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1 勇者リリアは戸惑う

なるべく早い更新を心がけていきます。

 リリアは王城の廊下をゆううつな気持ちで歩いていた。

 今日は、隣に誰もいない。いつもならば一緒のマクシミリアンも、今は部屋で書類をさばいていた。


 ミツルギという新たなパーティメンバーを迎えてからは、ミツルギの借金やら何やらで、任務以外の仕事が増えた。

 本来ならば書類仕事もリリアがしなければならないのだが、そこはそれ。文字は読めても内容がさっぱりわからないのでマクシミリアンに一任している。


 ――なんか、マックスも人間に染まってきたな。


 出会った時は、大雑把で荒っぽいところが目立っていた友人も、今では書類などという細かなことと対決中。出会った当時ならば、書類など笑いながら燃やしていただろう。

 それはともかく。


 リリアは誰もいないことを確認してから、がっくりと肩を落とした。

 先ほど、国王から告げられたことが、胸中に重くのしかかってきている。

 営業モードという疲れる対応をしなければならないこともだが、国王は酷く申し訳なさそうに、リリアに言った。


 ――パーティメンバーを増やす、ねえ。


 国王は、近々勇者パーティに新しく人をよこすと言った。そしてそれは、


 ――勇者懐柔派なんて、いつの間にできてたんだよ……。


 今のリリアを応援しようという勇者支持派。

 今のリリアが勇者にふさわしくないとして謀殺を狙う勇者廃絶派。

 そして、今のリリアを受け入れ、あわよくば都合よく引き込もうとする勇者懐柔派。


 今までは支持派と廃絶派の間で様々な争いがあった。論争だけではなく、実際に戦闘に至ったこともある。

 戦闘となれば、リリアにはマクシミリアンがいる。どんな敵が、いつ襲って来ようとも怖くない。

 しかし、新たに増えた勇者懐柔派というのは厄介だ。


 どうやら、リリアを勇者として認めてはいるものの、気ままに動くリリアを取り込み、政治の道具にしようとする派閥らしい。

 明らかな敵対行動をしてこないので、叩き潰すわけにもいかない。あれやこれやと手を尽くし、リリアの信用を得ようとしてくる。リリアはその干渉をなるべく受けないようにと努力しているのだが、


 ――次に来る仲間は、懐柔派の奴か……。


 勇者支持派の一部と手を組んで、リリアに仲間、という名目の手下を送り込んでくるらしい。

 表面上の対立がないので、国王も防ぐに防げなかったらしい。しわの多い老人は、苦労人そのままにリリアに謝ってきた。


 ――いやまあ、王様が悪いわけじゃないんだけどさ。


 勇者という天職を取り巻く環境は、日々変わっていくらしい。正直な所、最近は任務で戦っている方が、余計な気を遣わずに済むので楽だ。

 懐柔派の手下をどうしようか、リリアにはすぐには思いつかなかった。ただ言えるのは、


 ――下手なことしたら、マックスがまたブチ切れるだろうなあ。


 穏やかなようで気の短い友達は、リリアに危機が及べばすぐに怒る。怒って、元凶を丸ごと灰にする。文字通りに。

 『エルテル城塞』での、ルシアナの件を思いだす。

 裏切られれば、割り切れるものだ。何の気兼ねもなく、マクシミリアンに任せられる。だが、懐柔派の穏やかなる侵略はどうしたものか。


 表面上だけだろうが、懐柔派は協力的らしい。国王が言っていた。そんな相手をいきなり灰にすると、リリアたちにまた新たな敵が生まれるだろう。

 明確な敵ではないところに、面倒くささを感じる。白とも黒ともはっきりしない相手と、どう接したものか。


「うーい、戻ったぞー」


 悩みながら、マクシミリアンの部屋に入る。すると、


「おかえりなさいませ、勇者様!」


 という、聞きなれない声に出迎えられた。


「あん……?」


 なぜ、マクシミリアンの部屋に、見慣れない女性がいるのか。

 プラチナブロンドの髪、ラミと同じくらいの年頃で、女性的な特徴にあふれている。ふんわりとした服装をしており、それは、


 ――メイド服?


