4 シャーマン・ラミはオーガを倒す
ユニーク2000PVありがとうございます。
個人的快挙です。
依頼のあった村までは、馬で向かって一日弱というところだった。
『シド村』。特に何の変哲もない村だ。
ラミとミツルギは、到着すると、早速依頼主である村長の家へと招かれた。
「えっと、じゃあ、この近くの森の中に、大鬼族がいるのね?」
「はい……。数はそんなに、というところなのですが、やはり困りまして……。森には薬草や山菜を取りに行かねばならないので」
「そう。じゃあ、準備をしたら、早速向かうわ。……ミツルギも、それでいいかしら?」
「……分かった。さっさと片付けよう」
ぶっきらぼうなミツルギの言葉に、村長が顔をしかめた。
ラミはともかく、ミツルギの見た目は、まだまだ子供。余裕とも感じられる一言が、逆に村長の不安をあおったらしく、
「えっと、精霊使い様と、剣士様、でしょうか? 今までどれくらいのクエストを受けてらっしゃったんですか?」
気弱そうな顔を、さらに不安で上書きして尋ねてきた。
まだ、ラミも出会って二日ほど。ミツルギの仕事ぶりは、見たことがない。
「アタシは、それなりに。この前は、小鬼族の掃討作戦にも参加したけど」
「えっ、あの作戦に? あれはかなりの冒険者が集められたという話らしいですが」
「そうね」
「そちらの剣士様も?」
――あ、それはどうなんだろう?
ラミと村長の視線を受けると、ミツルギは渋々といった感じで、
「……オレも参加した」
――えっ、そうなんだ。
ラミは、ミツルギの姿を見た覚えがない。少し驚いた。あの作戦には、手練れの冒険者でなければ参加できなかったはずだ。
――見た目と違って、腕もいいのね。
「……えっと、そんなわけだから、安心して。今日か、明日のうちには片付けちゃうから」
「わ、分かりました」
村長も納得してくれたようで、それ以上は何も聞いてこなかった。
ラミたちは村長の家を出て、それぞれ用意した道具を整理する。
と、言っても、ラミは精霊使い。食事以外は、あまり持ってきていない。身一つで戦えるからだ。
逆に、ミツルギは大荷物を抱えていた。腰の小剣と、腕に着けた盾。他にも、ロープに弓矢、何に使うのか分からない拳大ほどの球も持っていた。
ミツルギの準備は、入念だった。色んなものを選び、道具袋に入れて、一人で作戦を練っているようだった。
――まあ、お互いの力も知らないし、当然か。
互いに力量の分からぬ仲。個人個人で戦った方が、やりやすいかもしれない。
「……終わった」
たっぷり一時間はかけて、ミツルギは準備を終えた。
「それじゃ、行こうか」
まだ陽は高い。様子を見に行くには、充分な時間がある。
――今日は、森の様子を見てくるだけかな。
ラミがそう考えていると、大きな袋を背負ったミツルギは、
「……今日のうちに片付けたい。早く帰らないといけないから」
「えっ?」
また低い声で言ってきた。
しかし、言葉とは違い、焦っている様子はない。本気で、今日中に仕事を終わらせるつもりのようだ。
「アタシは構わないけど、大丈夫?」
「……心配しなくていい。オレはオレで動くから。その方がいいだろ? 邪魔はしない」
「うん、まあ」
早く終わらせるに越したことはないが、
「大鬼族の巣とか探さないといけないかも」
「……大丈夫、すぐに分かるから」
落ち着いた表情からは、自信よりも確信が感じられた。
これは、本当に今日だけでクエストが終わるかもしれない。
「じゃあ、行くよ。夜になったら、一旦合流しよ」
「……分かった」
ラミとミツルギは、それぞれ出発する。
森までは、それなりに道ができていた。わだちなども見えるので、村と森との行き来は多いようだ。
道のおかげで、迷うことなく森の入口へと着いた。そこで、
「……夜になったら、ここで待ち合わせ。それでいい?」
「えっ、うん」
そう言うと、ミツルギは小剣で木の幹を削った。目印、ということだろう。
「……数、ちゃんと数えといてよ。じゃなきゃ、耳を切り取って来て」
「大丈夫。分かってるよ」
「……ならいい。それじゃ」
言うが早いか、ミツルギはすぐに走り出した。ラミのことなど忘れたかのように、森の中を進んでいく。
元々、ラミも一人でクエストをやるつもりだった。とはいえ、同行者がいれば一緒に動くようなものだが、
――本当に一人でやるつもりなんだ。
ミツルギは一人で動く方が得意ということか。そういえば、ギルドでもパーティメンバーらしき者は見かけなかった。
少しばかり呆気にとられたが、ラミも森の中に踏み入る。太陽が出ているとはいえ、森の木々は影で陽光を遮ってくる。
濃い緑の匂いに安らぎを感じながらも、ラミは周囲への注意を怠らない。
風の精霊の力を借りて、風の流れ、匂いを探る。
しばらくは、何も見つけられなかった。
――大鬼族の匂いはしない、っと。まだ土も荒らされてないし、ここら辺じゃないみたいね。
森の広さはそれなりだが、ラミの風の精霊も広い範囲にわたって様子を教えてくれる。
――ん。血の匂い?
それが漂ってきたのは、森に入って一時間もしたところだろうか。
匂いを頼りに、ラミは歩を進める。すると、木の陰で倒れている大きな塊を見つけた。
大鬼族の死体だ。胸と頭から血を流している。それに、耳もそぎ落とされていた。
耳を取るのは、魔物を討伐した証明としてギルドへ提出するため。となれば、これをやったのはミツルギだろう。
――手際がいい。
周囲に争った痕跡はない。心臓と頭を狙った容赦のない攻撃だ。見つけてすぐに倒したのだろう。
ミツルギのことは少しばかり心配だったが、杞憂であったようだ。ラミも、自分の仕事に注力できそうである。
――よし。
憂いが消えたところで、ラミも自分の倒すべき相手を探す。
風の精霊が、こちらに近づく気配を教えてくれた。泥臭く感じる。大鬼族で間違いない。
ラミは真っすぐ気配に向かった。
――いた。
巨体が、木々の間をせまそうに潜っていた。人族の二倍程度の大きさ。標準的な大鬼族だ。
身を低く、影に紛れるように近づく。大鬼族は鼻がいい。すぐに気づかれてしまうだろうが、
「風の精霊、力を貸して!」
大鬼族が巨腕を振り上げる前に、風の刃で首を切り落とした。
一撃必殺の、いつもの戦法だ。大鬼族の巨体はあっさりとかたむき、地に崩れ落ちた。
土に染み入る血を避けつつ、ラミは大鬼族の耳を削ぐ。
――まずは、一匹。
倒した相手に感慨もなく、ラミは作業的にことを進める。
一匹倒せば、その血の匂いに惹かれて、また別の大鬼族がよってくるだろう。それを確実に仕留めていけばいい。
ラミはまた風の精霊に周囲の警戒を頼みながら、木の陰に隠れた。
早速、何匹か引き寄せられてきたようだ。ラミは木に登り、次が来るのを待つ。来れば、また先ほどのように一撃を叩き込むだけ。
――巣はどこかな。
ある程度倒したら、方角を見定めて大本を潰しに行かねばならない。
巣さえ潰せれば、後はただはぐれた個体を狩るだけになる。単純だが、こういう作戦でラミはいくつもの討伐クエストをこなしていった。
心に余裕を、しかし慢心はなく、ラミは次の敵が来るまで息をひそめていた。
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