5 剣士ミツルギは獲物を求める
ご覧いただき、ありがとうございます。
ミツルギは獲物を求めて森の中を走り回っていた。
一体でも多くの敵を、少しでも多くの報酬を。自分が働けば、その分だけ相棒の分け前を取り上げられるかもしれない。
――まあ、今回はそこまでしないでいいか。
元より、クエストを取り損ねた身。連れて行ってもらえるだけで、しかも報酬を半々で貰えるなら上等だろう。
いつも一人なのは、人付き合いが面倒なのと、報酬の分け前に悩まなくてすむため。全額自分のものにできるなら、ソロの方がずっと気楽でいい。
その分、自分の強さを磨かねばならないが。今回のクエストも、ソロで片付けるくらいの気持ちで来ている。道具の用意も万全だ。
今のところ、倒したのは三匹。どれも奇襲で、すぐさま仕留めた。
心臓を一突き、頭を一突き。手慣れた戦法だった。
ミツルギは、自分の体が戦いに向いてないことを充分理解している。そのため、弱いなりに鍛え上げていた。
急所を一撃で狙う。言えば簡単だが、どの魔物のどこが急所か。それを狙うにはどう動いたらいいか。実戦も交えて腕を磨き上げてきた。
広くあたりを見回しながら、音を立てずに走る。
――いた。
獲物を見つけたら、すぐさま木の陰に隠れ、様子をうかがう。
大鬼族は間違いなく、この森に巣を作っている。潰さねば、また新たな大鬼族が村人を狙うだろう。
村人の犠牲には何の思いもないが、報酬をくれる人がいなくなるのは困る。
一呼吸。それで体の調子を整え、
――今。
身を躍らせる。
大鬼族はこちらに背を向けていた。ならば、狙うのはやはり心臓と、脳天。
勢いに乗せた小剣が大鬼族の分厚い筋肉に刺さる。速度と、ミツルギの体重をかけた一撃だ。
深々と刺さった小剣を足場にするようにして、跳ぶ。
大鬼族は突然の激痛に身をよじろうとしていた。
禿げた、毛のない頭頂部を小剣で突き刺す。そのまま柄を握り、えぐるようにして飛び去る。
呼吸を乱さず、的確に。二つの攻撃で、また大鬼族一匹を仕留めた。
刺さったままだった小剣も抜き、具合を見る。そろそろ血脂で切れ味が鈍ってきた。
袋から、ボロ布を取り出して、小剣の刃を拭く。ついでに出した短剣で、大鬼族の耳を削ぎ落す。
それでいて、周囲への警戒を怠らない。これらもまた、慣れたものだ。
――これで、四匹。
それなりに倒した方だと思う。そこで、ふと相方が気になった。
心配ではない。お人好しの精霊使いの腕前は、おそらく一流だ。
なにせ、迷わずにこのクエストを取ったのだから。少しでもためらいがあったなら、ミツルギの方が先にクエスト票を奪えたはずである。
ソロで、大鬼族の討伐クエストなど駆け出しには受けられない。中級であっても、一人では辛いだろう。
なので、一流でなくば受けないクエストだと思うが、
――まさか、オレみたいなのがそうそういるわけでもないだろうし。
命よりも金を優先するような相手だったなら、分け前を半々で申し出るはずがない。
ミツルギが逆の立場だったら、七三で自分有利にする。それだけ、自分には金がなく、必要なのだ。
――ま、なんでもいいや。
考えを放り捨て、ミツルギは次の獲物を探す。
自分は、少しずつ森の奥へと進んでいる。大鬼族の巣に近づいているはずだ。
あたりには、緑よりも血の匂いの方が強く漂っている。普通の大鬼族ならば、それに引かれて集まりだすが、どうだろうか。
ミツルギは、様子を見るために、木に登った。豊富な葉を隠れ蓑として、仕留めたばかりの死体を観察する。
同族の死体だ。大鬼族ならばすぐにかぎつけてくるはずだが、
――来ないな。
三十分ほど様子を見ていたが、ネズミ一匹現れない。
――もしかして、あの精霊使いが、もう片付けた?
考えられない話ではない。
ミツルギがそれぞれ分かれて行動したのは、獲物を多く仕留めるため。それが逆に、相方を助けることになってしまったのか。
精霊使いの腕前は、ミツルギの予想以上だったのか。
――うぐっ。
肩を落とす。手土産が大鬼族四匹程度では、報酬を減らされてしまうかもしれない。
空を見上げると、茂る葉の隙間から夕日が見て取れた。手柄の確認をするためにも、一旦、合流するべきかもしれない。
――うぐぐっ。
認めがたいが、仕方ない。そう諦め、戻ろうとした時だ。土を踏む音が聞こえたのは。
緩みかけた気を引き締め、ミツルギは息をひそめる。
――大鬼族? 生き残り?
