10 勇者リリアは事情を聞く
春ですね(本文とは関係がありません)
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ラミが帰ってきたのは夕飯が終わり、マクシミリアンの部屋で寝転び、のんびりとしていた時だった。
「ただいま戻りました」
「おーう」
「おかえりなさい、ラミ」
返事をしながら、ラミを見る。先ほどの声、どこかいつもとは違う感じがした。
ラミの表情をうかがうと、暗かった。クエストを終え一段落した、という顔ではない。
何かあったのは確実。そして、このタイミングで何かがあったとするなら、
――まーた変なこと引っかけてるんじゃないだろうなあ。
リリアでも分かるほどの雰囲気だ。夕方に出会った、即興パーティの相棒について、何かあったに違いない。
聞くべきか、聞かざるべきか。ちらりとマクシミリアンの様子を見てみたが、あちらは気にしていないらしい。
――マックスめ。
気づいてはいるだろうに。面白くなさそうな本のページをゆっくりとめくっている。
と、なれば、リリアが反応してやるしかない。ラミも勇者パーティの仲間。全く無視するわけにはいかない。
「なんかあったかー?」
聞き方はぞんざいに。気づいていても、何に気づいたかまでは言わない。
リリアに聞かれ、ラミは少し戸惑ったように見えた。言いたいことがあるのは明白だ。
「なんか問題があったなら言ってくれー。そろそろこの街を出るし。片付けなきゃいけないことがあるなら、さっさとやっておきたいからなー」
「あ、はい……」
そう前置きにして、ラミは、
「勇者様は、お金のために戦うことをどう思われますか?」
なんとも含みのある言い方だった。
それに対しでリリアは、
「金? 普通じゃん?」
そう単純に答える。
「普通、ですか」
「だって、冒険者とか、金のためにクエストやってるんだろ? まあ、有名になりたいって奴もいるかもしんないけど」
「それは、はい」
「だったら、別に普通だろ?」
リリアの答えに、ラミは納得しかねるようだった。リリアの言葉に重ねるように、
「お金のために戦う人を、信用できますか?」
――やっぱり面倒なことを引っかけてきたんだなあ。
相棒と、何かもめたようだ。しかも、金がらみで。
リリアは起き上がり、ベッドの上で胡坐をかいた。ついでに頭もかいて、
「金以外にも、なんか抱えてる奴なら、まあ信用してやってもいい」
「お金自体が目的だったら……」
「金なんて、使うためにあるもんだろ? 金を集めるだけなんてのは、よっぽどの物好きだ。金の使い道にもよるな」
「……」
「んで、なんかあったんだろ、さっきの奴と」
ここまで来ると、もうじれったいだけ。リリアは単刀直入に聞いてみる。
「分け前でケンカになったのか?」
「いえ、そういうわけではなく……」
「じゃ、あれか、犯罪者だったか?」
「いえ……」
「ラミー、はっきり言えー。マジで明日にはこの街を出るかもしれないんだしさー」
ラミは快活ながらに繊細だ。それくらいは分かるようになってきた。これから先、あの相棒のことを引きずられても困る。
観念したようにため息を吐き、ラミは、
「実は、さっきの、ミツルギっていうんですけど、勇者パーティに入りたいって言われて……」
「勇者パーティに?」
「はい。それで、その、目的がお金が欲しいかららしくて」
なんともストレートな要望だ。
パーティとはいえ、冒険者と勇者のそれとは違う。勇者のパーティには信用できる者しか入れられない。勇者廃絶のために動く貴族がいるほどなのだ。どんな人間でも入れられるわけはない。
ただ、と考える。ただ金目的の相手に、ラミが思い煩うことはない。
「使い道は?」
「……借金を返すため、だそうです」
「借金? それのために、勇者パーティに?」
「事情は、色々聞きました。家族から引き継いだ借金を返さなきゃいけない、って」
「家族の?」
ここまで言うと、ラミは正直に全てを語りだした。
相棒が元貴族だったこと。家族を失ったこと。その家族の借金を抱えていること。それに加え、
