10 勇者リリアは思う
この章はこれで一区切りとなります。
次からは別の話になっていきます。
リリアは、村からではあったがずっと山の様子を見ていた。
爆炎、毒霧、そして特大の魔法陣。
何があったか詳細までは分からない。それでも、事が済んだのだと分かった。
既に夕暮れ時。村人たちも、音が聞こえなくなったからか、おっかなびっくり顔を出し始めた。
「ゆ、勇者様、もう終わったのでしょうか?」
村長が不安を隠さずに聞いてくる。
「ああ、もう大丈夫だと思うぞ」
「魔法使い様や、精霊使い様は……」
「すぐに帰ってくる。もう終わったみたいだし」
言いながら空を見ていると、小さな黒い点が徐々に村に近づいてきた。
マクシミリアンと、ラミだろう。リリアは二人の帰還を見て、察し、家の中へと戻った。
もう冷めきってしまったシチューを温め直す。きっと二人は疲れて帰ってくる。何もできなかった自分は、せめて二人を温かく出迎えてやるしかない。
コトコトと温まってくるシチューを見ていた所に、二人が帰ってきた。
「ただいま戻りました」
「おーう」
マクシミリアンと、その腕に抱かれているラミを見て、リリアは内心で吐息した。
――よかった。なんとか無事に帰ってきたか。
「飯はー?」
「いただきます。ラミは部屋で寝かせておきますね」
「うーい」
ラミは額に汗を浮かべていた。よほど疲れたのだと見える。しかし、リリアは深く聞かない。
すぐに戻ってきたマクシミリアンと食事を始めた。テーブルで向かい合う。今日のシチューは、少し味を濃くしておいた。リリアには少しばかり塩が多いが、
「美味しいですね」
「そっか」
マクシミリアンは、美味しそうに食べてくれている。
しばらくは無言で食事をしていたが、シチューを食べ終わる頃になって、
「全て終わりました」
マクシミリアンが、短く告げる。
「後は残った龍族ですが、しばらくしたら山から出ていくでしょう。もう人が立ち入っても大丈夫だと思いますよ」
「ん。じゃあ、後で村長に伝えとくわ」
「お願いします」
何がどう起こったのか。どう決着したのか。気にならないわけではない。
止めるためとはいえ、同胞と戦わねばならなかった龍族。その心中は、リリアには分からない。
だが、向かいに見える表情からして、望まれるかたちにはなったようだ。
「いつ頃、王都に戻る?」
「そうですね。ラミの調子が戻ってからでしょうか。精霊の力を使いすぎましたから。もう一日二日は休ませてあげましょう」
「りょーかい」
「少し長居してしまいましたね。戻ったら、早速任務が待っているかもしれませんし」
「うへぇ、それはやだなあ」
軽口をたたき合うのも、いつも通り。
しかし、調子は乱れていないようで、互いに気遣いと遠慮をしている。リリアは詳しく聞かず、マクシミリアンも詳細を話さない。
リリアも、事情を知りたい。マクシミリアンは、そんなリリアの心中に気づいているだろうが、
「今日のシチューも良い出来ですね」
「だろ?」
それでも話さないのは、リリアに事を教えて、心労をかけたくないからだ。
――ったく。いつまでも子供扱いしやがって。
リリアは、自分がそれなりに大人になってきていると思っている。マクシミリアンはいつもリリアを心配してばかりだが、少しは愚痴くらいこぼしてもらいたい。
――マックスのやつ、何か言いたそうな顔しやがって。
それが愚痴なのか、心を軽くするための告白なのかまでは、言われなければ分からない。それでも、リリアとてマクシミリアンのことを理解している。
――話して楽になるなら、わたしにだって相談しろよ。
面と向かって言いたいが、言ってもマクシミリアンははぐらかすだけだろう。嘘は吐かないくせに、舌はよく回る。
食事が終わると、片付けはリリアが引き受けた。皿を洗って、棚に立てかけておく。
ラミの部屋は、まだ静かだ。よほど疲れているのだろう。しばらくは、放っておいてあげた方が良さそうだ。
「マックス、お前も休め。伝言とかは、わたしがしておくから」
「そう、ですね。今日は私も少し疲れました」
「わたしの部屋、使っていいぞ」
「ああ、大丈夫ですよ。私はここで」
そう言って、マクシミリアンは椅子に腰かけたまま目を閉じた。
休むことも、寝ることも必要のない体らしいが、体はともかく心には休養が必要だ。
同胞たちの戦いを見て、マクシミリアンも感じることがあったろう。今は、休ませてやりたい。
リリアは、休むマクシミリアンを置いて、村長の家へ向かった。
伝言は短く。もう騒動は終わったことと、残った龍族もすぐに飛び立っていくこと。村長は心底から安心したように、何度も礼を述べてきた。
――まあ、わたしは見てただけなんだけどな……。
王都へ戻るための手段も、用意してくれるそうだ。あと少しだけ滞在することを告げると、村長は村で取れる野菜やら果物を何でも持っていくと言ってくれた。
「あー、だいじょぶだいじょぶ。むしろ、貰いすぎてるくらいだし、気にすんな」
「いえ、今回の件が無事に済んだのも、勇者様と、他の方々のおかげです。お礼をさせてください」
「あー……」
村長はとにかく、お礼、と言ってあれこれ用意してくれた。
翌日になり、リリアとマクシミリアンが起きてみると、村中の人間全員がそろって野菜、果物、獣肉まで持ってきた。
さすがに食べきれないと判断して、リリアたちは村で宴会を開くことにした。食べきれないなら、村の皆で。事が済んだのだと、全員で喜んで。
遅く起きてきたラミなど、村の様子を見て言葉を失っていた。説明と説得して、なんとか宴会に参加してくれた。
ラミの顔は、いくらか晴れやかになっていた。龍族たちの件で、自分の心に少し折り合いがついたのかもしれないと、リリアは思う。
その折り合いが、良いか悪いかは判断できない。決めるのはラミで、リリアとマクシミリアンは、ラミの結論を受け入れるのみ。
さらにその翌日には、リリアたちは村を出立した。村人たちに別れを惜しまれて、これはこれで大変だったが。
王都への道は何事もなく順調だった。着けば、いつも通りに報告をして、終了だ。
もはや馴染みとなったカフェに赴き、
「一件落着、か」
「どうしました? 珍しく殊勝な声なんか出して」
「うっせ!」
もはや定番化した時間を過ごしつつ、リリアは思う。
――わたしは、亡くしたくないな。でも、そのために、わたしは何ができるんだろう?
勇者としての肩書きしかない自分。お飾りの聖剣と聖鎧。力を持たず、思いだけを抱くことに、リリアは落ち込み、
「……私たちは大丈夫ですよ、勇者さま」
「……うん」
温かい言葉を貰って安心する。
亡くす日が来ないよう、誰とも分からぬ何かに祈る。
10,000PVを突破しておりました。これも個人的な快挙です。
読者の皆様、ありがとうございます。




