↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/78

5 剣士ミツルギは獲物を求める

ご覧いただき、ありがとうございます。

 ミツルギは獲物を求めて森の中を走り回っていた。

 一体でも多くの敵を、少しでも多くの報酬を。自分が働けば、その分だけ相棒の分け前を取り上げられるかもしれない。


 ――まあ、今回はそこまでしないでいいか。


 元より、クエストを取り損ねた身。連れて行ってもらえるだけで、しかも報酬を半々で貰えるなら上等だろう。

 いつも一人なのは、人付き合いが面倒なのと、報酬の分け前に悩まなくてすむため。全額自分のものにできるなら、ソロの方がずっと気楽でいい。


 その分、自分の強さを磨かねばならないが。今回のクエストも、ソロで片付けるくらいの気持ちで来ている。道具の用意も万全だ。

 今のところ、倒したのは三匹。どれも奇襲で、すぐさま仕留めた。


 心臓を一突き、頭を一突き。手慣れた戦法だった。

 ミツルギは、自分の体が戦いに向いてないことを充分理解している。そのため、弱いなりに鍛え上げていた。

 急所を一撃で狙う。言えば簡単だが、どの魔物のどこが急所か。それを狙うにはどう動いたらいいか。実戦も交えて腕を磨き上げてきた。


 広くあたりを見回しながら、音を立てずに走る。


 ――いた。


 獲物を見つけたら、すぐさま木の陰に隠れ、様子をうかがう。

 大鬼族(オーガ)は間違いなく、この森に巣を作っている。潰さねば、また新たな大鬼族(オーガ)が村人を狙うだろう。


 村人の犠牲には何の思いもないが、報酬をくれる人がいなくなるのは困る。

 一呼吸。それで体の調子を整え、


 ――今。


 身を躍らせる。

 大鬼族(オーガ)はこちらに背を向けていた。ならば、狙うのはやはり心臓と、脳天。

 勢いに乗せた小剣が大鬼族(オーガ)の分厚い筋肉に刺さる。速度と、ミツルギの体重をかけた一撃だ。


 深々と刺さった小剣を足場にするようにして、跳ぶ。

 大鬼族(オーガ)は突然の激痛に身をよじろうとしていた。

 禿げた、毛のない頭頂部を小剣で突き刺す。そのまま柄を握り、えぐるようにして飛び去る。

 呼吸を乱さず、的確に。二つの攻撃で、また大鬼族(オーガ)一匹を仕留めた。


 刺さったままだった小剣も抜き、具合を見る。そろそろ血脂で切れ味が鈍ってきた。

 袋から、ボロ布を取り出して、小剣の刃を拭く。ついでに出した短剣で、大鬼族(オーガ)の耳を削ぎ落す。

 それでいて、周囲への警戒を怠らない。これらもまた、慣れたものだ。


 ――これで、四匹。


 それなりに倒した方だと思う。そこで、ふと相方が気になった。

 心配ではない。お人好しの精霊使い( シャーマン)の腕前は、おそらく一流だ。

 なにせ、迷わずにこのクエストを取ったのだから。少しでもためらいがあったなら、ミツルギの方が先にクエスト票を奪えたはずである。


 ソロで、大鬼族(オーガ)の討伐クエストなど駆け出しには受けられない。中級であっても、一人では辛いだろう。

 なので、一流でなくば受けないクエストだと思うが、


 ――まさか、オレみたいなのがそうそういるわけでもないだろうし。


 命よりも金を優先するような相手だったなら、分け前を半々で申し出るはずがない。

 ミツルギが逆の立場だったら、七三で自分有利にする。それだけ、自分には金がなく、必要なのだ。


 ――ま、なんでもいいや。


 考えを放り捨て、ミツルギは次の獲物を探す。

 自分は、少しずつ森の奥へと進んでいる。大鬼族(オーガ)の巣に近づいているはずだ。

 あたりには、緑よりも血の匂いの方が強く漂っている。普通の大鬼族(オーガ)ならば、それに引かれて集まりだすが、どうだろうか。


 ミツルギは、様子を見るために、木に登った。豊富な葉を隠れ蓑として、仕留めたばかりの死体を観察する。

 同族の死体だ。大鬼族(オーガ)ならばすぐにかぎつけてくるはずだが、


 ――来ないな。


 三十分ほど様子を見ていたが、ネズミ一匹現れない。


 ――もしかして、あの精霊使い( シャーマン)が、もう片付けた?


 考えられない話ではない。

 ミツルギがそれぞれ分かれて行動したのは、獲物を多く仕留めるため。それが逆に、相方を助けることになってしまったのか。

 精霊使い( シャーマン)の腕前は、ミツルギの予想以上だったのか。


 ――うぐっ。


 肩を落とす。手土産が大鬼族(オーガ)四匹程度では、報酬を減らされてしまうかもしれない。

 空を見上げると、茂る葉の隙間から夕日が見て取れた。手柄の確認をするためにも、一旦、合流するべきかもしれない。


 ――うぐぐっ。


 認めがたいが、仕方ない。そう諦め、戻ろうとした時だ。土を踏む音が聞こえたのは。

 緩みかけた気を引き締め、ミツルギは息をひそめる。


 ――大鬼族(オーガ)? 生き残り?


