7 勇者リリアは明かす
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『エルテル城塞』での騒動から二日。まだリリアたちは城塞にとどまっていた。
パーティメンバーであるラミが、ふさぎ込んで部屋から出てこなくなってしまったからだ。
置き去りにはできず、強引連れだすこともできず、時間がかかっている。
裏切り者だったとはいえ、ルシアナはラミにとってそこまで大切な存在だったということか。
カーライル卿には、ルシアナは死んだと素直に伝えてある。そのため、事情を察した老騎士は何も言わずにリリアたちに時間をくれている。
魔族との内通については何も言っていない。ルシアナは魔族によって殺された、とそれだけだ。
嘘ではない、とマクシミリアンは言った。真実を伝えても混乱を招くだけだと。
リリアは理解している。とはいえ、
――どーすっかなあ。
ラミにどう接したらいいのか、リリアには分からない。
もしも、自分がマクシミリアンと死に別れしたら、
――わたしも似たようなことになるんだろうな。
なんとなくだが、予想できる。だから、なおさら何も言葉が思い浮かばない。
マクシミリアンもお手上げだと言っていた。
「私もルシアナを消すつもりでした。そんな私が何を言っても、意味はないでしょう」
――まー、確かにな。
リリアは無言で、天井を見上げるばかり。背にあたるベッドは硬い。
任務は終わっている。道中施してきた結界はきちんと働いているようで、『エルテル城塞』への補充要員も無事にやってきた。
魔族との戦闘も、あれから起きていない。魔族の方はかなりの損害を被ったはず。しばらくは静観が続くだろう。
結論の出ない自問に今日も一日費やすかとため息を吐いた時、扉が叩かれた。
「開いてるよー」
マクシミリアンだろうか。
天井に向けていた視線を、扉に。すると、入って来たのは、
「……失礼します」
ラミだった。
「おう、調子よくなったかー?」
意外な客人だったが、リリアは臆さずにいつも通りの調子を作る。
対するラミは、未だに暗い顔。何をしにきたのかと、言葉を待つ。
「勇者様、この前聞いた質問、もう一度伺いに来ました?」
「この前?」
「はい。なんで、勇者様がレベルを上げないのか、です」
「それならマックスに聞けって言っただろ?」
「アタシは、勇者様から聞きたいんです」
「なんで?」
「ルシアナは勇者排除派だと、マクシミリアン様は仰いました。排除派のことは、私も知っています。勇者様が、勇者として戦わないことに、不満を持っている人たちですよね?」
「そうだな」
「だから、アタシは勇者様から聞きたいんです。ルシアナがああなった原因は、勇者様にあるんじゃないですか?」
「なんだ、わたしを責めに来たのか」
――まあ、確かに悪いのはわたしだしな。
リリアは、勇者というものが嫌いだ。だからといって、勇者という天職を返上することはできない。
リリアが勇者を捨て去るには、二つの方法がある。
一つ目は、魔族の王を倒すこと。
二つ目は、リリアが死ぬこと。
一つ目はともかく、二つ目の選択肢を、リリアは選ぶつもりはない。昔ならばともかく、今はマクシミリアンという友達がいる。孤独と恐怖を感じていたばかりの、あの頃とは、もう違う。
リリアは、強くなれない。マクシミリアンとの約束が、リリアのレベルを制限している。
これについて、言い訳するつもりはないし、説明して理解してもらえるとも思っていない。
だが、今のラミには何をどう説明、弁解しても意味がないと思う。
「答えてください。答え次第では……」
「わたしを殺すか? 今さら?」
「っく!」
ラミは精霊を呼ぼうとし、
「……お願いします。答えを」
すぐに、自制した。
感情が爆発する寸前か。
「お前が納得するような答えは持ってないし、そんな答え、どこにもないだろ。殺すなら早くしろ、抵抗するけど」
「答えてください!」
「無理」
「答えろ!」
ラミは、精霊を呼ばない。リリアも、聖剣を抜かない。
「……わたしは、別に勇者をやりたいなんて思ってない」
何を言っても無駄ならば、せめて素直に言うとしよう。
「ちっさい頃から、勇者勇者言われてきたけど、一回も嬉しいと思ったことはない。勇者なんて天職、渡せるならそこいらの野良犬にやってもいい」
「なら、なぜ勇者を……!」
「死ぬ気はないからな」
「ならば、せめて振る舞いくらいは! お前がそんな態度だから、排除派なんて生まれるんだ!」
確かにな、とリリアは無感動に思う。だが、
「わたしが何をしたって、強くはなれない。魔族王なんて倒せるもんか」
「諦めているんですか!?」
「前にも言ったろ、約束なんだよ、マックスとの」
「なんでマクシミリアン様が出てくる! あの方は関係ないはずだ!」
「あるんだよ、それが。わたしが生きてるのはマックスのおかげだし、でも、マックスとの約束があるから強くなれない」
「訳が分からない!」
ラミは、拳を固めて、必死に耐えているようだった。
リリアは諦め、
「わたしは勇者として成長できない。魔族を何百倒しても、1レベルも上がらない。それが、マックスとの約束だ」
「共有術式を使えば……」
「人間の魔法なんかじゃどうしようもないんだよ」
言ってから、上着を脱ぐ。
「なにを……」
「いいから見ろ」
そう言って見せるのは、背中。
「……それは……?」
ラミの言葉から、怒りが抜けた。同時に来た新しい問いに、答える。
「これが、わたしとマックスの約束だ」
レイアウトの変更なとを考えております。
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