していますよ」
「……はい」
リリアは詳しくしらないが、ラミはミツルギの腕を認めている。戦いになった際は、存分に活躍してもらおう。
――じゃないと、わたしが休日潰す意味がないからな!
怒りは、クッキーと紅茶で相殺するしかない。本当はマクシミリアンに怒りのタックルを食らわせたいが、我慢してやる。
それに気づいているだろうに、マクシミリアンは早々に皿を下げてしまった。
「むー!」
「食べ過ぎると食事に響きますよ。さ、続きをやりましょう」
文句を言っても、マクシミリアンは気にしないだろう。仕方なしに、書類にサインする作業に戻る。
「……あの、次の仕事は?」
「今のところはありません。休んでいていいですよ」
「……でも、それだと」
なんとなく視線を感じる。
リリアとしては、この書類の山を押し付けたくはある。が、正式な書類であるため、リリア本人がサインしないと効果を成さない。
「何かあれば、また呼びます。待機していてください」
「……分かりました」
独特のテンポで返事をして、ミツルギは部屋を出ていった。
「マックス―、腕が痛いー」
「はいはい、頑張ってくださいねー」
そういうマクシミリアンは、あちらはあちらで書類の精査に忙しそうだった。リリアがサインをする前の書類に不備がないか、インチキがないかを確認している。
忙しいのはお互い様というところか。リリアは諦めて、ひたすら書類にサインをしていった。
――めんどくさいなあ、もう。
心の中で何百、何千と呟きながら、夜までかかって書類を書き終えた。
「約束だぞ、マックス! いつもの店に!」
「もう閉店時間ですって」
「んなー!?」
店に無理を言うこともできず、結局ご褒美のスウィーツは翌日へ持ち越しとなった。
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