 王城でよく見かける、使用人たちの服装だった。

 部屋の掃除にでも来たのだろうか。これは誰かとマクシミリアンに聞こうとしたら、先に見慣れない女性が、


「はじめまして、勇者様! わたくし、この度、勇者様にお仕えすべくパーティに参加いたします、アリッサと申します!」

「パー……えぇ?」


 メイド服の女性、アリッサは丁寧に腰を折る。勇者パーティの一員というよりも、侍女そのままのようだ。

 どうしたものかと、奥にいたマクシミリアンを見る。すると、マクシミリアンは、


「おかえりなさい、勇者さま。なんだか、ついさっき来て、国王陛下の命により勇者パーティ(うち)に新しく配属されたとか」

「はいっ! 今日より、勇者パーティの皆さまとご一緒させていただきます!」

「……だそうです。何か聞いてます?」

「……ああ、うん。ついさっき」


 懐柔派の行動は素早いらしい。まさか、こんなに早く手を回してくるとは。


「てか、なんでメイド服?」

「はいっ! 勇者パーティの皆さまは戦いにおいて秀でていると伺っています。なので、身の回りのお世話、万が一勇者様の身に何かあったときの盾として、お仕えすることになりました!」

「だから、メイド?」

「ご安心ください。わたくし、これでも多少武術の心得があります!」

「……・あ、そう」


 はきはきとしゃべる様子から、第一印象は良い。懐柔派の話を聞いていなければ、だが。

 このメイドは、いわば懐柔派からの刺客。油断できる相手ではない。リリアは、廊下を歩いていた時の気分を思いだした。


 相手をするのは面倒くさいが、お前は敵だ、と追い返すこともできない。

 マクシミリアンのベッドで横になる。疲れてきたので、休みたい。


「マックスー、何か、食べられるものー」

「ああ、それでしたら……」


 と、マクシミリアンが机の中から何かを取り出そうとすると、


「こちらにご用意してあります!」


 マクシミリアンよりも先に、メイドが袋を差し出してきた。

 中をのぞくと、干した果物が入っていた。


「勇者様は、これがお好きだとお聞きしています。どうぞ!」

「え、ああ、うん」


 毒でも入っているのでは。そんな疑いを持ちつつも、リリアはリンゴを一切れつまんだ。

 マクシミリアンは止めに入ってこない。ということは、食べても死にはしないだろう。


 恐る恐る食べてみると、意外と美味かった。いつもマクシミリアンが用意するものとは違う。

 リリアの態度を察したか、メイドは、


「王都で一番の物を取り扱うという商人から仕入れました!」

「へー、美味い」

「お口に合ったならなによりです」


 にっこりと微笑まれ、リリアはちょっとばかり引いてしまう。

 警戒心が抜けない。マクシミリアンも、どこか怖い目で、メイドを見ている。


 ――なにこれ、どんな奴なんだ、こいつ。


 もっとどうぞ、とばかりに差し出された果物を食べつつ、リリアは戸惑う。

 態度は、まさに侍女。メイド服が似合う。これがただのメイドならば、リリアも悩んだりしないのだが、


 ――うへぇ、どうしたらいいんだよ、こいつ。


 なんとも扱いかねる相手である。


「あー、えー、アリッサ、だっけ?」

「はいっ。なんでございましょう?」

「いや、用事っていうか、今は何もないから、戻っていいぞ」

「かしこまりました。では、勇者様のお部屋のお掃除をしてきます!」

「うえっ? ……まあ、いいけど」


 また丁寧に礼をしてから、アリッサは部屋を出ていった。


「……なあ、マックス、あれどうしたらいいんだ?」

「それは私が聞きたいですよ。また、どこかがちょっかい出してきているんですか?」

「あー、そういやあ、さっき王様がな」


 懐柔派について説明すると、マクシミリアンは顔を渋く歪めて、


「また面倒なことになっているんですねえ」

「あー、うん。で?」

「そういう事情ですと、追い返すのは難しいですね。とりあえずできることは……」

「おう、何したらいいんだ?」


 マクシミリアンはおもむろにリリアに近づき、


「あまり高級な物を食べるとクセになるので、勇者さまはこっちのを食べてください」


 そう言って、リリアの手から、果物の入った袋を奪い取った。


「あー、それ美味いのに!」

「食べ過ぎてもよろしくありませんので、こちらを」

「んあー! 少ししか入ってないー!」


 リリアは、マクシミリアンから袋を奪い返すべく立ち上がった。

感想などいただけますと励みになりますので、よろしくお願いいたします。

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