小剣を握りしめ、いつでも跳びだせるように準備する。
しかし、現れたのは小柄な人影だった。つい今しがた考えを巡らせていた、相方だ。
血の匂いをたどってきたのかもしれない。まさか、大鬼族よりも先に味方が釣られるとは。
そればかりか、
「そこ、上に誰かいるよね?」
と、ミツルギの居場所まで言い当てた。
風が起きる。精霊を呼び出そうとしているのだ。このままでは、同士討ちになってしまう。
「……待って」
すぐさま跳び下りる。なるべく音を立てずに。
「……オレ」
相方、ラミはすぐに精霊を呼び戻した。
「ミツルギだったの」
「……うん」
「大鬼族だけじゃなくて、他の魔物までいるのかと思った」
今まで、人にも魔物にも、隠れ場所を当てられたことはない。
――やっぱ、強い。
ミツルギが素直に出てくると、場の緊張感が、幾分か和らいだ。
「血の匂いが濃かったから探しに来たんだけど。そこのは、ミツルギが?」
「……うん、オレがやった」
「そっか」
「……うん」
会話が続かない。ミツルギとしてはラミの様子を聞きたかったのだが、会話のとっかかりを掴めない。
――やっぱ、誰かと話すってダメだな。
コミュニケーション能力のなさに、一人で落ち込みかけてしまう。
「ミツルギは、どれくらい倒した?」
「え? ……オレは四匹」
「そっか。アタシは六匹。二人合わせて十匹か」
予想通りに、ミツルギよりも数を稼いでいる。
「巣、あった? 探してたんだけど、先にこっちに来ちゃって」
「……まだ」
「そう。じゃあ、なんだかんだで合流しちゃったし、一緒に行きましょ」
「……え」
「そろそろ陽が落ちるから。ここで分かれても、意味ないでしょ?」
「……あ、うん」
ラミに会話の主導権を握られ、ミツルギはうなずくしかなかった。
ただ、まだ手柄を立てる方法があることには安心した。まだ活躍の場は残っているらしい。
ミツルギとラミは、森の入り口まで戻った。途中、何匹か大鬼族の死体を見た。一発で真っ二つにされていた。ラミが仕留めた奴らだろう。
「今日は様子見ね。悪いけど」
「……仕方ない」
今日中に片付けると言っておきながら、目的が果たせなかった。ミツルギには痛手だった。
断言しておきながら、情けない。もっとも、ミツルギにとって重要なのはプライドではないが。
今日終わらなければ、明日、新しいクエストが受けられない。当然だ。しかしそうなると、稼ぎが減ってしまう。
――うぐぐぐっ。
森からいくらか離れ、ミツルギたちは休むことにした。夜の森を駆け回ることはできない。
「見張りはアタシがやるから。ミツルギは休んでていいわよ」
「……いい、オレがやる」
焚火を挟みながら、ラミと向き合う。
ラミは、手早く食事をとっていた。塩漬けした肉と、硬いパン。それと水。味わう様子はなく、流し込むように食べていた。
ぼんやりと、その様子を見てしまう。なにせ、ミツルギの荷物に食べ物はない。
――腹、減った。
長引くならば、森で木のみでも取ってくればよかった。そう思うのも今更だ。
羨ましいと素直に思いながら見ていた。と、
「どうしたの?」
「……え?」
油断して、うっかり目が合ってしまった。
「食事、しないの?」
「……うん」
「ここなら魔物も出てこないだろうし、ゆっくり食べててもいいよ?」
「…………うん」
そう言われても、食べるものがない。
仕方なく、村で汲んだ水を飲む。これくらいしか、空腹を紛らわせるものがない。
「もしかして……」
「……うん?」
「食べ物、持ってきてないの?」
「うぐっ!?」
むせた。見事に言い当てられて、一気に居心地が悪くなる。
「袋に、色々詰め込んでたみたいなのに……」
「……これは、狩りの道具」
「長引くと思ってなくて、持ってこなかったとか?」
「……そんなとこ」
実際は、用意する金がなかっただけなのだが。
「仕方ないわね。はい、これ上げる」
ミツルギがなんとか体裁を取り繕っていると、ラミがパンと干し肉を渡してきた。
「……え?」
「食べておかないと、明日に響くわよ?」
「……別にいい。それに……」
「いいから食べときなさい。いざって時に、お腹鳴らされる方が困るから」
「……分かった」
態度には出さないが、小躍りしたくなるくらいの幸運だった。干し肉とパンでも、ミツルギにはごちそうのようなものだ。
ただし、
「……この借りは、必ず返すから」
とだけは、言っておく。借りを返さないのは、ミツルギの信条に反する。
それに、この施しが報酬に響くのも困る。明日は、ラミよりも働かねばならない。
「いいわよ、別に」
「……返す、必ず」
「はいはい、分かった」
「……とりあえず、見張り、オレがやるから」
「そうね、任せるわ。途中で代わるから、起こしてね?」
「……別にいい」
割り切りが早いのか、ラミはさっさと横になると眠ってしまった。
素早く眠ることも、冒険者には必要だ。
――借りは、返す。
そう心に刻みつつ、ミツルギは夜を過ごした。
ブックマーク、評価、ご感想お待ちしております。本当に。