 小剣を握りしめ、いつでも跳びだせるように準備する。

 しかし、現れたのは小柄な人影だった。つい今しがた考えを巡らせていた、相方だ。

 血の匂いをたどってきたのかもしれない。まさか、大鬼族(オーガ)よりも先に味方が釣られるとは。

 そればかりか、


「そこ、上に誰かいるよね?」


 と、ミツルギの居場所まで言い当てた。

 風が起きる。精霊を呼び出そうとしているのだ。このままでは、同士討ちになってしまう。


「……待って」


 すぐさま跳び下りる。なるべく音を立てずに。


「……オレ」


 相方、ラミはすぐに精霊を呼び戻した。


「ミツルギだったの」

「……うん」

「大鬼族(オーガ)だけじゃなくて、他の魔物までいるのかと思った」


 今まで、人にも魔物にも、隠れ場所を当てられたことはない。


 ――やっぱ、強い。


 ミツルギが素直に出てくると、場の緊張感が、幾分か和らいだ。


「血の匂いが濃かったから探しに来たんだけど。そこのは、ミツルギが?」

「……うん、オレがやった」

「そっか」

「……うん」


 会話が続かない。ミツルギとしてはラミの様子を聞きたかったのだが、会話のとっかかりを掴めない。


 ――やっぱ、誰かと話すってダメだな。


 コミュニケーション能力のなさに、一人で落ち込みかけてしまう。


「ミツルギは、どれくらい倒した?」

「え? ……オレは四匹」

「そっか。アタシは六匹。二人合わせて十匹か」


 予想通りに、ミツルギよりも数を稼いでいる。


「巣、あった? 探してたんだけど、先にこっちに来ちゃって」

「……まだ」

「そう。じゃあ、なんだかんだで合流しちゃったし、一緒に行きましょ」

「……え」

「そろそろ陽が落ちるから。ここで分かれても、意味ないでしょ?」

「……あ、うん」


 ラミに会話の主導権を握られ、ミツルギはうなずくしかなかった。

 ただ、まだ手柄を立てる方法があることには安心した。まだ活躍の場は残っているらしい。

 ミツルギとラミは、森の入り口まで戻った。途中、何匹か大鬼族(オーガ)の死体を見た。一発で真っ二つにされていた。ラミが仕留めた奴らだろう。


「今日は様子見ね。悪いけど」

「……仕方ない」


 今日中に片付けると言っておきながら、目的が果たせなかった。ミツルギには痛手だった。

 断言しておきながら、情けない。もっとも、ミツルギにとって重要なのはプライドではないが。

 今日終わらなければ、明日、新しいクエストが受けられない。当然だ。しかしそうなると、稼ぎが減ってしまう。


 ――うぐぐぐっ。


 森からいくらか離れ、ミツルギたちは休むことにした。夜の森を駆け回ることはできない。


「見張りはアタシがやるから。ミツルギは休んでていいわよ」

「……いい、オレがやる」


 焚火を挟みながら、ラミと向き合う。

 ラミは、手早く食事をとっていた。塩漬けした肉と、硬いパン。それと水。味わう様子はなく、流し込むように食べていた。

 ぼんやりと、その様子を見てしまう。なにせ、ミツルギの荷物に食べ物はない。


 ――腹、減った。


 長引くならば、森で木のみでも取ってくればよかった。そう思うのも今更だ。

 羨ましいと素直に思いながら見ていた。と、


「どうしたの?」

「……え?」


 油断して、うっかり目が合ってしまった。


「食事、しないの?」

「……うん」

「ここなら魔物も出てこないだろうし、ゆっくり食べててもいいよ?」

「…………うん」


 そう言われても、食べるものがない。

 仕方なく、村で汲んだ水を飲む。これくらいしか、空腹を紛らわせるものがない。


「もしかして……」

「……うん?」

「食べ物、持ってきてないの?」

「うぐっ!?」


 むせた。見事に言い当てられて、一気に居心地が悪くなる。


「袋に、色々詰め込んでたみたいなのに……」

「……これは、狩りの道具」

「長引くと思ってなくて、持ってこなかったとか?」

「……そんなとこ」


 実際は、用意する金がなかっただけなのだが。


「仕方ないわね。はい、これ上げる」


 ミツルギがなんとか体裁を取り繕っていると、ラミがパンと干し肉を渡してきた。


「……え?」

「食べておかないと、明日に響くわよ?」

「……別にいい。それに……」

「いいから食べときなさい。いざって時に、お腹鳴らされる方が困るから」

「……分かった」


 態度には出さないが、小躍りしたくなるくらいの幸運だった。干し肉とパンでも、ミツルギにはごちそうのようなものだ。

 ただし、


「……この借りは、必ず返すから」


 とだけは、言っておく。借りを返さないのは、ミツルギの信条に反する。

 それに、この施しが報酬に響くのも困る。明日は、ラミよりも働かねばならない。


「いいわよ、別に」

「……返す、必ず」

「はいはい、分かった」

「……とりあえず、見張り、オレがやるから」

「そうね、任せるわ。途中で代わるから、起こしてね?」

「……別にいい」


 割り切りが早いのか、ラミはさっさと横になると眠ってしまった。

 素早く眠ることも、冒険者には必要だ。


 ――借りは、返す。


 そう心に刻みつつ、ミツルギは夜を過ごした。

ブックマーク、評価、ご感想お待ちしております。本当に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。