「借金が家族との繋がり……って、変な奴だな。借金を返すのが趣味なのか?」
「そ、そういうわけじゃないです」
「んで、そいつをどうしようか、悩んでんのか。きっぱり断ったのに?」
「……はい」
「お前もお前で人が良いよなあ」
――断ったなら、忘れりゃいいのに。
とは思うものの、ラミにはリリアとは違い、思う所があるのだ。
どうしたものか。
勇者パーティは、現在三人のみ。実の所、国王が働きかけ、新たなメンバーを探しているのだが、貴族との攻防が激しく、これといった人材は見つけられていないらしい。
メンバーが増えるのは、戦力増強という意味ではよいが、戦う理由が借金返済では、仲間に受け入れづらい。
――借金返し終わったら、どっか行くかもしんないし。
勇者パーティの任務は、冒険者のクエストとは訳が違う。簡単に付き合いが途切れることはない。
その相棒が借金を完済して、パーティを抜けようとすれば、多くの人間が様々な考えで利用しようと動くだろう。ともすれば、勇者廃絶派に飲み込まれるかもしれない。
――勇者パーティは、一応命がけなんだけどな。命がけで借金返すとか、変態か。
リリアの所感はともかく、どうしてやろうという考えも浮かばない。
「マックスー。どうしたらいいと思うー?」
「私に振らないでください」
「うっせ。何が政治論だよ。そんな本読むよりも、こっちを気にしろ」
「はいはい……」
マクシミリアンは本を閉じると、やる気の感じられない態度で、
「ラミ、その人の借金って、どれくらいあるんですか?」
と、毛色の違う質問を飛ばした。
「えっと、そこまでは聞きませんでした」
「そうですか。まあ、あれだけ若いうちから働いて返そうとしている借金ですから、とんでもない額なんでしょうね」
「そうかも、しれません」
「そんな人をパーティに加えて、かつ、首輪をつける方法となると、そう多いものではありません」
「えっ、そんな方法があるんですか?」
「一応、あります。その人の、人となりにもよりますけどね」
はあ、と呼吸を一つ。
「ラミから見て、その人はまともでしたか? 真面目というか、ちゃんと仕事はするかとか」
「えっと、義理堅いって感じはしました。借りは返すって、真面目に言っていましたし……」
「そうですか。なら、まあこの方法でもいいかもしれません」
なんだろう、とラミと一緒になってマクシミリアンを見つめる。
すると、
「その人を買いましょう」
「え!?」
ラミは驚き、リリアは頭を抱えたくなった。
「人を買うって……奴隷、みたいなものですか?」
「まあ、そんな感じで。借金を返すのが目的なら、それを肩代わりしてあげましょう。その代わりに、パーティからは絶対に逃がしません。逃げようとしたら、殺します」
――色んな本を読んでおきながら、思いつくのがそんな方法かよ……。
王国では、奴隷売買は禁止されている。辺境の廃れた街ならばともかく、よりにもよって、勇者のパーティで、か。
「ま、マクシミリアン様、それはいくらなんでも……」
ラミが動揺するのも無理はない。
「じゃあ、他に方法はありません。忘れましょう、その人のことは。見捨てて王都に帰りましょう」
「それは……」
「逆に、いざというときに、敵陣に飛び込んで死んでもらう。そんなことができる人ならば、買ってあげてもいいでしょう」
マクシミリアンの案は無茶苦茶ではあるが、確かにそこまでの覚悟を持てる人間ならば、信用してもいい。
「んじゃ、そういうことで」
「えっ、ゆ、勇者様まで?」
リリアは、これ以上この話題について考えるのをやめた。マクシミリアンの案が受け入れられるかどうかまでは、知ったことではない。
「この話は、ラミが持っていけよー。わたしはもう知らないからなー」
「えっ、ええっ?」
「マックス、あと、よろしく」
「はいはい。おやすみなさい、勇者さま」
まだ何やら言い合っていたが、リリアはさっと夢の世界に飛び込んだ。
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