9 マックスは見届ける
PVがついに一万を突破しそうです。
ここまで読んでいただいたのは初めてです。
「人間に、我らの傷を癒せるはずがありません。あなたは何者ですか?」
ラミが眠ると同時に、青い龍族が問いかけてきた。
「お仲間、という程でもありません。気にしないでください」
「仲間? ですが、我らの同胞ならば、なぜ人間の姿に……?」
「色々あるんですよ。私にもね」
疲れ果て、眠ってしまったラミを抱き上げる。
「……」
青い龍族は、深く追求してこなかった。
――龍族なりの勘というやつでしょうか。
多くを語らずとも分かってくれるのはありがたい。私はそれ以上自分について何も言わず、
「ありがとうございました、人間。改めて礼を。そして、見守り続けてくれたことにも感謝を」
そんな気遣いに言葉に、苦笑する。
「手を出したら、一生恨まれそうでしたからね」
「ええ。どのような状況になろうと、我は独りで決着をつけるつもりでした」
「決着は、つきましたか?」
「はい。望むかたちで。いえ、あなたたちのおかげで、それ以上に」
「……死ぬつもりで戦うなんて、やめておきなさい」
「我も自分の力量くらいは把握しています。また、同胞の力も」
「それでも私たちに頼らなかったのは……」
「愛する者を、誰かの手にはゆだねられません」
「そうですか。そうですよね」
「はい。ですから、すぐに逃げてください。とどめも、我が……」
私の背後で、動く気配があった。粘着質な何かが動く音。常人ならば聞くだけで意識を失うかもしれないが、
「死ににくい、というのは、大変ですね。死にたい者にも、死なせてやりたい者にも」
屍龍族の頭が、胴体がそれぞれ別に動き出していた。
「あなた方のおかげで、我はまだ戦えます。その娘を連れて、逃げなさい」
傷を治したとはいえ、体力までは回復しない。青い龍族は、体を起こすだけでも苦労していた。
「まだまともに吐息も使えないでしょう?」
「ですが、ここまで弱らせたとはいえ、人間では敵いません」
「ただの人間ならば、ですね」
私は、先ほどとは違う魔法陣を展開した。青い龍族を、さらに屍龍族を取り巻くような積層立体型魔法陣。
二体だけではなく、山の一角を丸ごと覆いつくした。それこそ、ただの人間にはどれだけ逆立ちしても不可能な芸当だ。
「あなたは……、いえ、あなた様は……」
答えず、俺様は、
「同胞。お前は充分戦った。これ以上は、もう無理だろう」
「ですが……」
「言っただろ、死ぬつもりで戦うなってよ。それに、安心しろ。俺様が直接やるわけじゃあない」
そう、今作った魔法陣は、ただの強化魔法。引き金を握っているのは、
「……感謝します」
「よせよ。これは余計なおせっかいってやつだ。それに……」
言いながら、抱きかかえたラミを見る。
――起きてみたら、また辛くなるってのは、キツイだろ。
「やってやれ。今度こそ、逝かせてやれ」
「……はい」
青い龍族が吠える。なけなしの力を振り絞って、最後の吐息を放つ。
大きめの火球程度だったそれは、魔法陣の力を借りて、一気に十倍以上に膨れ上がった。屍龍族を丸ごと飲み込んで、それでも余りあるほどに。
炎が荒れ狂い、一切合切を薙ぎ払う。それでも魔法陣からあふれることなく、山の一部を焼き払うに留まった。
屍龍族の姿は、全く見えなくなった。炭も灰も残っていない。完全に消滅した。
「終わりました」
「ああ、ご苦労さん」
完全に、終わった。
「もうしばらくは、この山で休んでいけ。体が動くようになってから、出ていけ」
「はい。お言葉に甘えます」
「村の連中には適当に言っておく。お前は何も気にしなくていい」
瞳を閉じ、首を下げて青い龍族は礼をする。
「同胞よ、これを」
「あん?」
言いながら、青い龍族がくわえていたものを地に置いた。
赤ん坊の拳と同じか、小さいくらいの球体だった。
「玉じゃねえか。いいのか?」
玉というのは、龍族が体内で作る宝石、人間からするとエーテルの塊のようなものだ。力を持つ龍族ならば確実に持っており、それは時に戦争の火種にもなる。
龍族からしてみれば体内でいくらでも作れる大したものでもないのだが、
「そちらの娘に、渡してください」
人間が扱えば、その膨大なエーテル量によって自分の力を何倍にもはね上げる。
「こいつは、別にそれが欲しかったわけじゃないぜ?」
「分かっています。ですが、その娘の情に応えられるものは、今の私にはこれくらいしかありません」
「礼をするなら、っていうか、さっきも礼をしていたが、こっちの方じゃねえかな。こいつは、お前らから充分に教えてもらったと思うぜ。亡くす悲しさと、それに挑む覚悟ってやつを」
「我にはその娘の感情は分かりません。我に何を重ねて見ていたのかも。これは、傷を癒してくれたことへの礼です」
「それにしちゃあ、ずいぶんとデカいと思うぜ」
玉をつまみ、握る。ラミならば使い道を誤るとは思えないが、龍族から貰う礼としては極上の品である。
「同じメスとして、いえ、人間ならば女というのでしたか。その娘が何かを守ろうとした時のために。渡し方は、あなた様にお任せします」
「……そうか。預かっておく」
「はい」
青い龍族は、言い終えると、ゆっくりと洞窟へ戻っていった。
こちらも、ラミを抱えて飛びあがる。
陽は傾き、宵闇が地平線からゆっくりと持ち上がってきた。長い戦いの終わりとしては、悪くない頃合いだ。
軽い疲労感と空腹を感じながら、飛翔はゆるめに。胸に抱いたラミが起きぬよう気をつけながら、村へと戻った。
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